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不死の国のアリス  作者: 幽幻乃 紫
第六章「城」

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二十九話「城の愚門」

ドォン!

アリスは絨毯に足を取られ、勢いよく床へ倒れ込んだ。

体を強くぶつけて、あちらこちらが痛い。


痛みをこらえて立ち上がろうとした。

しかし、足が震えてうまく起き上がれない。


痛みからの震えではない。

恐怖。

恐怖心が痛みに勝り、アリスの体を震わせていた。


アリスは決死の思いで後ろを振り向いた。

骨になった老人はそこに居なかった。


安堵したアリスは、しばらくその場に座り込んだ。


「なぜ、ずっとうずくまっているカァー?」

突然、アリスの前から声が聞こえた。


アリスは顔を上げた。

そこには、重厚で黒に近い茶色の両扉があった。

扉には、黒鉄で作られた烏(からす)の装飾が施され、

烏の目には漆黒の宝石が埋め込まれている。


扉の上には看板があり、そこには本の絵が描かれていた。


本の看板があるなら、ここが書庫よね。


老人が指した方向には、確かに書庫があった。

しかし、あの老人が何者なのか、考えるたびに骨になった姿が頭に浮かぶ。

アリスは老人の姿を頭の中から追い出した。


とにかく、いまは書庫に集中しよう。

知りたい情報が手に入ったら、こんな城から出て行こう。


アリスはドアノブに手を掛けようとした。

しかし、できなかった。

というのも、なかったのだ。

ドアノブが。


ないのなら、仕方ない。

アリスは扉を押した。


まったく開く様子がない。


「なにを馬鹿げたことをしているの、カァー?」

さきほどと同じ声が聞こえてきた。

その声は甲高く頭に響く。


「誰? 姿を見せて!」

アリスは周りを見渡して言った。


「馬鹿だなー。」

「目の前に居るのに見えておらんの、カァー?」

さきほどよりも低い声が響き、語尾につく烏のような鳴き声が耳障りだった。


声は明らかに扉から聞こえてきた。

たぶん、装飾された烏が話しているのだろう。


アリスがしばらく扉を見つめていると、

「馬鹿げた顔に、馬鹿げた姿をしている。」

「カァー。」

言い忘れたのか、慌てて語尾を付け足した。


「ゴホン。」

アリスは咳払いをしてひと呼吸ついた。

「この先が書庫なら中に入りたいわ。扉を開けてもらえないかしら?」


「カァー、カァァー、カァァー。」

二羽が一緒に鳴き出した。


まるで笑っているように聞こえた。

アリスは嫌な気持ちになった。


「馬鹿な小娘。看板を見ればわカァーる。」

高い鳴き声が響いた。


低い声の烏が皮肉を言ってきた。

「そんなことを言うな、きっと本を読んだことがなカァー。」


アリスは、烏だからと無理やり語尾にカァーをつけている方が、よほど馬鹿らしいと思った。

この考えは黙っていた方が得だと判断した。


「扉を開けてくれるかしら?」

アリスは苛立ちを抑え、もう一度聞いた。


「知恵のない馬鹿者よ。」

高い声の烏が叫んだ。

それに続いて低い声の烏が、

「我々が出す問題に正解すれば、」

二羽の烏が同時に、

「扉を開けてあげよう。カァー。」


アリスは烏の口調に苛立ちを覚えた。

しかし、その苛立ちを表情に浮かべないように、拳をぐっと握りしめた。


「わかったわ。それなら早く問題を出して!」

「かぁー。」

アリスはわざとらしく烏の鳴き声を真似た。


「いつも一緒にいて、まったく同じ動きをするもの、なーんだカァー?」

高い声の烏が問題を出した。


アリスは少し考えてから答えを言った。

「案外、簡単な問題ね!」

「答えは、影でしょ。」


「不正解、不正解!」

烏が馬鹿にしたように叫んだ。


「え?なんで?影で正解でしょ!」

アリスは不正解と言われたことが理解できなくて、もう一度聞いた。


「不正解、不正解!」

烏は先ほどよりも大きな声で叫んだ。

「正解は、影法師(かげぼうし)!」


「かげぼうし?」

「何それ?聞いたこともないわ!」

アリスは烏にも負けない声で叫んだ。


「影法師は影の化け物だ、カァー!」

烏は当たり前のように言った。


答えを聞いたアリスは納得できなくて、大声で叫んだ。

「影の化け物ですって?」

「そんな生き物、聞いたことないわ。」

「それに、影の化け物が答えになるんだったら、」

「影も正解でしょ!」


「不正解!不正解!」

「次の問題を出す。カァー。」


アリスは、不正解でも次の問題に行けるんだと思った。


「長い眠りについて、やがて目覚める。これなーんだ。カァー?」

こんどは、低い声の烏が問題を出した。


……。

アリスが黙っていると烏が茶化してきた。

「わからん、カァー?」


「簡単すぎて、固まっていただけよ。」

「だって、問題の中に答えがあるもん。」

「答えは、睡眠でしょ!」

アリスは得意げに言った。


「不正解、不正解!」

烏の鳴き声がアリスの頭の中に響き渡った。


「正解は、昏睡!」


「こんすい?」

「こんすいって何よ?」

「さっきから聞いたこともない言葉を正解にするなんて、卑怯だわ!」


「次が最後の問題だ。カァー。」

「烏と書き物机は、なぜ似ている。カァー?」

二羽の烏が一緒に叫んだ。


アリスは怒りを爆発させ、金切り声を上げた。

「そんな問題の答えなんて、知らないわよ!」


「正解、正解!」


アリスは呆気にとられた。

「正解?」

「なに……が?」


烏はアリスを馬鹿にするように叫んだ。

「正解、正解!」

「烏と書き物机は、なぜ似ている。カァー。」

「我々も知らない。」


「そんな問題……。」

アリスは大きく息を吸った。

もちろん、積もり積もった怒りをぶつけるためだ。


ゴォォー。

扉がゆっくりと開いた。

アリスは扉の音にも負けないほど大声で汚い言葉を叫んだ。

烏に聞こえたのかはわからなかった。

ただ、アリスの気分は晴れた。

軽快な足取りで扉を通り抜けた。



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