↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の国のアリス  作者: 幽幻乃 紫
第六章「城」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

二十七話「城の住人」

アリスの前には、濃い茶色の巨大な扉がそびえ立っていた。


扉の中央にはハートをかたどった紋章が施され、紋章の中には大きな斧が刻まれていた。

紋章の上には、赤い宝石をあしらった王冠が描かれている。


アリスは扉までつづく石の階段を上る。

階段の中央には、赤い絨毯が扉まで敷かれていた。


アリスが扉の前に立つと首飾りが赤く光り輝いた。

扉はアリスを招き入れるように開いた。


アリスは扉の雰囲気に圧倒され、後ろに下がった。


ゴクリ。

唾を飲み込み、決意を固めた。

アリスは拳を握りしめて、ゆっくりと城の中に入っていく。


扉を通り抜けた先は、玄関広間につづいていた。

アリスがこれまで訪れたどの屋敷の広間よりも、大きく立派であった。


天井からは白い宝石が飾られたシャンデリアが吊るされていた。

宝石は光を反射して輝き、床には白と黒の大理石がチェス盤のように敷き詰められている。


正面には二階へとつづく白を基調とする大きな階段が広がった。

中央を彩る豪華な赤い絨毯が階段に敷かれている。


階段を上った先には、巨大な鏡が壁に埋め込まれていた。

正面は壁で行き止まりになっており、二階の通路は左右に分かれていた。

一階も二階と同様に、左右に城の奥へとつづいている。


「うわー。とても広くて豪華!」

城内の煌びやかさと広さに圧倒され、アリスは思わず声を漏らした。

広間を見渡すのに、首を右から左へと百八十度動かす必要があった。


アリスは書庫がどこにあるのか考えた。

なんとなく書庫は一階にある気がする。

とりあえず左の廊下を進むことにした。


廊下を進むと、女王様の胸像がいくつも並んでいた。


その像を子供が磨いていた。

子供ですら召使にする女王様に嫌悪感を抱いた。

書庫の場所を聞こうとしたとき、違和感に気が付いた。


髪がなく、子供の頭は緑色だった。


アリスは思わず二度見した。


子供だと思っていた者は服を着ている蛙だった。

蛙は立派な黒の礼服を身にまとい、二本の足できっちりと立っている。

胸像を器用に雑巾で磨く姿は、なぜか気持ち悪かった。


さらに、何匹もの蛙が城の廊下を掃除していた。


「こ、こんにちは!」

アリスは情報を得るために、近くにいた蛙に声をかけた。


蛙はびっくりして、アリスを見たまま固まった。


「仕事熱心な蛙さん、このお城に書庫はありますか?」

アリスは機嫌を損ねないように蛙をおだてながら聞いた。


「誰だ?どうやって入って来た?」

蛙の声は小さく、アリスは耳を澄ました。

「そんなことよりも、綺麗にしなければ……。」

蛙はぶつぶつと独り言を呪文のように唱えた。

そして、像を磨く作業に戻った。


「扉が勝手に開いたのよ。」

アリスは蛙に聞こえないように小さな声で言った。


「お嬢さん、どきな!」

アリスの後ろから、威張った女の声が聞こえた。


アリスは後ろを振り返った。

そこには、杖を持つ年老いた蛙の姿があった。


蛙の眉間にはシワがいくつもあり、

口には赤色の口紅がたっぷりと塗られている。

大きな真珠の首飾りを下げ、毛糸で仕立てられた紫色のローブを着ていた。


年老いた蛙はアリスを杖で叩き、無理やり壁に押しやった。


アリスは叩かれる体を手で庇いながら叫んだ。

「痛い、叩かないで!」


「おどきなさい!それとも、燃やされたいのかい?」

蛙はそう言いながら、杖で後ろを指した。


杖で指された先には、アリスを驚愕させる生物がいた。

その生物の見た目はたぶん蝸牛(カタツムリ)だろう。


人よりも巨大な赤い体に、馬車の車輪ほどもある漆黒の殻を背負っていた。

この生物の一番不思議なところは、赤い体が燃えていることだ。


アリスは口を開けて呆然としていた。

年老いた蛙はアリスの表情を見て、ニヤリと笑った。


「お嬢さん、炎蝸牛(ファイヤースネイル)を見るのは初めてかい?」

「まぁ、珍しい種族だから、驚くのも無理はないがのう。」

蛙は得意げに語り出した。


「こやつの前に出した物はなーんでも食べる。」

「そしてなぜか、燃えるのじゃよ!」

「お嬢さんくらいの大きな者も食べるから気をつけな!」

アリスを杖で指し、蛙は醜い表情にお似合いの下品な笑い声を上げた。

「ヒャ、ハァ、ハァー。」


「失礼な笑い方ね!」

アリスは素直に思ったことを口に出した。


蛙はむっとし、明らかに不機嫌になった。

「体が燃える理屈がわかっていないの?」

「それに、廊下に居たらお城が燃えないの?」

アリスは蛙に聞いた。


「な、なんで燃えるのか?」

「そんなもの、知らんわい。」

蛙はうろたえながら答えた。


「城が燃えないかですって?それは問題ないのよ。」

「だって、この子達がいるからね。」

そう言うと蛙は炎蝸牛の足元から、何かを掬(すく)った。


それは、アリスの手よりも少し小さい生き物だった。

「キャー。」

アリスは小さな悲鳴を上げた。


「蛞蝓(ナメクジ)みたいで気持ち悪いわ。」

アリスは顔を横に向けて、蛙が持ち上げた生き物を見ないようにした。


「あらまぁ、すごく可愛いのに。気持ち悪いなんて失礼しちゃうわね!」

「この子達は、雨虎(アメフラシ)よ。」

「口から水を出して燃えている床を消火してくれるの。」

蛙は雨虎の体をよしよしと撫でながら言った。


「この子達ってことは?」

アリスは炎蝸牛の足元を見た。

そこには、数匹の雨虎が炎を忙しそうに消していた。


小さな生物がうじゃうじゃと蠢(うごめ)く姿はとても気持ち悪い。

アリスの体中に鳥肌が立ち、思わず視線をそらした。


「早く、ここを通り過ぎて欲しいわ!」

アリスは少し怒った声で言った。


「ふん!」

「生意気な小娘だこと。」

蛙は雨虎をアリスの方に向けて強く握った。

雨虎はグニュと音を立て、口から液体を吐き出した。


液体はアリスの顔に見事に命中した。

「キャー!」

思わず悲鳴を上げた。


「顔も醜いうえに性格もひん曲がっているわね!」

アリスは怒りに任せて蛙を罵った。


「やかましい。お黙り!」

「髪飾りの薔薇とおなじく、あなたの心も真っ黒に染まってるわね。」

蛙はアリスの悪口に負けじと、嫌味を口にした。


「……え?」

「今、なんて言ったの?」

アリスは蛙の言葉を聞き返した。


「あなたの性格は醜いと言ったのさ!」

「言葉も理解できないとは、愚かなむす――」

蛙の言葉をアリスが遮った。


「違うわ、薔薇の髪飾りを何色と言ったの?」

アリスは怒ることも忘れて、蛙に聞いた。


「色かい?黒だよ!」

「まさか、自分が着けている髪飾りの色も忘れたのかい?」

蛙がアリスを憐れんだ目で見た。


「黒?え、本当に?」

アリスはもう一度たしかめた。


蛙はなにも言わずに、アリスを邪魔だと言わんばかりに杖で押しのけた。

その後、蛙はゆっくりとアリスの前を通り過ぎた。


気持ちの悪い集団が蛙の後を追う。


アリスは体を壁にぴったりと押し付けて、一行が過ぎ去るのを待った。


少し時間が過ぎて、アリスは髪留めを外した。

薔薇の色は、確かに黒だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。