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不死の国のアリス  作者: 幽幻乃 紫
第六章「城」

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二十六話「城の庭」

ギーーイ、ドシャン。


城門が閉まる音が静けさを破る。


この城の中に知りたい答えが見つかる。

アリスはそう思い、期待に胸を膨らませた。


そして、ゆっくりと歩き出した。


城門の先には、石畳の道が続いていた。

その道を進むと、中庭が姿を現した。


アリスは隅々まで手入れの行き届いた広大な庭に、圧倒されていた。


カシャン、カシャン。

大きな音が響く。


アリスはその音がとても懐かしかった。

子供のころ、まだ父が元気だったときに、

白髪で優しい笑顔をした庭師を雇っていた。


庭師は高齢だったけれど、庭仕事をするときは力強く、

カシャン、カシャンとハサミの大きな音を奏でていた。


目を閉じれば、今でも庭を手入れする音が聞こえ、草木の匂いまで蘇ってくる。


庭師は歳を重ね、次第に体が言うことを聞かなくなり、

父が病気になる数年前に仕事を引退していた。


お父様が亡くなり、葬式を開いた日に庭師のおじさんも来ていた。

おじさんも涙を流していたっけ、あの涙は本物だった。


アリスは懐かしさに浸りながら、庭を手入れする音に近づいた。


音の正体を知ったアリスは驚いた。

そこには、人と同じ背丈で作業服を着ている奇妙な生物がいた。

六本の手を駆使して器用に草木を手入れし、顔にはいくつもの目玉が並んでいた。

その姿は、巨大な蜘蛛(くも)そのもので、二本の足で器用に立っていた。


アリスは異形の蜘蛛に恐怖を感じ、気味の悪さから鳥肌が立った。


蜘蛛のギョロっとした目玉がアリスを見た。

アリスの体は固まり動けなかった。


蜘蛛は手を止め、すべての目玉をアリスに向ける。


アリスが動かないことに安心したのか、庭の作業に戻った。


「ふぅー。」

アリスは安堵のため息をついた。

その場から逃げ出すように庭を進んだ。


ひらけた庭の中央まで来た。

庭の中央には、円状に石で囲まれた大きな空間があった。


普通の庭なら、豪華な噴水でも置かれていそうな場所。

しかし、この世界は違う。

大きく禍々(まがまが)しいギロチンが置かれていたのだ。


このギロチンはただの飾りではない。

刃(やいば)には古い血の跡が染みつき、周囲にはまだ新しい血が残っていた。


蜘蛛がモップを使い、床に付着した血を丁寧に掃除していた。

この城では、処刑が日常に溶け込んでいる。


アリスは一瞬、恐怖を覚えた。

しかし、その恐怖はすぐに薄れていった。


少し前なら、

血を見たら顔を背けて、吐き気すらこみ上げていた。

しかし、今は平然と血だまりを見ていられる。


この世界での体験が、少しずつアリスの心を変えていた。

その変化にアリスは戸惑いを覚えた。


カシャン、カシャン。

草木を刈り込む音で、アリスは我に返った。


気が付かないうちに庭の奥まで進んでいた。

目の前には、赤い薔薇で作られた見事なアーチがあった。


アーチの両脇には、草木で作られた像が鎮座していた。

その像は王冠を被り、太々しい表情をしていた。


この城の女王なのだろう。

蜘蛛が丁寧に伸びた草木を剪定(せんてい)している。

金色のハサミを使って。


薔薇のアーチの先には、正面玄関へ続く屋根付きの回廊が見えた。


アーチを通り抜けて回廊を進もうとしたとき、

回廊から聞き覚えのある渋い声がした。


声のする方を見ると、そこにはまた白兎がいた。


アリスは女王の像に隠れて様子をうかがった。

白兎は焦った様子で回廊を行ったり来たりしている。


「いつ失くしたんだ? どこで落としたんだ?」

独り言とは思えないほど大きな声が、回廊の天井に跳ね返り響いた。


「あのラッパがないことが女王様にばれたら、間違いなく打ち首だ。」

「いいや、それどころか、この国から追放の命を受けるかもしれない。」

白兎は熊に乗っていた時の横暴な態度とは違った。

獣に狙われる小動物のように体を震わせる。


そのうち兎は疲れたのか、床に大の字になって寝そべった。

アリスはこっそりと兎に近づいた。


突然、兎が叫び出した。

アリスは姿がばれたのかと思った。

しかし、兎は失くしたものを嘆き悲しんでいるだけだった。


「ラッパ~!」

「魔法のラッパはどこなんだぁ?」

「あれを吹けば勇気が出る。」

「臆病で役立たずの熊はラッパを吹かなければ、何もできない。」

兎はどこからか瓶を取り出して口を付けた。


「あの小娘に会ってから、不運が続いていやがる。」

「次に会ったら、必ず殺してやる!」

白兎の口調は次第に強くなり、気が付けば暴言を吐いていた。


瓶の中身はお酒なのだろう、白い毛が薄い赤色に染まっていく。


アリスは鞄の中に手を入れた。

金属の冷たい感触が伝わってくる。

それはラッパだった。


ここまで来るのにいろいろな出来事があった。

だから、アリスはラッパのことなんてすっかり忘れていた。


「返した方がいいのかしら?」

アリスは首を傾げて考えた。

兎と会ったときのことを思い出していた。


「もともとは、熊と兎に追いかけられてここに来たんだもん。」

「ラッパを返す必要はないよね。」

アリスは兎の横を忍び足で通り過ぎる。


兎は大きないびきをかいて寝ていた。


アリスは兎の顔を見ながら、哀れに思った。


横を通り過ぎるアリスを見逃したなんて、

女王様に知れたらとんでもないことになるんだろうな。


庭のギロチンを思い浮かべて、思わず体が震えた。

しかし、アリスは罪悪感をまったく感じなかった。


寝ている兎に小さく手を振って、お別れをした。


アリスは回廊を抜け、巨大な両開きの扉まで進んだ。

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