二十三話「赤の工場」
工場の入り口には誰の気配もない。
扉は開いていた。
アリスは堂々と工場の中に入った。
ガシャン、ガシャン。
ギィーコ、プシュー。
錆びている歯車が回り、蒸気が勢いよく吹き出す。
機械の動作音が工場のいたるところで鳴り響いていた。
耳障りの音を嫌って、アリスは耳を塞いだ。
工場の中をずかずかと進んでいった。
歯車を回し、装置を動かしている赤い鎧を着た兵士を見つけた。
アリスは大きな声で、
「こんにちは! こちらの工場では、なにを作っているのかしら?」
返事は返って来ない。
「す、い、ま、せん!聞こえますか?」
アリスはさらに大きくハッキリと言った。
……。
兵士はもくもくと作業に没頭していた。
アリスは他にも作業する兵士を見つけて話しかけた。
しかし、答えてくれる者は誰もいなかった。
諦めて、工場がどんな物を製造しているのか探すことにした。
工場はとても広く、アリスはさらに奥へ進んだ。
ガッコン、ガタガタ、プシュー。
機械音が響く。
アリスの額に汗が浮かんでいた。
「蒸し暑くて苦しいわ。」
奥へ進むほど熱気が増していった。
人の気配は消え、機械だけが動いていた。
錆び付いたコンベアが工場の奥まで続いていた。
棒状の機械が上下に動き、コンベアの上の何かを何度も押しつぶしていた。
アリスはコンベアにさらに近づいた。
コンベアにはハート型の金型が並んでいた。
その型に赤い液体が注がれていく。
液体は棒状の機械で何度も圧縮される。
圧縮されるたび、少しずつハートの形になっていった。
「ここは、お菓子の工場だわ!」
アリスは赤いハートのお菓子を見て叫んだ。
流れていくハートのお菓子を必死で追いかけた。
コンベアは壁に開いた穴へ続いていた。
アリスもお菓子を追い、そのまま穴の中へ入っていった。
穴は工場の外に繋がっていた。
外では、赤い鎧を着た兵士達がハートのお菓子を紙で包み、箱に入れていた。
その箱を他の兵士が荷車に積んでいた。
「速く運ばなければ、女王様がまた機嫌を損ねる。」
荷物を運ぼうとする兵士が忙しそうに不満を言った。
アリスは我慢できずに工場から流れてくる、お菓子を手に取った。
「熱い!」
お菓子は焼けるように熱く、思わず手を離しそうになった。
指先は赤く腫れていた。
驚くことに、お菓子は溶けていない。
それどころか、固まっている。
フーフーとお菓子に息を吹きかけた。
ガリ!
アリスはお菓子をひと口食べた。
ガリ。
またひと口。
手が止まらない。
「なにをしているんだ。それは、女王様のものだぞ!」
兵士の怒りの声が響く。
アリスは驚き、思わず手を上に掲げる。
手に持っているお菓子は離さないように、しっかりと握った。
「決まった個数を納品できなければ、過ちを起こした我々の禊が……。」
兵士はガックと膝を落とした。
「これ以上の罰は…罰は、打ち首…。」
「さらに、投獄になるんだぞ!」
兵士は怒りにまかせて地面を叩いた。
兵士達の視線がアリスに集まる。
皆が一斉に怒りの声を上げる。
工場の機械音と兵士たちの怒号が重なった。
アリスの耳が壊れそうなほど響いた。
「ごめんなさい。」
アリスはハートのお菓子を手に持ったまま、急いでその場から逃げた。
兵士の怒りの声は、鳴り止まない。
遠くまで走ったアリスは立ち止まった。
兵士たちが追ってくる様子はない。
アリスは夢中でお菓子を食べた。
その後、城を目指して歩いた。
笑顔を浮かべながら。




