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不死の国のアリス  作者: 幽幻乃 紫
第五章「赤の旅路」

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二十二話「赤の領地」

アリスは怯えた様子で空を見た。

百舌鳥について少し知識があったからだ。


結婚式の少し前、百舌鳥について書かれた本を読んだことがあった。


東洋の周辺に生息している鳥で、

狩った獲物を木に張り付ける獰猛な鳥とも書かれていた。

その習性は謎で、動機が解明されていないらしい。


本には百舌鳥の絵や容姿については、残念ながら書かれていなかった。


もし、アリスよりも巨大な百舌鳥が襲ってきたら――。

そんな想像が頭をよぎり、警戒しながら慎重に進んだ。



アリスは兵隊のいた場所からだいぶ遠くまで歩いてきた。


「ふぅー。」

鳥が来ないことに安堵し、緊張の糸が解けた。

それと同時に、頭の中に赤の芸術が浮かんだ。


アリスの手に赤い血が付いている。

すぐさま、服で拭った。

嫌悪感と吐き気がこみ上げてくる。


立ち止まり、体と心を休ませた。

必死に頭を横に振り、嫌な光景を取り払った。


気休め程度にしかならない。

それでもよかった。


顔を上げたアリスの視線に立派な建物が映り込む。

それは、遠くの丘にそびえ立つ城だった。


アリスは城を目指して進んだ。



やがて、道に看板が立っていた。


古臭く汚い看板と、豪華な看板の二つが立てられていた。


古臭い看板は左の道を指していた。

豪華な看板は、真っすぐ城の方向を指していた。


汚い看板には、

「アラン・アブソルムの隠れ家。」

とだけ書かれていた。


「うーん?どこかで聞いたことある名前ね?

どこだっけ?」


「それよりも、隠れ家を看板で示して、いいの?」

「場所を隠さない隠れ家なんて、はじめて聞いたわ。」

アリスは素朴な疑問を口にしていた。


豪華な看板には、

「ここから先、赤の領地。

女王様に逆らう者、打ち首の刑に処す。

女王様に平伏すもの、打つ首のほまれあり。

女王様、万歳!!」


ハートに斧の印とともに、書かれていた。


「女王様に逆らっても、平伏しても、打ち首になるのね。」

「酷い女王様ね!」


「赤い鎧を着ていた人は、赤の領土を目指せと言っていたけど…。

女王様に会いに行っても、いいのかしら?」

「不安だわ。」


アリスは女王に危険な香りを感じた。


しかし、立派な城と豪華な看板に惹かれ、赤の領地に足を進めた。


赤の領地に踏み込んだアリスを待ち受けていたのは、

‥‥‥‥何も変わらない景色と音。


領地に入り込んだら、赤い何かが来ると思っていた。

しかし、何も起きない。


残念な気持ちと安心感が同時に沸き起こった。


「何も起きていないのに、なんだか複雑な気分だわ。」

「この世界はやっぱ不思議な世界ね。」


アリスは城を目指して赤の領地を進んだ。



歩いても、歩いても城との距離は縮まらない。

アリスはどれくらい大きな城なのか、想像してみた。


「お城に書庫はあるかな?」

城の中を思い浮かべながら、疑問を口にした。


「もしかしたら、青虫の情報を得られるかもしれない!」

想像はさらに膨らんだ。


「この世界の地図も欲しいなぁ。」

願いを口にしていた。


城についてあれこれ想像を巡らせながら歩いていた。

すると突然、

アリスの鼻に甘い香りが届いた。


香りはアリスを現実の世界に引き戻す。

匂いの正体はすぐに想像できた。


アリスの大好きな苺の香りが、広がっていたのだ。


犬みたいに鼻をクンクンと嗅いだ。

匂いに導かれるように走り出した。


香りを辿ると目の前に赤い沼が現れた。

沼から苺の甘い香りが漂う。


赤色の沼は血液にしか見えない。

アリスの頭に先ほどの芸術がまた、浮かんでいた。


しかし、無謀にもアリスは沼に近づいて液体をすくっていた。


液体はとろりとしていて、苺の香りがアリスを誘う。


「嫌なことよりも、好奇心に従わなくちゃね!」

誰もいない場所で、独り言を呟いていた。


ゴクリ。

アリスは迷わずに赤色の液体を飲む。


「美味しい!」

「頬がとろけるほど甘酸っぱい!」

アリスは苺の液体を、お腹が膨れるまでたくさん飲んだ。


「こんな沼が、家の庭にあればいいのになぁ。」

嬉しさのあまり、軽く踊っていた。


汗を流したアリスは、あたりの暗さに驚いた。


アリスは、明日も苺の液体でお腹をいっぱいにしたくて、

「ここで野宿するのもいいわね。」

誰かを説得するかのように言った。



ゴォォォォォ……


滝が流れ落ちるような轟音が響いた。


騒音はアリスを起こした。

目覚めは悪く、不機嫌な表情を浮かべる。


アリスは機嫌を直すために、苺の液体を飲んだ。


「うーん、何だろう? 沼が昨日と違う気がする?」

口に付いた液体を拭いながら違和感の正体を考えた。


「そうだわ! 沼が大きく広がっているわ。」

靴底が濡れるほど沼の水位が増えていた。


他にも異変がないか、沼の周囲を探してみることにした。

ほどなくして、滝の音の正体を見つけた。


赤色の排水管から大量の液体が沼に放出されていたのだ。

赤い液体は轟音を立てながら、沼へと流れ落ちる。


アリスは排水管から出る赤い液体をすくって飲んでみた。

「美味しい!」

「沼の苺と同じ味?いいえ、沼よりも新鮮だわ。」


排水管は遠くからひたすら続いていた。


アリスは管をたどって進んだ。


いつの間にか苺の沼は見えなくなっていた。

それくらい歩いたころに、

遠くから、ガシャン、ガシャンと音が聞こえてくる。


音に近づくと大きな建物が見えてきた。


建物は真っ赤に塗られ、煙突からは煙が立ち上っていた。


排水管もその建物に繋がっていた。


風に煽られて工場の煙がアリスまで漂う。

「え?甘い匂い?」

汚い工場の匂いを想像していたアリスは、思わず声を上げた。


「苺の様な液体に、甘い匂いの煙。」

「工場では、なにを作っているのかしら?」

赤い工場がアリスの好奇心をくすぐる。


アリスは工場に近づいた。



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