二十一話「赤の芸術」
感覚も、視界もなにもない世界。
アリスは、彼女が来るのを待っていた。
そして現れた。
女「あらら、また来たのね。お帰り。」
「お帰りじゃないわよ。
あなたが、騒がしい場所へ行けって言ったから!
また、ここに来る羽目になったのよ!
しかも、今回は食べられた。帽子。帽子によ!」
アリスは、ありったけの怒りをぶつけた。
「あらまあ、それは大変だったね。ご苦労様。」
女は、人ごとの様に言った。
「そんなことよりも、青虫の情報を頂戴!」
アリスは女の態度にさらにイラつき、怒鳴った。
「うーん、そうねー、青虫は頭がいいの、とてもね。」
「それと、本が好き。でね、さらに本よりも好きなものがあるの。
それは、水煙草よ!」
女はいつものようにゆっくりと話した。
「居、場、所、は! ドコ!!」
アリスは吠えた。
「怒鳴るから、教えないよー。」
女はアリスを茶化すように呟く。
「ふざけないで!!」
アリスは空に向かって吠えた。
けれど、叫びは届かない。
気が付くと、元の世界にいた。
「なんで、いつもいいところで戻されるのよ。」
アリスは地面を蹴った。
地面に八つ当たりしたアリスは、少し落ち着きを取り戻した。
改めて、体を確認した。
食べられたのに体に異常がない。
服も新品そのもののように綺麗だった。
この世界は、謎が多過ぎる。
謎の中でも生き返ること、これだけは本当に理解ができない。
「この世界の住民も生き返るのかしら?
……さっきの兎も?」
「うーん、考えれば考えるほど疑問が湧いてくる。
まるで、うーん、まるで……何も思いつかないわ。」
「きっと、お茶会で変な物を食べたからだわ。」
しばらく、その場で行ったり来たりした。
アリスは大きく深呼吸した。
「疑問を解き明かすには、情報が足りなすぎるわ。」
「それじゃあ、行きますか。」
アリスはまっすぐ目の前の道を進み始めた。
しばらく歩くと、気になる木を見つけた。
その木には、鋭利な何かで抉られた文字が刻まれていた。
「赤で装飾された芸術の木、この先。」
さらに歩くと、別の木には、
「作品の名は、『映病贄』。驚くほどに完璧。」
アリスは首をかしげた。
「映…病…贄……?」
「なんて読むのかしら。」
その隣の木に、
「時間喰う者、我なり。天才、即ち我なり。」
と刻まれていた。
「また、時間喰い。しかも芸術家?」
アリスは酸っぱいものを食べたときの様な表情を浮かべた。
木には、不穏なことに赤い血が付いていた。
生々しい血の匂いがする。
血は地面にも点々と続いていた。
痕跡を辿ると、千切れた腕が落ちていた。
アリスは顔を背け、口を塞ぐ。
「た、たすけ…て。」
弱々しい、声が聞こえる。
アリスは見たくないものを見てしまった。
残酷な芸術を。
大きな木に赤い色の鎧を着ている兵士が、木の枝に刺さるように吊るされていた。
一人や二人ではない、数人が飾られていた。
兵士は、血だらけで腕や足が欠損していた。
鎧の胸にはハートの中に処刑人の斧の紋章が示されている。
処刑人が、木に飾られていた。
これの何が芸術なのか理解できない。
アリスは何とか助け出そうと考えた。
近くに、兵士の物だろうか、剣が落ちていた。
剣を拾う。
思っていたよりも重い。
アリスは木を倒そうと、剣を掲げて思いっきり薙ぎ払った。
ゴォン。
鈍い感触がアリスの腕に伝わる。
「痛い!」
アリスは思わず悲鳴を上げた。
剣は木の幹に命中していた。
しかし、幹は少し抉れるだけだった。
アリスは何度か切りかかる。
指から血がにじんでいた。
木に傷がついているが、倒れる気配がない。
「ハァー、ハァー。」
アリスは剣を地面に突き立て、息を整えていた。
突然、幹がミシミシと音を立てた。
木が勝手に揺れる。
揺れはどんどん大きくなり、兵士たちが枝から落ちていった。
アリスはその光景をただ茫然と眺めた。
「ウゥゥ……。」
兵士の呻き声でアリスは我に返った。
「何があったの?」
アリスは比較的に軽傷な兵士に聞いた。
「百舌鳥に作品にされちまった。
しかも作品名は、『はやにえ』だとよ。」
「まったく、俺らを何だと思ってるんだか。
これだから時間喰いのやつらは、恐ろしい。」
兵士はアリスに感謝しながら言った。
「それから、頼む!俺たちにとどめを刺してくれ。」
男がアリスの腕にしがみつき懇願した。
アリスは腕を振りほどいた。
「嫌よ、人も生き物も殺したことなんかない。」
「殺したくもない。」
それを聞いた男は、
「死んでも生き返るんだから、殺してくれ。」
「早くしないと、奴が戻ってくる。」
男の顔に恐怖の表情が広がる。
「無理よ!できないわ!」
「本当に生き返るなら、自分でとどめを刺して。」
アリスは男に剣を渡した。
「できるわけないだろ。自分の命を奪うなんて、怖い!」
男は堂々と主張した。
「兵士でしょ! 勇気を出しなさいよ!」
「できないなら、他の人を助けたら。」
アリスは冷たく言い放つ。
「そうだな、お嬢さん、ありがとう。」
男は頭を下げた。
「それから、早く逃げたほうがいい。」
「百舌鳥は危険すぎる。」
「しかもここら一帯は、時間喰いの縄張りだ。
少し行けば、女王様の領地にたどり着く。」
男はそれだけ言い残して、他の兵士のもとへ剣を引きずりながら向かう。
アリスは決して振り向かないと覚悟を決め、急いでその場を過ぎ去った。
後ろから、剣を振るうような音がした。
その直後、ドシ、と重いものが落ちた音も聞こえてきた。
どれくらい時間が経過したか、ふと疑問が浮かんだ。
「あの兵士が他の兵士の命を奪ったら、誰が自分の命を奪うの?」
「うーんでも、他の兵士が生き返るから、すぐ殺してくれるのかな?」
「いや、そもそも同じ場所ですぐ生き返るの?」
何も見ていないアリスに、答えなどわかるはずもなかった。
「百舌鳥は…。」
言いかけた言葉を飲み込んだ。
アリスは頭を横に振り、百舌鳥のことは何も考えないようにした。
「女王様……?」
「どんな人なんだろう?」
アリスは女王の領地を目指した。




