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不死の国のアリス  作者: 幽幻乃 紫
第四章「お茶会」

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二十話「帽子屋ではない、帽子屋」

「ゴクリ。」

アリスは唾を飲み込んだ。


「そ、その……、探し物していて、さ、先を急ぐ必要があったんだわ。」

額に汗を浮かべてアリスは細々と声を出した。


「そうですか、とても残念です。」

男は悲しい表情を浮かべた。


「もちろん、行ってもよろしいですよ。」

「ただ、探し物は何ですか?」

「我々が知っているかもしれません。」

男の声は優しく穏やかだった。


「ここは、お茶会だ!ゆっくり騒ごう!」

兎から元気な声がする。


アリスは一時の静寂が恋しくなった。


ご機嫌な様子の兎を見てさらに気分が落ち込む。

思わず、俯いた。


気付けば、アリスの手にはティーカップが握られていた。

しかも、紅茶まで注がれている。


紅茶から湯気が立ち、甘い香りが漂う。


促されるように、アリスもゆっくりと紅茶を飲んだ。

少しだけ、気持ちが楽になった。


アリスはマッド・ハッターに聞いた。

「青虫を探しているの。居場所を知らない?」


「青虫は知りませんが、アラン・アブソレムなら知っていますよ。」

帽子屋が帽子をいじりながら答えた。


「アラン…何とかさんではなく、青虫を知りませんか?」

アリスはもう一度聞いてみた。


男は首を横に振った。


「美味しい紅茶をありがとう。それでは、さようなら。」

アリスはお辞儀をして、椅子から降りた。


「アリスが、アリスが…」

また、兎が興奮して耳をピーンと立てて叫ぶ。


「何回も言いましたが、アリエルよ!三月兎さんも紅茶を飲んで!」


「さようなら。」

アリスは平静を装い、その場から逃げようとした。


兎がまた、

「アリスが…」


首が飛んだ。

…兎の。


理解が追いつかない。

何が起きたの?

アリスは声を上げることもできない。

首が落ちるのを傍観していた。


「あまりにも、三月兎が騒がしいので、つい手が出てしまいました。」


「申し訳ない。」

男は帽子を取り、深くお辞儀をした。

鮮やかな橙色の髪の毛が垂れる。


いつ立ち上がったのか?

兎に何をしたの?

アリスは何一つ理解できなかった。


「落ち着いてください。何も心配いりませんから。」

いつの間にか、マッド・ハッターは兎のいた席に座っていた。


「高く飛んだ!吹っ飛んだ~。」

地面の上から、兎の声が聞こえてきた。


「五月兎よ、大丈夫か?」

切り落とされた首が何事もないように話す。


兎の胴体が眼鏡を探すように地面をまさぐる。


「こっちだ。こっち!」

兎の首が、兎の胴体に呼びかけている。


突然、胴体が苦しそうにバタバタもがき苦しんだ。

「いいか。よーく聞くんだ。」

「慌てるな、とにかく息を吸うんだ。息を。」

兎が今までと違い、冷静な口調で言う。


「大丈夫です。頭は三月兎、胴体は五月兎です。」

帽子屋が、真っ青な顔のアリスを励ます。


「ちなみに、四月兎は毛並みが美しかったので、帽子になりました。」

「残念ですが、いまは、手元にありません。」

「申し訳ない。」

男は少し、にやつき答えた。


それを聞いたアリスは、理解するのをやめた。


「そ、それは残念ですこと。」

「兎さんも平気そうですね。」

アリスは、自然と敬語で語っていた。


「そろそろ、お暇させてもらいますわ。」

アリスはぎこちないお辞儀をして、ゆっくりとその場を退出した。


「お嬢さんお待ちなさい!お腹が空きました。」

マッド・ハッターの興奮した声が聞こえてくる。


「ケーキなど召し上がってください。」

「マッド・ハッターさんのお入れになった、紅茶とても美味しかったです。」

アリスは、振り返らないで答えた。


「私、マッドの腹は満たされました。」

「しかし、ハッターの腹は満たされていません。」


後ろにいた、死人の様な白い男が、いつの間にか目の前にいた。


帽子屋の帽子が巨大に膨れ上がり、白色のギザギザの模様が開いた。

中から、赤い巨大な舌が現れた。


帽子は獲物を眺めるように、舌なめずりをして涎を垂らした。


帽子の模様は鋭利な歯だった。

歯には、木の板が挟まっている。


アリスは理解した。

今から食べられることを。


一瞬だった。


痛みはない。


アリスの体が消え。

内臓も骨もなくなり、

血をとどめている器も無い。


ただ、滝の様に血が流れ出た。


アリスは体を食われていた。

気が付いた時には、頭も食われていた。


帽子は満足そうに、帽子屋の頭に戻った。


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