十五話「滑稽」
アリスは颯爽と森を駆け抜けた。
「はぁ、はぁ」
息は乱れ、倒れた木に腰を下ろした。
「さっきの、果物はなんだったのかしら?
あんなものを食べて平気?」
アリスは、体に異変がないか確かめた。
体調はいたって健康そのものだった。
気分も、とても良い。
「グゥースカ、グゥースカピー」
休憩するアリスの耳に、大きないびきが聞こえる。
アリスは音のする方へ、忍び足で近づいた。
そこには、
白兎が仰向けになって、深い眠りについていた。
白兎の手には懐中時計が握られ、
少し遠くに、小さなラッパが放り出されていた。
アリスは、周りを注意深くみた。
熊の寝息も、気配も無い。
足音を立てないように、ゆっくりと白兎に近づいた。
懐中時計が奇妙な見た目だった。
時計の文字盤はローマ数字。
III、VI、IX、XIIの文字は太い黒で大きく刻まれ、
斜めに傾いて読みづらい。
思わず、アリスの顔も斜めに向いていた。
秒針の形は独特だった。
真っ直ぐの秒針。
ぐにゃぐにゃ曲がり、どこを刺しているか分からない秒針。
直角に曲がる秒針。
三本の針は、どれも動いていない。
「こんなので時間を確認しているから、女王様に打ち首にされたんだわ」
アリスは結婚式場で会った、白兎の言葉を思い出していた。
「起こしたら、怒るかな。
縄で縛りつけたら、何か聞けたかもしれない。」
アリスは悔しくなった。
アリスは、他にも変な物がないか辺りを見た。
自然と、ラッパに目がいく。
「もしかして、大きくなっている?」
アリスはラッパに近づいた。
「やっぱり、大きくなっている!」
ラッパを拾うと、アリスの手に馴染む大きさに変化した。
「このラッパも不思議なのね。」
「吹いたら、どうなるかしら」
白兎を見て、いたずらな笑顔を浮かべた。
「ドコォ、ドコォ」
近くから、大きな足音が聞こえる。
アリスは音のする方を見た。
そこにはなんと、
熊が魚を咥えていた。
「キャー」
アリスは悲鳴を上げた。
「な、な、なんだー?」
白兎が飛び跳ね、叫び声を上げる。
自身の体長よりも高く跳んでいた。
「グァーー」
熊が魚を足元に落として叫んだ。
アリスは熊の迫力に負け、腰が引けた。
そのまま、不格好な姿で地面に座り込む。
襲われる、そう感じたアリスは腕をバタバタと動かした。
熊は、踵を返してアリスから逃げた。
アリスは熊の予想外の動きに目を丸くした。
気づけば、口を大きく開けたまま間抜けな顔になっていた。
熊の逃げる姿はあまりにも、
滑稽だった。
足と腕を慌ただしく動かす。
体勢を崩しては、起き上がる。
だが、思ったほど進めていない。
「ア、ハハハァ」
アリスは、声を出して笑った。
「待て! 弱虫目が、逃げるな」
アリスの耳に白兎の渋い声が聞こえる。
白兎は懐中時計を落としては拾い、また落としては拾いながら熊を追った。
「ア、ハハハァ、ワァ、ハハハァ、」
アリスは手を叩き、行儀の悪い笑い声を上げた。
白兎はやがて、視界から完全に消えた。
「ラッパも忘れているよ」
白兎には、聞こえない声で言った。
アリスは、ラッパを鞄に入れてみた。
ラッパは驚くことに小さくなり、カバンの中に納まった。
「それじゃあ、行きますか」
アリスは立ち上がった。
「そこの、お嬢さん
この辺で、緑色のドードをみなかったかい?」
アリスの背後から、知らない男の声が聞こえた。




