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不死の国のアリス  作者: 幽幻乃 紫
第三章「森」

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十三話「退屈」


ゴト、ゴト……ギシッ。


木製の荷車がアリスを運び、きしむ音が森の静寂を破った。

獣道は荷車を引く男たちの体力を奪っていく。


アリスは揺れに促されるように、目を覚ました。


冷たい、木の感覚がアリスの意識をはっきりとさせた。


アリスの手と足は、縄で縛られていた。

だが、口は塞がれていなかった。

(口も塞がないなんて、頭が悪い。)


縄を解こうと体をくねらせる。

解けない。


アリスは腕を持ち上げた。

縄がさらに肌へ食い込む。


表情を少しゆがめさせたが、悲鳴は上げなかった。


アリスは縄を噛んで、めいっぱい引っ張った。


青臭い草の味が口の中に広がった。


それから、鉄の味も微かに感じる。

唇が切れて、出血していた。


「ぺッ」

アリスは唾を吐き出した。


「この辺りは物騒だからな。ささっと、運ぶぞ。」

男の声がアリスの耳に入る。


「は…い」

別の男が弱々しく答えた。


アリスは縄を解くのを諦めて、男たちの会話に集中した。


「女王様も無理難題を押し付ける。

この場所は、ヤツらの住処なのに、迷い込んだ人間を捕獲しろだなんて

そんなの無茶だ。」


気の強そうな男が言った。


「じ、時間…喰いの連中ですよね?

恐ろしくて、こんな仕事やりたくないです。

なんで、こんな仕事に任命されたんですか?」


弱気な男が聞いた。


「俺らに任される前に、他の連中がいたんだ。

ただ、そいつらは時間喰いを怖がって、

命令を実行できなかった。」


「なにもできなかった者の、処遇は下されたのですか?」


「ああ、もちろん。」

「打ち首だ!」

強気の男が語尾を強く言った。


「やっぱり、そうなるんですね」

男の声はさらに弱くなり、震えていた。


強気の男は追い打ちをかけるように、

「いまだに、刑は続いているとの噂だ」

「城の地下で、行われているんだとよ」


「だから、俺たちは奇跡を願うしかないな」


「どんな、奇跡ですか?」


「それはだな、荷車をこのまま引いて、時間喰いに見つからないこと。

土産をしっかりと運んでな。」


「そして、女王様がご機嫌なら、

打ち首の命令はくだされない」


強気の男が答える。


「不機嫌なら?」

弱々しい男が、すかさず聞いた。


「打ち首だ、覚悟しておけ」

強気の男が決意を固めるように言った。


「荷物を届けても、ですか?」

弱々しい男が聞いた


「女王様だからだ」

強気の男が答えた。


弱々しい男は、納得したのか。


荷車を強く引き、速度を上げた。


アリスは心の中で思った。


なんて理不尽な女王様なんだろう。

捕まったら何をされるの?


しばらく、車輪の音がアリスの頭に響いた。


ポツポツとアリスの頬に雨が降った。


雨は次第に強くなってきた。


荷車の速度が落ちた。

やがて、完全に止まった。


ぬかるんだ道に車輪が嵌ったのだろう。


雨の音で、はっきりとは聞こえないが、

男たちの言い合いが耳に入る。


力任せに引いたのか、

荷車が大きく傾いた。


しかし、進む気配がない。


突然、眩い光がアリスの目を襲う。


ゴロゴロ、ゴロ、

ドゴーーン


白い視界の中、雷鳴の地響きがアリスの耳を貫く。


体が勝手に宙へ浮いた。

次の瞬間、地面に叩きつけられていた。


「い…痛い!」


その叫びは、アリスですらも聞き取れなかった。

それほどまでに、騒がしく空は荒れていた。


アリスは水たまりの中にいた。


近くで荷車がひっくり返っていた。

男たちは見当たらない。


「誰だ、オイラの縄張りに勝手に入って来た奴はぁ」


雲から声が鳴り響いた。


「時間喰いだぁー、逃げろぉー」


男たちは猫に追いかけられるネズミみたいに、

尻尾を巻いて逃げていった。


「誰だぁ、」

雲がアリスに近づいてきた。


黒い雲は形を変えて、顔が出てきた。


アリスの表情は強張った。


「そこに、いたのかぁ」

「オイラはクラウディ、雲なんだぁ」


アリスは雲に言った。

「雨と雷でよく聞こえないわ」


「そうかぁ、雨が嫌いかぁ」

雲は悲しそうに空に戻った。


空の雨雲は澄んだ白色になり、周りは少し明るくなった。


「どうだぁ、雨も雷も止めたぞぉ」

クラウディは、アリスに近づきながら言った。


「ありがとう。」

アリスは感謝を伝えた。


「ついでに、縄を解いてもらえる?」

敵意はないと思い、提案してみた。


「痛い」

小さな雷が雲から放たれ、

縄を燃やした。


アリスの腕と足に焦げ跡が残った。


「すまないなぁ、力の加減が難しいんだぁ。

大丈夫かぁ?」


「それから、オイラはクラウディ。

よろしくぅ」


クラウディが優しくアリスに言った。


「さっきも聞いたわ。」

「でも、男たちを追い払ってくれて感謝しているわ」


アリスはスカートの裾をたくし上げて、軽く頭を下げた。


「急いでいるので、さようなら。」

アリスはその場から逃げようとした。


「お嬢さん、急いでどこに行くんだぁ」

クラウディが雲を伸ばして、アリスを包んだ。


アリスは必死に抵抗した。


簡単に雲を振りほどけた。

しかし、雲は何度でも伸びてきて、アリスを包んだ。


アリスは諦めて、雲に言った。

「どこに向かってもいいでしょ」


「そんなこと言わないで、オイラとお話しようよぉ」

「オイラはクラウディ、雲なんだぁ」


「名前は何回も聞いた!」

アリスは語尾を強くして言い放った。


「怒らないで、くれよぉ

人と話すのは、久しぶりなんだぁ

人は、脆くて、弱いんだぁ

雷を浴びるだけで、死んでしまうんだぁ

悲しいなぁ」


ゴロゴロと雨雲を作りながら早口で言った。


アリスは雲を強く振り解き、次々と伸びる雲も振り払って逃げた。

クラウディは、

「オイラの力はすごいんだぞぉ

 雲だからぁ、雨を降らすのもぉ、雷を降らすのもぉ

 簡単にできるんだぞぉ

 見たいかぁ?

 見せてやっても、いいぞぉ

 お願いしたら…」


アリスの耳には、そこまで聞こえた。


雲に気が付かれる前に、森の中を進んだ。


「今回は、楽勝だったわ!」


アリスは優雅に森の獣道を進んだ。


腕と足から痛みを感じた。


アリスは焦げ跡を確認した。


服も焼けていたはずなのに、綺麗になっている。

手首には、しっかりと焼け焦げた跡があった。


「不思議な服ね」

アリスは顔を上げて、森を闇雲に進む。


ゴロゴロ、ゴロ、

ドゴーーン

遠くで落雷の音が何度か聞こえる。


男たちの叫び声が森に響き渡った。


アリスには、聞こえなかった。



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