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EP2(1)

 1



 あれから5年の月日が流れた。


 広々とした大地に立派な社が立っている。いかにも新設らしく、太陽の光を浴びて初々しい輝きを放っていた。ムラの跡地に建てられたものだった。


 いわば、社は故郷が確かにここにあったという証明である。その姿をひと目見ようと、元ムラの住人たちが来ていた。とはいえ、あの頃に生き残った三十余名全員とはいかなかった。これまでで、すでに5人の同胞が亡くなっていたし、体力的に現在暮らすヒノイリノクニの都から訪れるのは厳しいと、帰るのを諦めた者も少なくなかった。それでも、まだ体力のある若者たちが参加を申し出、護衛などのために同行したムラ以外の者も含めると、二十名ほどの人間がこの場所に集まっていた。


「わぁ……すごい」


 社殿を臨みながら、イチコは言った。同胞たちをこんな立派な建物の中に祀ってくれたという感謝と、崩壊したムラの跡地にこれだけ大きな建造物をわずか数年で造れたヒノイリノクニの国力の高さを称える気持ちを含んでの感想だった。


「まったく大したことねえよ」


 だが、彼女の隣に立つ少年が言う。それは、イチコ同様、相応に成長したトワリだった。身体は大きくなってもやや皮肉屋で、余計な一言を口走ってしまう癖は直っていない。さっきのイチコの言葉に、どのような彼女の思いが含まれているのか、理解しようとしていないのだ。

 イチコは一瞬ムッとした顔をしたが、すぐに笑顔を取り繕った。この5年の間に、彼のそういうところは嫌というほど見てきている。この程度の憎まれ口では怒らない。


「じゃあさ、なんで一緒に来てくれたの?」

 と、イチコは彼を覗き込みながら言った。トワリはばつが悪そうに黙り込んだ。


「私のことが心配だったから?」

 と、顔をイチコは突き出した。トワリはちらりとイチコを一瞥したのち、恥ずかしそうに口をとがらせて、

「そういうわけじゃないけど」

 とそっぽを向いてみせる。イチコはにんまりとした。自分はなかなか良い性格をしているものだと我ながら思う。イチコはトワリが卑屈に振舞っていながら、実は誰よりも純朴で不器用な少年であることを知っていた。さりげなくそこを突いて、相手をひるませては喜んでいるのだ。


「お二人さん、相変わらず仲が良いねぇ」


 背後から快活な声が聴こえた。振り返ると、相応に成長したミノカの姿があった。子供のころから整った容姿で通っていたが、今では色っぽさも増し、クニの中でも屈指の美少女として通っている。

 けれど、トワリはミノカのことが苦手らしかった。口でどうやっても勝てないところが、やりづらいのだろう。今も、ニヤニヤとこちらを見てくる彼女に対し、居心地が悪そうに視線をそらしている。そんな彼のことなど一切関心がないふうで、ミノカが言った。


「イチコ、そろそろ時間だよ」


「分かった」


 イチコは短く応えると、社の正殿の方へと向かった。他の参加者たちも彼女の後に続き、社の中へと入っていく。神前には米や酒、その他穀物などの供物が捧げられた。イチコが深々とお辞儀をして、高らかな美声を響かせた。神への祈りを、音程に乗せて天へと捧げる。歌は、彼女が彼女なりに編み出した祈祷の手段の一つだった。


 社には、この地に骨をうずめた人々の魂が祀られている。中でも、ムラの最後の長となった老人は、この場所では最も尊い神として崇められていた。ムラの崩壊からしばらく後、ヒノイリノクニの役人が視察に来たところ、彼は小屋の中で白骨化した状態で発見されたという。その死体は、座った状態から前のめりにがっくりと倒れており、不審な点が多く見受けられたが、その死の真相については分からずじまいだった。

 ただそれでも、彼がムラと最期まで運命をを共にしたことは間違いなく、神と崇められるようになったのである。


 やがて、祈祷と犠牲者たちの鎮魂の儀を終え、イチコたちは社を後にした。次に来るのは来年になるだろう。もっとも、次も同じ面子が揃うとは限らない。病に倒れるかもしれないし、飢饉や干ばつで食糧が乏しくなる可能性だってある。明日の命さえ保証される時代ではないのだ。


 目的は果たしたが、すぐに都までの帰途につくわけではなかった。そもそも、ここまで来るのに何日もかけているのである。一同、しばらくこの場に留まって休んだのち、明日に出立する手はずになっていた。社の近くには、来訪者が休憩できるような小屋も建ててある。


「トワリくん」

 と、イチコがトワリに話しかけた。


「何だよ」


「ちょっと付き合って欲しいんだけど」


 ふいに風が吹いた。イチコは手に大幣を持っている。ムラが崩壊したあの日、マオから託され、以降彼女が後生大事にしているものだった。その紙垂がひらひらと揺れ、隠れていたイチコの微笑んだ口元が覗く。トワリには何となく、彼女にとって大事なことがあるのだと感じた。5年間の付き合いで、彼も彼なりに、わずかな仕草から、彼女のことを何となく察せるようになっていた。

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