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騎竜飼育員はじめました。  作者: 亜新ゆらら
その6.それは、突然に。
35/45

08









「残念だけど、その質問には答えられねぇ。悪いな」


「どうして?」


「んー、知らねぇもんは答えようがないから、かな?」


 さも当然のように言った言葉に、フレディは思わず怪訝に眉を寄せる。


「…あなた、どこの誰かも分からないで言うこと聞いてるの…?」


 呆れてしまった。そんな言葉、信じると思ったのだろうか。しかしもし事実なのだとしたら、それもそれでどうなんだろう。


 そんな気持ちが顔に出てしまっていたのか、男はそんなフレディを見てけらけらと楽しそうに笑った。…なんかムカつく笑い方だった。


「言ったろ? オレはここから出られねぇの。あんたを探して欲しいってのも、ツレが勝手に引き受けて勝手に持って帰ってきた物だ。オレは直接関与してねぇんだよ」


 ふざけるなと言いたかったけれど、心底面倒くさそうに言い放ったその顔に嘘はないように見えた。


 余計に意味が分からなくて、フレディは初めて呆れた表情を貼り付けた。


「じゃあなんで相手が高慢な女だと分かったのよ」


 自尊心の塊のような女だと、先ほどまるで見てきたかのように言ったではないか。


 そんな気持ちを視線に込めて顔をしかめると、男はにやりと笑って見せただけで何も言わなかった。おちょくっているとしか思えないその態度に振り回されていることが分かったけれど、それに気付いたところで苛立ちを覚えるだけだった。


 思わず睨みそうになった視線を必死の思いで堪えたのに、そんなフレディの努力を鼻で笑うように男はへらへらした態度を崩さなかった。


「ま、それは色々とな。だいたいオレに直接持ってきてたら引き受けてねぇよ、そんなの…面倒くさい。オレは女の喧嘩に首を突っ込むつもりなんか無いんだよ。そもそもそんな事をしにここに来たわけじゃない。…少なくとも、オレはな」


「じゃあ何をしに来たの」


「さあ、なんだろうなぁ?」


「……」


「はは、そう怒るなよ。せっかくの美人が台無しだぜ?」


 ムカつく物言いに無意識に顔に怒気が滲んでしまった。ぎゅっと眉を寄せていると、加えてそんなことを言ってくるものだから余計に苛立ちが増した。


(…いやいや、落ち着け。相手のペースに呑まれてどうする)


 からかわれていることは明白だったが、このまま相手のペースに乗せられてはだめだ。この男やる気はなさそうだが、面倒だとのたまうその依頼を遂行しないとは一言も言っていないのだ。


 この人がどういう人間で、どういう経緯があって今の状況なのかとか、そんなことは今はどうでもいい。というか正直自分には関係ない。


 害があるかどうかがはっきりしているなら十分だ。そう自分の中で結論づけたフレディは、一つ息を吐き出して苛立ちを自身の中から追い出した。


「…質問を変える。とりあえず、あなたの名前を教えてくれない?」


 一拍おいてため息をついたフレディは、一体何をどうしたかったのか自分でも分からなくなってきてしまっていて、とりあえずそんなどうでもいいことを聞いてみた。深い意味を込めたつもりはなく、ただそういえば知らないなくらいの気持ちで口にした。


 ひらりひらりとたゆたう蝶々のように言葉を躱されている内に、一体自分は何を知りたかったのか、何を疑問に思ったのか分からなくなりかけていた。その混乱を消したかったのが一番大きいが、おそらく回りくどいことをしても、たぶんこの人はフレディが知りたいことを口にはしないだろう。そんな気がした。


 熊みたいにでかい図体で脳筋っぽい印象のくせに、おそらく頭がいい。今は話に付き合ってくれているが、止めたいと思えば彼の主導でいつでもそれは可能に見えた。そしてその時にぼけっとしていてはだめなのだ。


 この場を辞することを最優先にすると決めたなら、他を追いかけるのは止めたほうがいい気がした。


 必要なのは逃げ道だけ。そしてそれを確保できる隙を得ること。今はそれだけ分かっていればいいと割り切ってしまった方が、間違いがないはずだ。


 ――チャンスは一回。その一回を明確に掴めたと確信するまでは、無駄に警戒されないこと。動かないこと。騒がないこと。…あと、なんだったか。


 兄が教えてくれた「身の危険を感じたときの心構えと打開案五箇条」を反芻するも、他がなんだったか思い出せない。


 いつもいつもしつこいくらいに言われていた言葉を、自分はいつも聞き流していた。「また言ってる」くらいにしか捉えていなかった事を後悔しても遅いけれど、もっとちゃんと聞いておけばよかったと思った。というか、そんなにしつこく言われていたのなら記憶にあってもいいはずなのだが。


「…それは、どういう意味があんの?」


「…別に、意味なんか無いわよ。あなたのこと、なんて呼んでいいか分からなかったし…、それに、誰と話しているのか分からないのはしっくりこないと思っただけ」


「…それ、自分を不審だと思ってる人間に聞かれて、普通に答える質問だと思ってる?」


「思っていないわ。でも、聞いてみないと分からないでしょう?」


 何事も決めつけはよくないと言うと、男は面白いものを見つけたように楽しげに笑った。


「確かにな。別に隠してないし、構わねぇよ。オレはオズニールだ。初めまして、変わったお嬢ちゃん」


「…フレディよ。お嬢ちゃんはやめて」


 僅かに嫌みの匂いがした言葉尻に、フレディは眉を寄せた。別に深い意味は無いのだろうけれど、なんだか小馬鹿にされているような気がして少しだけ不愉快になる。


 けれどフレディの名前を聞いた途端、何かに気付いたように男――オズニールは目を細めた。


「フレディ…?」


 訝しげに寄った眉間の皺にフレディは首を傾げる。


「そうよ。なに…?」


 名前を名乗って顔を顰められることなんか日常的だったフレディは、男の――オズニールのその態度も大して気に留めなかった。けれどいつまで経っても返事は返ってこなくて、そのことに対して難色を示したのだが、フレディのその声はオズニールの耳には届いていないようだった。


「もしかして嬢ちゃん、アストメリアの人間か?」


 そうしてぽつりと呟かれた言葉に、僅かに目を瞠る。


「は? なんで…」


 それを知っている。思わずそう言いかけて、慌てて口を噤んだけれど遅かった。フレディの反応を見て、自身の憶測が間違ってないと悟ったオズニールは何かに納得したように小さく頷いた。


「あー、なるほどそういう…。こりゃ面倒なことになりそうだなぁ……」


「??」


 雑に後頭部を掻きながら心底困ったという顔をしたオズニールは、そう呟きながらも何かを決めかねたように顎をさすりながら空を仰いだ。そうして何か迷ったように嘆息する。


「なんなの!?」


 置いてけぼりを食らったフレディは、いい加減にしてくれと少し強めに抗議した。


 すると今ようやく気付いたというそぶりで視線をよこしたオズニールの口元には、微妙な笑みが浮かんでいた。困ったような諦めたような、それでいてフレディを批難するようなそんな不思議な空気を感じた。


 そして急に呆れた声音でこんな事を言ってきたのだから、今度こそ本当にふざけるなと言いたくなった。


「ほんと、嬢ちゃんここに何しに来たの。危ないから早く帰った方がいいんじゃない?」


「――は? …なにを……いや、帰っていいなら帰るけど…」


 急に言い分を変えたオズニールの言葉に、あまりにも虚を突かれてぽかんとした。


 なんだいきなり。


 苦笑と共に紡がれたオズニールの言葉は予想していなかったものすぎて、思わず素の反応を返してしまった。


 そんなフレディにオズニールは困った顔で緩く笑った、その時だった。


「――なんでわざわざそんなことをする必要がある?」


「――!」


 不意に聞こえてきた第三者の声にはっと視線を向ける。


「下手に逃がせば僕らのことが露見する、そうなれば計画が台無しだ。誰だろうと、とっとととっ捕まえておけ」


 そう言いながら、ガサリと草をかき分けて出てきたのは年若い青年だった。


「…それともなんだ。お前、僕を裏切るつもりか?」


 じろりとオズニールを睨めつけた彼は、一瞬で森の中が似つかわしくない格好だと分かるほど豪華な服装だった。街路灯の光を浴びて装飾品を眩しいくらいに煌めかせていたそれは、青と白の混在した服で明らかに貴族の身につけるものだった。


 風になびきそうなほどさらりとして見えるそれは見事な金髪ブロンドで、人工光を受けてどちらも負けずと煌めいている。


 少しだけ吹いた風に揺れたそれを見たフレディは、なによりも先にハクの鱗の方がよっぽど美しいと思った。


 いや、比べるのもおこがましいレベルだ。そう思うフレディは状況を無視して反芻する。


 ハクの真っ白と言っても過言ではない白金プラチナの鱗は、陽の光を浴びると宝石みたいにきらきらして見えるのだ。角度によっては金にも桃色にも見える、艶美をも感じさせるそれは綺麗などという表現では到底物足りない。あれはもう至宝といっても過言ではないだろう。


 あれはいつだったか、古く割れた鱗がその背からぽろりと落ちて離れた時、それはたちまち光を失ってしまったように見えた。それはきっとハクが持っているからこその煌めきなのだと思うと、あの生き物自体が至宝なのではという考えに至ったのは当然のことだった。


 ひけらかすようなそぶりが微塵もないからこその鮮美透涼に、初めて見たときはそのあまりの美しさに無意識に手を伸ばしていたくらいだ。その所為で怯えさせてしまったからこそあの反応だったに違いないと、自身の腕の怪我を思ってそう自責した。


 別に自分は宝石や高価な物に対するこだわりなど持ち合わせていないが、あの美しさはどんな美辞麗句でも正確には言い表せないと思っている。というか自分の語彙力では表現しきれない。あのとき覚えた感動と衝撃とある種の欲求は、そう思うフレディに新たな欲望を植え付けていた。


 そこまで考えて、ふと引っかかりを感じた。


 なんだか似たような色合いを、つい最近目にした覚えがある…ような気がする。


 きらきらと陽の光を受けて煌めくそれがふわふわと風に揺れる様を見て、至極軟質そうで思わず手を伸ばして触ってみたい衝動に駆られたのだ。


 必死にこらえた記憶があるが、いったい何を見てそんなことを思ったのだったか。自身の中で至宝と称して過言ではないものが、そんじょそこらにゴロゴロ転がっているわけがないのに。


「オイ! 聞いてるのかっ!?」


 なんか腑に落ちない気持ちになっているときに聞こえてきた男の蔑如した声に、はっと我に返った。


 そうだ、今はそんな他人の美しさを無断で張り合っている場合ではなかった。というか、他人の美醜でお前が勝手に張り合うなという話だ。


 人相だけで判断するならばフレディより年下かもしれない風貌の青年を伺うと、肩についた枯れ葉を払いながらそうオズニールを懐疑的に見つめている。いかにも傲慢に見えるその表情は、間違っても好意的には見えなかった。


 しかし嫌悪も露わといえる視線を向けられても、オズニールはどこ吹く風だった。白んだ目でひょいっと眉を持ち上げる様は、話を聞いているのかどうかフレディでさえ疑問に思うほどどうでもよさそうに見える。


 そんな表情のまま発せられる声が、呆れたような声音に聞こえるのはきっとフレディの気のせいだろう。


「…裏切る裏切らない、なんてレベルの信頼関係がオレとの間にあったとは意外ですね。気付きませんでした。…ただ、当初聞いていた予定とはずいぶんとかけ離れてしまっているようなので、ちょっとどうしようか、これでも困っていたんですよ。これ以上は追加の賃金をもらいたい所存だなぁと思ってまして…。それとも、それも込みであの金額だったんで?」


 至極緩慢に、のんびりした声だった。


 フレディと話をしていたときもそうだったから、おそらく見た目に反してオズニールはそういう気質なのかもしれない。そう思って観察すると、彼の醸す空気はさっきも今も、変わらず緩やかなことに気がついた。


 声を荒げるでもなく相手の言い分を無視するでもなく、只緩慢に――そして面倒くさそうに――答えるオズニールの言葉に、男はフンッと鼻から息を吐いた。


「当たり前だろう。というか、お前を雇ってるのは僕だぞ? 雇い主である僕の言い分は聞いて当然だろう。お前のような流れ者にはもったいないくらいの大金を払ってやってる事を忘れるな。そもそも、被用者ならばサービス精神はあってしかるべきじゃないのか?」


 暗に追加賃金などおこがましいと言っているその言葉に、オズニールは呆れたように苦笑った。彼が伝えたかった、言外に込められた意味合いはどうやら気付いてもらえなかったらしい。


 しかしいきなり出てきてなんなんだと、上からの物言いを隠しもしないその態度にフレディは不愉快に眉を潜めた。僅かに動いたフレディのその表情に気付いたのかどうなのか、ちらりと寄越されたオズニールの視線になんだか咎められたような気持ちになって、思わずきゅっと表情を引き締めた。


 そんなフレディに納得したのか、オズニールは男に視線を戻しながら呆れたように肩を竦める。


「……少なくとも、こんな事をするためじゃないと思いますけどね。だいたい、金を出したのは貴方じゃなくてお父上の方でしょうが。単なる護衛だと聞いて、安易に構えていたこっちの落ち度だと言えば、まあそうなんですがね…。いくら国外だからって、単なる子爵のボンボンに護衛なんておかしな話だと思ってましたけど、もしかして最初っからこのつもりだったんですかねぇ?」


「…なんだと? おい、それはどういう意味だ? お前、父上を愚弄するのか?」


「いやいや、とんでもない。息子思いの良い方だと思っていますよ」


 にこりと笑って言ったオズニールのその言葉は、嫌み満載のものだとフレディには理解できた。


 今までの言葉に込められた意味を正しく受け取っていれば、笑顔で紡がれたオズニールのこの言葉は微妙に相手を小馬鹿にした嘲りだと気付いただろうけれど、残念なことに向き合った男には伝わらなかったらしい。どうやら彼の悟性はあまり高くないようだ。


 僅かに溜飲を下げた仕草をした男に、オズニールはため息一つで諦めを吐きだして言葉を続けた。


「ですが、いくら雇われたからと言ってもオレは自分の身が一番大事ですからね。保身も安全も金では買えませんし、それこそオレみたいな流れ者に誰も保証はしてくれんでしょう? あんまり無理はしたくねぇんですよねぇ」


「……そんなことを言っているから、あんなすんげの無い呪いに引っかかるんだ。お前のせいでこんなしょうもない場所で足止めを食らってるんだろう! 少しは申し訳なさそうにしろ!」


「いやあ、それを言われるとなんとも」


 頭を掻きながらすこしだけ恥ずかしげに笑うオズニールは、相変わらず煙草を咥えたままだ。温度差のある二人の言い合いにはもちろん入っていけず、入るつもりもなくフレディはどうしたものかと考えた。


 捨て置かれるならこのままそっとお暇したいのだが、先ほどちらりと寄越されたオズニールの視線を勝手に解釈するならば、下手に動くなと言われた気もしていた。


「けど、そんなしょうもない無い呪いがある山に行くと決めたのはオレじゃありませんがね」


「道に迷ったからって進む先を決めたのは僕じゃないぞ」


「…そうでしたか? ま、今となっちゃどっちでもいいことですが、でもこれだけは覚えておいてください。オレは、いくら金をもらってるからってポリシーに反することはやらねぇって、最初に言ってあったはずです。忘れているようなので、今一度覚えておいていただけますかね?」


 嘲りさえ浮かぶ笑みを乗せて問いかけるオズニールは、完全に相手を下に見ていた。これにはさすがにその言葉の意味するところが分かったらしい男は、カッと顔を赤くして苛立ちを露わにした。


「…貴様、僕を馬鹿にするのもいい加減にしろよ」


「べつに馬鹿になんかしちゃいませんよ。幸せな人だなとは思ってますが」


「それが馬鹿にしていると言ってるんだ! だいたいなんなんだお前は! 初めから僕を見下して…ッ、お前はただ黙って僕の言うとおりにすればいいんだ! 余計なことはするなとあれほど言っただろう?!」


 馬鹿にされているという自覚はあったのか、いや、だからこそのあの嫌悪感のこもった目か。フレディには判断できなかったけれど、どちらも間違っていない気がした。


 上下関係など無いに等しい感じだが、どうやら彼らは雇用主と被用者という間柄らしい。円満な関係ではないようだが。


 一人置いてけぼりのフレディは、何とも言えない気持ちでそれを見つめていた。


(どういうこと、一体なんの話を…ていうかこの人結局誰? いきなり出てきてなんなのよ!?)


 見ているだけでもムカついてくる男に加えて全く理解の及ばない話までされだした挙げ句、勝手に引き合いに出されたフレディは大いに憤慨していた。


 けれど一つ確かになった。


 この男たちは外から来た人間だ。先ほどの話から推測するとそう考えるのが妥当だろう。


 だとしたら何をしに来たか、だ。


(…たまたま来た、みたいな感じに言ってるけど…、でもそれなら、どうして私が捕まえられなきゃならないの。私関係なくない?)


 さっぱり分からん。


 いまいち理解に乏しむが、見過ごせばおそらく自分だけの問題ではなくなる。それだけはよく分かった。そこでふと気がついた。


 もしかして、だからアリアディスはここには近づくなと言ったのだろうか。いや、でもそれなら辻褄が合わない。


 もしこの人たちのことを言っていたというなら、二年近くも前からこの人たちはここにいたことになる。そんなわけはない。だったら別の問題がここにはあるということだ。


 知らなくていいことは知らない方がいいという思いからアリアディスは多くを語らなかったのかもしれないが、知ってしまった場合は最早どうしようもない。


 妙な呪いがどうとか言っていたけれど、もしそんなものが事実として存在するのならばそれをアリアディスが知らないなんてことは無いはずだ。根拠はないけれど、あの人は絶対知っていると思った。


 だとしたら、フレディを遠ざけたかった理由はそれだろうか。でもどうしてだ。


 おそらく余計なことを言わなければ、今でも自分はこの場所についてなにも考えなかったし知ろうとしなかった。昔から苦手だと思っていたし、近づきたいなんて考えてもいなかった。こんなところまで来ようとも思わなかったし、気にも留めなかっただろう。


 だけど、今なら疑問に思うことが沢山あった。


 兄が忙しいと言いながらも定期的に様子を見に来てくれていたのも、最近になってなぜかサンディアルトまでもが頻繁に飼育所を訪れるのも。


(なんでって思ってたけど、もしかして監視されてた? いや…というよりは、なにか看過できないことがあったから…?)


 そう思ったら全ての事に納得できる気がした。


 兄は単純にフレディを気にかけてくれていたということもあるだろうが、サンディアルトはそうではないだろう。


 意識を視界に持っていくと、二人はまだ何かしら言い合いをしていた。けれどその言葉はもうフレディの耳には入ってこなかった。


(…もし、それがこの人たちのことを言っているのなら、)


 ――なにがなんでもこいつらを只では帰さない。


 そう静かに瞳に力を込めたフレディに、なによりも先にそんな感情が芽生えた。放っておくと、自分の大切なものにまで害が及ぶと。


 だから気付かなかった。


 サンディアルトがいつも会いに来てくれる本当の理由は、彼が事あるごとに口にしていた「フレディに会いたいから」ではないことを、少しだけ残念に思った自分の感情に。








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