第41話 俺達はルシファーに殺される。
ルービックキューブ斬殺事件はもうすっぱりと忘れることにして、俺はさっさと部屋の掃除を終わらせることにした。
アヤメにも手伝ってもらい、案外早く掃除は終わることができた。
俺は階段を駆け下り、もう一度カヤエのところに向かった。カヤエはまた、分厚い本を読んでいた。
「カヤエ、ずっと気になってるんだが、その本はなに?」
カヤエはその本を閉じて、俺のほうを向いた。
「黒本です」
「…黒本?」
本は全く黒くないのだが、なぜ黒本なのだろう。そもそも黒本ってなんだ。
「黒本は悪魔を呼び出すために必要な本です」
「あ、悪魔だって?」
このゲームに悪魔は存在しないと思うのだが…。魔物の王、魔王は居ても、悪魔の王、魔王はいない。
「ええ。そしてこの黒本は私がやっと手に入れたルシファーを呼び出す本です」
「る、ルシファーって…地獄の王じゃないか!」
「はい」
かなりアッサリと平然と答える。
「そんなの呼び出しても大丈夫なのか?」
正直、そんなやつと戦うことになって勝てる気がしない。地獄の王というからには相当強いはず。
「わかりません。しかし、戦うことにはならないはずです。地獄の王とはいえ、ルシファーは明けの明星。もと堕天使であり、知性があります。いざとなったらこの本を破れば解決ですし」
余裕の顔だが頭にあるアンテナはピーンと張っている。少し緊張しているのだろうか。
「では、呼び出します」
いきなりそう言うと黒本を開き、何やら呪文のようなものを唱え始めた。
アヤメは少しビクっと震え、俺の背中に隠れる。目の前は神々と輝きだし、その輝きは黒に染まっていく。
黒の冷気がリビング中に立ち込め、背筋がゾクッと凍りだす。もしかして、俺たちはやってはいけないことをしているんじゃないか。そう思えてきた。
だんだんと、黒い冷気は無くなっていき、目の前に現れ始めたのは真っ黒の身体をした四つ足の生き物。目は黄色く輝き、まるで俺たちを見透かしているようだ。足が少しすくんだ。
「ほう、これがルシファーですか」
カヤエがテクテクとルシファーに近づいていく。
どうにかして止めないと…カヤエが危ない…!
だめだ。このままではルシファーとの殺し合いが始まってしまう…!ルシファーは間違いなく俺達を殺し、人間を滅ぼすだろう…。俺が、止めなければいけない…あの黒本を破らないと…!
なのに俺は声を出せず、足も動かせなかった。
ルシファーの全貌が次第に明らかになっていく。カヤエはルシファーの顎をクイッとあげた。
ああ…もう…だめだ…。
俺は強く目を閉じた。するとルシファーは一言、声を上げた。
「にゃー」
「か…かわ…かわいい…!」
カヤエはヒョイとルシファーを抱き上げたと思うと早足で俺のほうに持ってきた。
「見てくださいこの肉球!愛らしい目!麗しい毛並み…」
「あ…え…ちょ、ちょっと、ちょっと待て」
「はい、なんでしょう?」
カヤエはルシファーに顔を擦り付けながら嬉しそうに言う。
「それ…ルシファー?」
「はい、ルシファーです」
「ええと…あの、地獄の王の?」
「そのルシファーです」
俺はルシファーの身体を少し触った。ふさふさとした感触が手に伝わる。
いや、どう考えても、どう見ても、どう触っても…。
これ、ルシファーじゃなくて猫だろ!!
「もしかしてご存知ありませんか?最近、黒本猫というものが流行っていて、悪魔の種類によって、猫が変わるのです」
「は、はぁ…」
「そして、このルシファーの黒本なら、この黒猫になるんですが、なにせ店では既に完売。販売数も少なく、手に入れられなかったところを、たまたま譲ってくれる方がいて、手に入ったのです」
「う、うん…」
真相がなにであれ、俺は肩の力が抜けてしまった。人間を滅ぼすだとか、カヤエが危ないだとかいう妄想を膨らませてしまった俺がすごい恥ずかしい。
「この黒猫ちゃんは戦闘にも使えて、猫の中で一番強いのは当然このルシファー。レベル五十の冒険者なら簡単に負けてしまうほどの強さなのです」
目をキラキラと輝かせながら、まるでウラのようにはしゃぐ。
黒猫の名前はそのままで、ルシファーとなった。せめて独自の名前を付けてあげたらよかったのに。
カヤエは執拗にルシファーの尻尾を撫でていたのだった。




