第37話 邪神の力
ストーリーに矛盾があると指摘されましたが、すぐに直せそうにないので、時間をかけて直していきたいとおもいます。
自分も、書いたらちゃんと見直せばいいのですが…
読んでくださってる皆様に毎回感謝しています。では、37話を。
「あー…ええと…」
俺は頭をかきむしった。この空気をどうすればいいかわからない。
「俺さ、用事がある…んだけど…さ」
さっき、あんなことがあったせいでか、余計に用事だから、みたいな話が出来なくなった。
「まだ言うのか、ヨシハル殿」
腕を組んで顔を顰めたリリーが俺を睨む。
「わ、悪いと思ってるよ? 思ってるけどさ…」
「ふーん、思ってるんですか。じゃあ、どこが悪いか言ってみてくださいよ」
今度はウラが俺を責める。なんだ、皆俺を責めてそんなに楽しいのか。
リリーは相変わらず睨んでくるし、アヤメはどこから拾ってきたのか、子猫を抱きかかえてる。
ミリアは怯えた表情でリリーを見ている。
アルに至っては鼻歌を歌っていてそれを部屋に響かせている。
「それは、だなぁ…」
言葉の詰まる俺に容赦無はない二人。
「ヨシハル殿、一度だけ女心というものを味わってみるか? な、ウラ殿?」
「そうですね。この人は一度、体に染みて感じないとわからないようですし」
そう言ってじりじりと迫ってくる。二人の圧力が半端なく鼓動を早めた。
これはやばい…!
俺の本能がそう悟らせる。やばいでは済まされない何かが。俺を襲おうとしている。
「ちょ、ちょっと待て、ほんとに大事な用事があるんだよ!」
「…その用事っていうのはなんです?」
「ええと…それは…」
「ほら、逃げるための算段を考えたって無駄ですよ。さあ!」
ウラが一歩近寄ってきたのと同時に俺はスキルを発動して、扉を突き破る勢いで外に出た。そしてそのままホテルを出て、やっと外に出ることに成功した。
「こ、こうしちゃいられない!」
悪魔の手から逃げるようにして、一目散にこの時代のカヤエのところへ向かった。
「カヤエ! ごめん、遅くなった!」
俺が洞窟についてみると、洞窟は真っ暗だった。
「って…」
ライトを使って洞窟を照らすと、カヤエは固い石の上でスヤスヤと眠っていた。
「はぁ…なんだよ…」
何を心配していたのか、カヤエが死んでしまうとでも思ったのか。よく考えてもみればそんなことありえないじゃないか。
ほっと胸を撫で下ろした。
「ウラ達には悪いけど、最後まで一緒にいるってカヤエに約束したし…」
カヤエとの約束は初めからどんなことがあっても果たすつもりだった。今も、こうしてウラ達を振り切り、ここに来ている。
「俺も寝る…か…」
「セバス…?」
カヤエは目を擦りながら起き上がった。
「なんだ、起きたのか」
「私って、猫の耳あったほうがいいかな?」
「は、は?」
「しっぽだけ猫なんておかしいと思わないかなーって」
「そりゃあ、猫耳もあったほうが……って、何言わせてんだよ! もう寝るぞ、折角寝る体制に入ったんだし」
「でも、明日で私の試練は終わりなんだもん」
「…だから?」
「だから、セバスと会えなくなっちゃうってこと! もう、セバスって鈍感だよね」
ど、鈍感、ねぇ…
「会えなくなるわけじゃないだろ。カヤエが家を出て、外に出たらもしかしたらまた会えるかもしれないじゃないか」
「んー…」
カヤエは横になりながら、不満の声を漏らす。
「でもね…」
俺も横になって、ライトを消した。
「大丈夫だって、カヤエが成長して俺よりも強くなって、NPCの中で最強を誇るようになったらまた会えるからさ」
笑いながらそういった。その頃には俺と初めて会った頃になってるだろうな。
「なんだかよくわからないけど…」
カヤエは俺に聞こえるか聞こえないかギリギリの声量でそう言ったが、俺の耳にははっきり聞こえた。
「じゃあね、こうしようよ! セバスがそこまで言うなら、今度私と会ったときには結婚してくれる?」
「…ッ?! ば、ばかやろ! するわけないだろ!」
「へへ、冗談だよ」
いきなりの告白に顔が熱くなってきた。完全に目が覚めてもう寝れそうにない。
「じゃあ、これ、預かっててくれる?」
暗闇の中、カヤエが俺の手に何かを握らせた。
「ん? これは?」
「お守りだよ。普通のね」
握らされたそれを右手に持ち替えてそれを見ようとしたが、暗闇でよく見えなかった。
「会ったときに私に渡して。そして、こう言ってほしい」
「ん?」
「エプーズ モアって」
「エプーズ…モア…?」
何かの呪文か何かか?
「これはね、このお守りを受け渡しするときのおまじない…って言えばいいかな」
おまじないか。そんなアイテムあったかな。まったく記憶にない。もしや珍しいアイテム系なのかもしれない。珍しいアイテム等は中々手に入らないため、俺は知らない。というのも、製作内容に深く携わったのは総監督的位置なのと、武器類だけで、それ以外は基本あまり知らない。普通にプレイしているプレイヤーと変わらない知識だ。いや、それでもやはり製作内容に一通り目を通しているため印象に残ったアイテムとかならいっぱい知ってはいるのだが。
「わかった。エプーズ モアだな。覚えとく」
「ふふ、ありがと。じゃあ私はもう寝るね」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
カヤエはそのまま眠りについた。
にしても手にしているこのアイテムはなんなのか。形的に指輪の形をしている。お守りと言ったから耐性の指輪とかだろうか。一撃で死ぬ攻撃を受けたときに耐えて死なないというよくあるアレだ。
お守り…か。少し気になる。
まあ、いいだろう。急がなくても明日になればわかる。
こうして俺も眠りについた。
朝、目を覚ました。明るい日差しが洞窟の中を差して、全体を明るくしている。
カヤエはまだ寝ているようだ。
ふと、右手に握りしめていたものを見た。
「…なんだろ」
光で照らされているせいか、よけいにソレは反射して輝いて見える。
完全に指輪だった。お守りの指輪…といったところだろうか。
一度装備してみるか。
右手にはめ込んでみたが、これといって目立った変化はなかった。
しかし、キレイだな。ほんとにダイヤモンドなんかよりもキレイだ。
「ふぁ…」
俺がその指輪に見惚れていると、カヤエがむくっと起き上がった。どうやら目覚めたらしい。
「おはよう、カヤエ」
「あ…おはようございます」
「ん? どうした?」
起きたと思ったらいきなり丁寧語を使い始めた。
「いえ、なんでもありません」
「どうして丁寧語なんだ?」
「…私にも理性というものがあります。これから父上のところへ向かわないといけませんから。心の準備というものです」
丁寧語で話すことが心の準備なんて。少しおかしい。
「では、セバス様。この三日間、正確には二日間ですが、私の面倒を見てくれてありがとうございました…」
立ち上がったカヤエは装備をきちっと整えてから俺に頭を下げた。
「あ、ええと。家まで送るよ」
「いえ、構いません」
「いいや、送る。最後まで面倒見させてくれたっていいだろ?」
「…そこまで仰るのでしたら」
カヤエは嫌そうな顔をしたが、これは俺の自己満足。
早速、カヤエを家まで送ることにした。
「ほう、なるほど理解した。つまりせバス君が我が娘を助けてくれたと?」
ご存知カヤエの父上、ヨウシ・ミクニが俺を出迎えた。鋭い目つきで俺を見る。背中にさしてあるセイクリッドソードが輝いて見えるが、ミクニはそれをいつでも抜けるような体制でいる。
完全に俺を警戒している。
「で、娘をわざわざここへ連れて来てくれたということですな?」
「ええ、そういうことです…ね」
この威圧感が、俺を押しつぶそうとする。なんだこの威圧感。
嫌な汗が頬を伝って下に落ちる。
「娘に対して、他には何もしてないんだな?」
「も、もちろんです! な、何もしてません!」
「カヤエ、こやつの言うことは誠か?」
「もちろんです父上。せバス様は私の命の恩人です。夜も一緒に寝てくださいました」
「…夜も?」
なぜだろう。何か誤解された気がする。背中のセイクリッドに手をかけてるぞ、この人。
ちょっと、これ、俺やばいんじゃないのか。
「な、何か誤解してます!」
「ほう、私が誤解していると?」
俺はカヤエに目線を送って誤解を説いてくれと合図する。
カヤエも俺の目線に気づいたのか、素早く行動に出た。
「父上、心配をなさらなくとも私は何もされてませんから。せバス様はただ治療をしてくれただけですので」
「……そうか。なら、いい」
ミクニはセイクリッドソードを抜きながら言った。
全く「いい」と思ってないだろ。
明らかにいつでも切り捨てる体制だぞ。
そう思った矢先、セイクリッドソードの先端がピクッと動いた。
これはッ…!!
俺は即座に一歩踏み込んでさがった。
途端に俺が居た場所にセイクリッドソードが振り下ろされる。
「ほう…これをよけたか。なら…!!」
何を勘違いしたのか、俺にセイクリッドソードを振り回してくるミクニ。俺は咄嗟に剣で受け止める。
「何をするんですか!」
「父上! やめてください!」
カヤエがそう言ったとき、ミクニの剣から力が弱まったのを感じた。
「おっと、すまない。つい私の本能でね。強そうな相手を見るとつい切りかかってしまう…」
なんて本能だ。いつかこの人騎士団に捕まるぞ。
「ほんとにすまない。そうだ、お詫びといってはなんだが…。カヤエの習得した剣技をみてやるのだが、君も見ていくかね?」
…なんか、とても嫌な感じがする。
いきなり斬りかかってきてやすぐにお詫びとか言い出すなんて絶対おかしい。怪しさプンプンだろ。
いきなりお金あげますとか言い出すくらい怪しさがあるぞ。
「え、ええ。じゃあ、見させてもらいます…」
そう言うと、ミクニは即座に回れ右をして、「ついて来なさい」と言った。
その通りにカヤエとともについていくと、最終的に少し広い訓練場のような場所についた。
「さあ、今からお前が剣技を習得してきたのか。見てやる。どこからでもかかってこい」
「わかりました」
ミクニはセイクリッドソードではなく、訓練場に置いてあったバスターソードを手にした。
「あ、カヤエ、ちょっとこっちに…」
俺はカヤエを呼んで手首をくいっとする。
カヤエは寄ってきて、俺の目の前まで来た。
「ちょっと、小声で言うぞ? ミクニの弱点はあいつが攻撃するときにあるんだ。ミクニは相手から攻撃されてきたときのカウンターがめっぽう強い。だから遠距離攻撃を加えて、カウンターができないようにする。それからミクニが攻撃してきたときに…」
俺がアドバイスをしていたときに、カヤエは声を遮った。
「セバス様。アドバイスはとてもありがたいです。ですが、これは私の真剣勝負。私自身の力でなんとかしてみせます」
…何も言えない。ここがカヤエらしさというところだろうか。ウラなら間違いなく耳を寄せるだろう。
「そうか…」
「なに、心配ありません。そもそもこれは勝てる試合ではありませんし、勝つための試合でもありません。剣技を見せてくるだけですから」
「確かに、そうだな…。まあ頑張ってこい」
「はい」
カヤエはぺこりと一礼すると、ミクニの方へ走って行った。
「さあ、こい」
ミクニがそう告げた瞬間、カヤエは足を踏み込んだ。
ズンッと前に進み、髪をなびかせながら腰に手を当てて剣を抜く。
それに合わせてミクニも剣を構える。
「はぁっ!」
カヤエの掛け声で剣がミクニの持っている剣と当たり、金属音がなる。
カヤエはすかさず一歩下がりながら肩を揺らす。
(やっぱりてるてる剣技か…)
果たしてあの剣技がミクニに通用するのかどうか…
シュビビビッ!! シュビビッ!
空気を斬る音が聞こえるほど速い斬撃がミクニを襲う。
ミクニは一瞬顔を顰め、持っていた剣を縦に振り下ろした。
ガギギギギンッッ!
連続的に当たったミクニのバスターソードは見事に砕け散った。
「これで…ッ!」
カヤエはさらに踏み込み、最後の一撃を決める。
ミクニはそのスピードに合わせて勢い良くセイクリッドソードを抜いて、それでガードをする。
「私にセイクリッドソードを抜かせるとは。ふふ…」
「父上が油断しているからです。あのまま殺してしまっても良かったのですよ?」
なんだこのやりとり…お前らの親子仲はどうなってんだよ…
「なかなか言うじゃないか!」
ミクニはセイクリッドソードを振り下ろした。
カヤエは後ろに下がり一旦距離をとる。
「さて、そろそろ終わりにしよう」
そう言って、今までの構えを変えた。
「や、やばいっ! カヤエ! 避けろッ!」
俺が言った時には遅かった。ミクニは斜めにセイクリッドソードを構え、それを振り下ろした。振り下ろされた剣から斬撃が飛び、カヤエを襲った。
セイクリッドソードは遠距離攻撃にも向いていて、油断のできない武器だ。初見なら普通に戦っていては間違いなく負ける。
「きゃ…」
カヤエは斬撃をモロにくらい、後ろに吹き飛んだ。
「終わりだ」
ミクニはカヤエのもとに向かって歩き出す。
「お、おい。まだするのですか! もうカヤエは負けたじゃないですか!」
まだ戦おうとするミクニを俺はとめようとした。しかし、ミクニはニヤっと笑い、俺にこう言った。
「今、君は負けたといったかな。私達の負けというのは、何も戦えなくなったから負けというわけでも、負けを認めたから負けというわけでもない。私達の負けというのは、死ぬことだ。勝つということは相手を殺すことなのだ!」
まだ、ミクニは歩みを止めない。こんなキチガイじみた精神論を俺に語られてもたまったもんじゃない!
俺は走って、ミクニの前に立った。
「やめましょう。これは殺し合いではないでしょ。剣技を見るだけじゃないですか。それにカヤエはあなたの娘じゃないですか!」
「…剣技を見るだけ? ふっ。私が剣技を見るだけのつもりで戦うわけがないだろう? 娘、といったな? 私の娘に、この程度で死ぬような人間はいらん! それなら死ねばいいのだ」
さらっと、言ってのけた。
「そんなの…」
「と、止めないでください!」
俺が腰に手を当てた瞬間、カヤエは俺の言葉を遮った。
「カヤエ…」
そばにあった剣を杖代わりにして立ち上がるカヤエ。
「わ、私は最後まで戦います…」
「ほう、それでこそ我が娘だ」
「お前、それがどういうことか…」
「いいんですよ! これが、これが私の信念です! ですから、そこをどいてください」
よろよろとこちらに向かって歩き出す。その足取りは一歩一歩小さく、バランスが少しでも崩れれば倒れるようだ。
「そんな状態で戦えないだろ! 何が信念だよ。馬鹿げてると思わないのか?」
「どいて、ください…」
カヤエはそれでも向かってきて、俺の肩に手をかける。
「セバス、どけ…」
カヤエの目が赤色に変わっていく。俺の背筋にゾッと冷たい何かが走った。
まるでそれがカヤエじゃないかのように思えた。
俺はつい、そこをどいてしまった。
目がどす黒い赤に変わり、頭から猫耳が生え出す。
「あ、ねこみ…」
こんな状態でも俺の変態スキルは発動してしまう。
「……」
ミクニは顰めていた顔をいっそう顰めて、シワが濃くなった。
「さあ、戦いましょう…父上…ッ!」
カヤエの剣が、ミクニを襲う。
ミクニもそれに対してセイクリッドソードを振り回す。カヤエは持っている剣を上手く使い、大剣部類であるセイクリッドソードの動きの鈍さを逆手に取り、素早く行動を繰り出す。
明らかに今までのカヤエとは違う。
「ほう、これが…」
ミクニは少し笑みを見せながらセイクリッドソードを振り回す。
完全にカヤエがおしている。ミクニの額から汗が流れてるところから見ると、ミクニも防御に精一杯なのだろう。表情から余裕が感じられない。
(一体、何がどうなってるんだ…)
カヤエが連続攻撃の最後に大きく剣を振りかぶった。
「甘いッ!」
その瞬間をうまくつき、ミクニはカヤエの腹に蹴りを入れ、カヤエをとばした。
ザザッと、カヤエは地面に擦り当たる。それでもカヤエは起き上がろうと、手を地面につけたとき。
ミクニはカヤエの持っていた剣を蹴り飛ばした。
「…今日は終わりだ」
ミクニは手でカヤエの首を殴り、気絶させた。
「おい、セリーヌ!」
手を叩き、大声を出すと、一人のメイドが出てきた。
「お呼びでございましょうか、旦那様」
「カヤエを運んでくれ、丁寧にな」
「かしこまりました」
呼ばれたメイドは、支持された通りにカヤエを運んだ。
「セバス、といったな。私とはいえ、流石に娘を殺したりなどしない。私は娘の本当の力が知りたいだけだ」
「本当の…力?」
「ああ…」
持っていたセイクリッドソードを肩にしまい、落ちているカヤエの剣を拾った。
「カヤエは産まれたばかりの頃、呪いをかけられてな」
「呪い…」
「そうだ。その呪いを解くために私の妻は死んでいった。しかし、その呪いは何もカヤエ自信を脅かすものではない」
「え、どういうことですか」
「私達はこの広い屋敷に住んでいる。私の弟子も居る。だがしかしそれにしては広すぎるとは思わないか?」
確かに広いとは思っていたが、カヤエとかが暴れると考えれば広くないだろう。一軒家程度なら一日で壊しかねない。
「ま、まあ…そうですね」
「この家はこの土地に潜む邪神を封印するためのものなのだ」
邪神…を封印するだって? ゲームで邪神がここにいるなんて聞いてないぞ。
「私の先祖が邪神との激闘の末にこの地に封印し、代々この地を守ってきた。
この家の地下には邪神を封印するために使った祠がある。その祠は強力な魔法を放っており、並の人間はそこに近づくことさえできない。
だが、新人のメイドがカヤエを抱き、散歩していたとき。
偶然ながらその地下へ行ってしまい、メイドは倒れた。が、カヤエはそのまま祠のところへ行き、その祠に触れたのだ」
「…つまり、呪われたと?」
「そうだ。その呪いは、呪われたものに邪神の力が宿るというもの」
呪われたものに邪神の力が宿る呪い。そんな呪いがあるのか。
「でもそれって…」
「ああそうだ。カヤエに邪神の力が宿るだけだ」
「それだけなら呪いというよりむしろ幸運じゃないですか」
「それだけ、ならな。邪神の力を持ったカヤエは、その赤ん坊の身体ながら、邪神を復活させようとした」
「え?」
「つまり、その身体が邪神に支配されたのだ。私はたまたまその場に居合わせ、やっとのことでカヤエを押さえ込んだのだ。
そのあと、儀式を行い、呪いを解いたのだが…。
まだ、カヤエの奥底には邪神の力がある。私はそれを引き出したいのだ」
だんだんと言っていることが突飛なものへと変わってきたぞ。
「でも、それを引き出したら、また儀式を行わないと」
「いいや、そこまでの力はない。カヤエなら使いこなせるレベルの力しかないはずだ。だからその力さえあればカヤエもこの先困らないし、私も安心できる」
…おい、ちょっと、ちょっとまて。
「つまり、カヤエを心配してると?」
「それがなんだ?」
まさか、親バカなんじゃあ…
「そういえば、セバス殿。私の娘を、先ほどからカヤエ、カヤエと呼んでいるが、カヤエはそのことを許したのか…?」
「え、まあ、はい…」
「どういう関係なんだ…?」
ジリジリと迫ってくるミクニ。完全に親バカだ。娘思いだ。隠れ親バカだ。つまりツンデレだぁぁあ!!
「きょ…兄妹、そ、そう! 兄妹のような親しい関係です!」
「兄妹……。君は中々面白いことを言うね」
「あは…あはは…」
「では君にお願いがある」
「…はい?」
「その兄妹というのは嘘だとはわかってる。だが、君に本当にカヤエの兄のような存在になってほしい」
「え…」
やっぱり嘘はばれてたようでした。
「わ、わかりました…」
「ありがとう。私もそろそろ死ぬかもしれないのでな」
「あー、大丈夫です。あなたは死にませんから」
「そうか?」
はははっと、ミクニの笑い声が訓練場に響いた。
「はぁ…つ、疲れた…」
そのあと、ミクニの話に付き合わされた挙句、地下に連れてかれ、祠に触れそうになり、呪われかけたり、ミクニと決闘を申し込まれ、なんとかごましたりして、やっとのことでこのカヤエ宅から脱出できた。
俺はとぼとぼと、一人でホテルに向かう。このあと、みんなから酷く言われるだろう。
「ただいま…」
俺がみんながいるであろうホテルのカヤエの部屋に入った。
「って…」
そこにいたのはみんなではなく、カヤエだった。どうやらあのあと帰ってきたようだ。
「あ…カヤエ…? ええと…」
どうすればいいのか、言葉が思いつかない。何か言わなければ。
「私を、どう思ってますか」
「え…?」
「私は昔から、人間が弱いのは心が弱いからだと思っていました。だから心の強い人間になろうと」
「あ、あぁ…そうだな」
「しかし、私は気づきました。やはり、人間の敵は心の強さではない。心の持つ、感情です」
「感情…」
「例えば、ここであなたを殺そうと思えば少しは手間取るでしょうが殺せます」
「うっ…」
キッ、と蛇の目のように俺を睨む。かなり殺気こもっている。
「しかしここに感情が入ってしまい、あなたを殺せない」
「…よ、よかっ…た…」
「あなたが私を殺そうとしても、私はあなたを殺さないでしょう。なぜだか、わかりますか?」
なぜって…感情が入るからじゃないのか?
ていうか、どうしてこんな話をしているんだ。
カヤエは窓の外を見ながら、話を続ける。
「私の中にあなたが入り込んでしまったからです」
「…え?」
「これでもわからないのでしたら、もう構いません。私が勝手でした。すみません」
カヤエは俺に向かって頭を下げた。
「…よ、ヨシハル…さん…」
カヤエが顔を上げると、その顔には驚愕が浮かび上がっていた。
「どうした?」
「そ、その指輪! どこで…」
あ…そういえば、次会ったときに渡せってこの時代のカヤエが言ってたな。今がそのときだろうか?
ええと、なんだっけ。エプーズ モア…だっけか…
「あ、ええと…」
俺は指輪を外して、カヤエの近くに寄った。
「エプーズ モア…」
(こんなのでいいのか?)
俺が指輪を出したその手を見ながら、カヤエは突然泣き始めた。
「あぁ…あなたって人は…」
「え? なに?」
「Avec plaisir…」
カヤエが意味不明な言葉を話した。
ぐすんと涙を流しながら、俺のそばにギリギリにまで寄り、そしてこう言った。
「騙されましたね…ヨシハルさん…いえ、こう言ったほうがいいですか? セバスさん?」
「え…あ、いやぁ…」
そうか、カヤエは俺がセバスだと思ってなかったのか。いや、それもそうだろう。カヤエにとっては何年も前の話だろうから。
「騙された…って?」
「まさか、セバスさんがあなただったとは…」
「いや、うん」
「あなた、エプーズ モアの意味。わかってますか?」
指輪をはめながら、カヤエは言う。
「いや…わからないけど…」
「結婚してください。という意味ですよ。それにたいして私もAvec plaisirといいました。これは喜んで、という意味です。つまりこの時点から…あなたは私の夫、というわけです」
「……うん…なるほど…って、はぁぁぁっ?!」
俺は、新手の結婚詐欺に引っかかってしまったのだった。




