第35話 人の気持ちを知りたい症候群
更新遅れましたが、
次からはきちんと…
きちんと…
はい。
カヤエから滴る濃い赤い血が俺の手を染めていく。
俺の使った光魔法ライトで洞窟はてらされているが、まだ薄暗くはっきりとは認識できない。
カヤエは死んでしまった。
それなのに、なぜか、何かが引っかかる。
「臭いが…」
そうだ。臭いだ。臭いがおかしい。血の臭いって、もっとこう、独特の臭いだった気がする。
俺が高校生の頃か、大怪我をした友人が血を多量に流した時があったが、今より少なかったはずなのに血の臭いがきつかったと思う。
なのに今、流れている血は全く臭わない。
「ファンタジー…だからか…」
カヤエが死んでしまったのに、さっきまで俺の心は熱くなっていたのに、なぜかいきなり冷めてしまって尋常ではないほど冷静になっている。
「カヤエ…なんで死んだんだよ…」
カヤエにいくら訴えても返答は無かった。
自然と俺の目から零れ出した涙はカヤエの頬に落ちていく。
涙が止まることはなく、カヤエの頬の上を流れるせいか、カヤエが泣いているように見えた。
「も、もう! くすぐったい!」
…え?
「へへへー、騙された?」
涙を拭きながら、カヤエはなんともなかったかのように起き上がった。
「え…カヤエ…?」
「死んだと思った?」
「お、思ったというか…死んでたろ…」
衝撃で言葉が出ないのを振り絞って小さく呟いた。
だが、カヤエは俺とは正反対に笑いながら悠々と話し始めた。
「私ね、とある人の気持ちを知りたくなると、死んだフリしたくなる癖があるの」
ふふっ、と笑った。
正直、笑い事ではない。今の俺は目の前でカヤエが動いてることさえまだ疑っているのだから。
「まてまてまてまて!じゃあ、俺が泣いたのは……」
「泣き損ってものかな?」
「いや、説明がつかない!…そう!血は?血!」
まるで納得がいかない。カヤエが死んでいないことを望んでいたのに、今度は死んでしまったという事実を望んでいるような感じがして、自分でもよくわからなくなってきた。
「あー、血はね。さっきそこにいた魔物をちょっと狩ってね。ほら、あそこ」
カヤエが洞窟の奥を指差した。その先には確かに魔物のかわいそうな姿があった。
「…」
「でも良かった。セバスが私のこと思ってくれたんだね」
…お前はヤンデレか…ッ!
ついツッコミを入れてしまった。
ん…まて…よ?
「まて、もう一度聞くが、なんでこんなこと?」
「だから、セバスの気持ちが知りたかったからだよ」
「癖って言ったよな…?」
「え、う、うん」
…まさかとは思うが、こっちの時代のカヤエも死んだフリとかしたわけじゃないよな。
「ちょ、ちょっと気になることがあるからさ、ここで待っててくれない?」
「うん。いいけど」
「よし、じゃあ待ってて。絶対、死んだフリとかすんなよ!してたら今度は怒るからな!」
「セバスに怒れるかなぁー?」
「うるさい!いいから待ってろよ」
「うん」
カヤエに手を振って、速攻で走り出した。
もし、今のカヤエが本当にあの意味わからない癖を持っているとしたら。「あの人の気持ち確認自殺症候群」を継続していたのだとしたら…。
「あ、ヨシさん?!え、どうして?」
「どうしてって、帰ってきたんだよ」
カヤエの部屋の前に行くと、ウラがドアの前で立っていた。まるでとうせんぼうでもしているのか。
「…え、予定じゃあもっと後に…」
「なんか、言ったか?」
「いやいや!!何も言ってないです!」
「そうか。じゃあそこどいてくれ」
ウラを手で退かそうと手をウラに近づけたとき。
「あー、ちょっとジャンケンしませんか?」
「は?」
ウラがジャンケンの戦いを申し込んできた。
「ジャンケンで勝ったら、ここを通しましょう!」
「なに言ってんだよ」
「でないと、ここは通しませんから!」
ウラは肩を回してジャンケンの体制に入った。
ここは仕方ない。ジャンケンの相手してやるか。
「いくぞ…?」
俺が合図を入れて、ウラが頷く。
「「最初は…!」」
「グーッ!」
「パーッ!」
「あー!ズルい!ズルいですよ!最初はグーって決まってるのに!」
俺が反則をしたことに不満をもっているウラ。それも当然だろう。だが、勝負の世界にルールなんてない。
「どいてもらうぞ」
「そ、そんなの認めません!も、もう一回です!」
「仕方ないな。もう一回だぞ」
どうせ俺が勝つのは見えている。
「いくぞ?」
そしてまた合図を入れて、ウラが頷く。
「「最初は…!」」
「パーッ!」
「チョキ!」
「あー!なんでチョキ出すんですか!グーだしてくださいよ!」
なんて単純なんだ。単純すぎて笑えてしまう。純粋だからこそ、俺の裏を読んでパーを出そうとしたんだろうが、そんなことお見通しだ。
「さ、こんどはお互いズルして決着ついたんだし、どいてもらうぞ」
「い、いや、まだ…」
それでもどこうとしないウラを無視して、無理やりどかした。
無防備になった目の前のドアに手をかけて、そして開けた。
「…あ」
部屋の中では俺の思ったとおりに、カヤエの姿があり、カヤエは思ったとおりに生きていて、思ったとおりに…
着替えの真っ最中だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
カヤエの聞いた事もない叫び声とともに飛んできた椅子が俺の顔にクリーンヒットした。
「ちょ…イス…」
俺は気を失った。




