第30話 貴方は温かい。
ズリズリと何かを引きづる音が廊下から聞こえる。
俺たちは部屋でその音に気づき、廊下側を見つめていた。
すぅーとふすまが開かれる。
「ヨシハル…さん…一大事、です…」
「カヤエ!?どうしたんだ!!」
カヤエは俺に身体を任せて倒れ込み、気絶する。カヤエがこんなにまでやれるなんてありえない。ましてはこの時代になんてありえない。例えこの時代の武士が1000人集まってもカヤエを倒せるわけがないからだ。
「か、回復薬は!?」
俺は即座に周りを確認する。
「私…持ってません…」
「私も…」
皆、回復薬などはこの世界に来てから無くなったという。
「じゃ、じゃあ、カヤエは!?」
そうなると、傷だらけでボロボロのカヤエはこの時代では助からない。当然、この時代の医療技術は発達していない。
皆、口を閉じる。
「カヤエ!どうしたんだよ!なんか言えよ!!」
俺は身体を揺するが、当たり前だが反応はない。しかし、その当たり前が信じられなかった。
カヤエの身体はだんだんと暖かさを失っていく。
「嘘…だろ…?カヤエがか?カヤエが…」
俺は意識がなく、冷たくなっていくカヤエを抱きしめる。
この時代の医療技術では、この傷を治せないし回復薬もなければ治療道具も一切ない。神とも連絡がつかない。
(俺は、ここまでも無力なのか…?
女性一人も守れないのか?)
そんな時、カヤエに回復薬が投げつけられ、カヤエの傷は全快する。
俺は回復薬が飛んて来た方へと目線を移す。
「やっと会えた好敵手だったんだから、死なれちゃ困るよ」
「お前…!!ミリア・ウィクトーリア!!」
俺の目線の先に居たのはリオティオンでかなり有名なミリア・ウィクトーリアだった。
こいつが現れてやっとカヤエがここまでになった理由がわかった。
ミリア・ウィクトーリアは女性キャラ強さランキングで20位くらいで仲間にしたくないランキングの堂々の1位を記録したことで有名だ。
仲間にしたくないランキング1位はおいといて、
なぜ強さランキング20位なのに、カヤエを倒せたのか…
それはミリアの流派とカヤエの流派の相性がかなりわるい。
熱帯雨林に雪があるくらい相性がわるい。油と水くらいに相性が悪い。ポ○キーにポン酢くらいに相性が悪い。
カヤエの攻撃の仕方では、ミリアには一切攻撃があたらず、逆にミリアの攻撃はすべてカヤエにあたってしまう。
「私を知っているの…?」
「そんなこと…どうでもいい…ちょっと外に出ろ」
「え?」
「外に出ろって言ってんだよ!!」
俺が思いのほか、声を張り上げると仲間がビクッと反応して、アヤメは俺から少し距離をとる。
「あ、あの?ヨシさん?カヤエさんは助かったんだし…なにも」
「ウラは黙っていてくれ」
「あ…はい…すみません…でした」
俺はまずミリアを許せない。ゲーム中でも思ってたがミリアの性格は直さないといけない。
俺はミリアを連れて外へ出る。
仲間が見守る中、闘いが始まる。
「いいの?ほんとに」
「…ミリアの根性を叩きのめす」
ゲーム中、実はカヤエだけでなくプレイヤーが使うスキルや攻撃の仕方とも相性が悪い。
だからプレイヤーは試行錯誤を重ね、どうにかして忌々しいミリアを倒せないかと考えていた。
ミリアは夜中、街をうろついていると辻斬りをしてくるため、夜中専用のイベントなどの時に、邪魔になってイベントが達成出来なくなったりする。
それにプレイヤーが怒りを爆発させたのだ。そのプレイヤーには俺も入る。
「ふへへっ。じゃあ、行くよ?」
「その前に…もし、俺が勝ったら仲間たちには手を出すな」
「……いいよ?じゃあ、負けたら?」
「負けたら…好きなだけ闘えばいいさ」
「ほんとに!?やったー!」
不敵な笑みを浮かべ、刀を抜き、俺に斬りかかってくる。
正直、なんの対処法がないのにわざわざ自分から闘いを申し込んだりしない。
咄嗟に思いつく対処法は二つある。
一つは攻撃の仕方を変えることでうまく戦える。
しかし、今の俺は神のおかげでスキルが使えない。
だから二つ目の方法を使わせてもらう
…
ミリアが俺に向かって走り、ある程度近づいた時…
「ミリア!!ヘビがいるぞ!!」
「えっ!?どこ、どこ!?」
ミリアは動きを止めてキョロキョロと辺りを確認する。
「嘘だよ!」
俺はすぐさまミリアの刀を奪い取り、体を使ってタックルした。
「きゃっ!」
「俺の勝ちだ!約束通り仲間には近づくなよ」
俺は倒れているミリアを見下して勝利宣言を言ってやった。
もうお分かりの通り、ミリアはヘビだけは大の苦手で、その言葉を聞くだけで背筋が凍るそうだ。
後ろの仲間達は
「ヨシさん…せこいです」とか「つまんなーい」とか「ヨシハル殿らしいな」とかなんとか言っていたがそんなことはスルーして切り抜けた。
「ま、負けちゃった…」
仲間たちと比べて負けを素直に受け止めるミリア。
「でも、一つだけお願いしていい?」
「ん?ああ。内容にもよるけどな」
そのお願いというものが気になったからとりあえず聞きたくなった。
「……な、仲間にしてください!!」
「仲間に…?」
ミリアを仲間に加える…か。考えなくもない。ミリアを仲間に加えれば戦力は格段に上がる。それにミリアに聞きたいこともある。
逆にミリアを仲間に入れなくてはどうせ、またこの辺りで辻斬りを始めるかもしれない。それでは困る。
(しかし…ミリアを仲間にしてもいいのか?)
俺は仲間たちの様子を伺うと、皆笑いながら頷いていた。
「わかった。いいよ」
「ほんとに!?」
「ほんと、ほんと」
よし!とガッツポーズをする。
俺の判断は本当に良かったものか。後々後悔しないだろうか。
一つだけ俺には不安があった。それはミリアが仲間にしたくないキャラで一位を獲得した理由。
「とりゃぁあ!」
ガキィィン!
剣と剣がぶつかる。
その理由は、自分より強い人を見ると斬りかからずにはいられない性格であるということだ。
「ぁあ…やっぱり君は最高だね!」
「いきなり仲間に斬りかかるお前は最低だな」
リリーが駆け寄ってきてミリアを取り押さえる。
それから俺たちはミリアを拘束したまま、家へと帰る。
「あ、あなたは!!」
部屋では回復して意識が戻ったカヤエがいて、ミリアを指差した。
「紹介するな。新しいく仲間になったミリア・ウィクトーリアだ」
「ミリア・ウィクトーリア…」
カヤエは何か因縁深くミリアを睨むがミリアは口笛を吹いて白々しくする。
「大丈夫なのですか?仲間にして」
「んー…大丈夫だろ。多分」
俺の楽観視した言葉にため息を一つつく。
「ほんとに、貴方という人は。では寝ましょうか」
俺たちはミリアの刀を回収して武器を没収すると、布団を用意しなおして床に就いた。
次の朝、
「隙ありぃ!」
「ぐふっ!」
寝ていた俺の腹にミリアがボディブローをきめる。
「隙あり!隙あり!隙あり!」
まだ目が覚めてないのにも関わらず必要以上にボディブローをいれる。みんな起きてしまっていたようでこの部屋にはいない。
「ちょっと待ったぁ!」
俺はミリアの両手を掴み、その勢いで押し倒してしまう。
「ぁ…」
ミリアの小さな声が聞こえたと思ったらふすまが開けられる。
「ヨシハルさん、朝ご飯の準備が……」
そして、開けた主が俺と目が合う。
「あ、いや、これは…」
俺は必死に状況を説明しようとするが、言葉がまとまらない。
「さ、最低です!!」
カヤエは顔を赤く染めるとふすまを勢いよく閉め、走り去った。
俺はそれで我にかえり、ミリアと距離をとる。
「その…ごめん」
「あ、いや、大丈夫だよ?私もちょっとやり過ぎちゃったから…」
なんか気まずい雰囲気が流れる。
「じゃ、じゃあ朝ご飯食べに行こうか」
俺は偶に攻撃してくるミリアを避けながら、連れて朝ご飯の匂いのする方へと向かった。
俺たちがその部屋に入ると既に朝ご飯の準備はされていた。
「遅いですよー、ヨシさん!」
俺たちが来るのを待っていたウラが痺れを切らしていた。
俺は一言謝って、食事にありつく。
「そういえば、カヤエ?」
俺が、ふとある事を思い出してカヤエに聞こうとしたが、カヤエはぷいっと顔を振り、聞く耳をもたない。完全に怒ってる。
「ごめんって。あれは事故なんだよ」
「そうですか。どうなったら事故であんなことになるんでしょうね」
完全に、完璧に怒ってる。
「ミリアも説明してくれよ…」
「え?何が?」
「さっきの誤解だよ」
俺はミリアにも誤解を説いてもらおうとした。
「何言ってるの?ヨシハルは、私としようとしてたじゃない」
ミリアはクスクスと態とらしく笑う。
「ばっ…!そうじゃないんだ、カヤエ!」
「もういいです!」
カヤエはカチャンと箸を置き、俺と一度も目を合わせないまま部屋からでて行った。
「何かあったのか?」
リリーが俺たちの会話に気を持ったのか、ご飯を食べながら聞いてきた。
「いいや、なんでもな……」
「ヨシハルは私のものっていう話だよ」
ミリアが俺の腕に抱きついてきた。
「ちょっ、ちょっと待て、違うぞ?」
「べ、別に私は、ヨシハル殿が好きとかじゃないから構わんのだが…」
「そう。ならヨシハルは私のだね」
「リリー、違うんだ……んっ」
俺がそう言おうとした時、ミリアがいきなりキスをしてきた。
「あ、わ、私は失礼する…」
「わ、私もっ…!」
こうして俺とミリア以外、アヤメまでもが部屋から出て行った。
「また二人きりだね!」
ミリアがそう言ってご飯を食べ進める。
「ミリア、もうやめてくれないか?」
「……いいじゃんか、別に」
「ミリアは嫌いじゃない。それはみんなが居ても変わらないことだ。でも、今みたいなミリアの性格は嫌いだ」
俺がそう言うとミリアは箸を止める。
「私は…そんなつもりじゃないよ…
私は、また他の人に好きな人を取られるのが嫌なの…
好きになった人は、みんな私より可愛い娘に取られていく…
もう嫌なの。だから私は先に取るの。だから先にヨシハルを取るの…」
(そんな、エピソードがあるとは…)
少し悲しい感じになってしまった。
「俺は誰にも取られないから安心しろよ」
俺は根拠のない事を言う。しかし、それだけで充分だったのか、ミリアは頷いてくれた。
これでまず、ミリアの性格を一つ蹴散らした。あとはこの、戦い癖かな?
「隙ありだよ!」
話をしていたのに隙があれば攻撃をしてくる。俺はそれを止める。
「じゃあ、俺は皆に誤解を説いてくるから」
俺は受け止めた手を離して立ち上がった。
「うん…」
ミリアの返事を確認してからその部屋を出た。
(誰から説得しようか……やっぱりカヤエか…)
この家はかなり広くて、何部屋も部屋がある。
「カヤエが居そうなのはここだな」
俺は屋根へと向けてよじ登っていく。カヤエはだいたい、見晴らしの良いところを好む。
「よいしょっと…」
屋根へと上がると予想した通りにカヤエは屋根の上で座っていた。
俺が誤解を説こうとする前にカヤエが先に話す。
「ヨシハルさんの国は、複数の人と愛し合ってもいいのですか?」
「愛し合うことはできるけど、結婚したりは出来ないよ」
「じゃあ私は所詮、使い捨て、ストックというところですか」
カヤエは偶にネガティブになると、かなり暗い事ばかり言う。
「使い捨てだなんて、そんなことは…」
「でしたら私に証拠を見せてください」
「証拠?」
「はい。ヨシハルさんが私に対する思いの証拠です」
証拠って言われてもどうしたらいいんだ?そんなこと、わからない。
カヤエは立ち上がり、俺の前まで来る。
「私を抱きしめてください」
「へ?」
「抱きしめてください…」
カヤエは前に手を組んで体をよじっている。
「わかった」
俺はカヤエの手を引っ張り引き寄せそのまま抱きしめた。カヤエより俺の方が背が高いため、俺の手はカヤエの頭と背中へとまわった。
カヤエも俺の背中に手をまわす。
「もっと、強く…」
俺は手に力をいれて少し強めに抱きしめた。
「私は、幼い頃に一度だけ父に抱きしめてもらったことがありました。それは私が迷子になった時でした。
しかしそれ以来、私は人の温かさを知りませんでした。
ヨシハルさんは、温かい…」
「そうか…」
「誤解だったことは知っています。それくらい気付きますよ」
「なんだ、気付いてたのか」
「当然です。ただ、もう一度、貴方の温かさを感じたかっただけです。
貴方は、温かい…」
30話を突入しました!
これからもよろしくお願いします




