第29話 初めての留守番
とりあえずは、街に入ったもののどうしていいかわからない。
「私はこの世界に少し、興味があるんで、自由行動して良いですかー?」
ウラがこの空気に耐え兼ねたのか、それとも流れを変えようとしたのか、自分から話でた。
「ああ、良いよ。でもあんまり変なことしないでくれよ」
「わかってますって!じゃあ、夕方くらいにこの場所で集まりましょう!」
すぐにでも行きたいのか、集合場所を勝手に決めて、走っていった。
「じゃあ、私も散策してこようかなー?」
ウラにつられてアルも何処かに走っていった。
先ほど魔力を使い果たしたとは思えない威勢の良さだ。
「リリーはどうするんだ?」
「よくわからんが、私もとりあえずこの世界に慣れないといけないから、どんな所なのか見てくる」
やはり、異世界にきて皆不安なようだ。リリーは江戸時代の文化や技術について気になっている。
「アヤメは、どうする?」
「……よしはるについてく」
唯一、アヤメだけがあまり興味がないようだ。いや、興味はないわけではないのだろうが、あまり気が進まないように見える。
正直のところ、高校で日本史を選択していて良かったと今思えた。
(学校で習うことって、こんな時に役に立つんだなぁ…)
「……あれ、なに?」
俺が小さな感動を抱いている時にアヤメが俺の袖を引っ張り、指をさしてきた。俺はその指をさした方角を見る。
「おお…俺も初めて見た。あれはな、大名行列っていってな…まぁ、簡単に言うとピクニックだ」
どーせ細かいこと言ってもわからないだろうか適当に言っておくことにした。
「アヤメ、端に寄れよ」
アヤメの手を引っ張って砂が固められたように整備された道の端に寄せる。
この大名は、紋章からしてあまり位が高くない。位が高くない大名へは土下座はしなくてもよかったはず…
と、大名行列は、何事もなく通り過ぎていこうとした時。
「あ、こらっ!」
アヤメがいきなり大名行列に向かって歩き出し、大名行列の前に立ち塞がった。
「其処の者!ここは大名行列だぞ!」
アヤメは聞こえてないかのように、その場にしゃがみ込み、その場に落ちてある何かを拾った。
「退け!!」
流石に、行列の前を通っただけではいきなり斬り捨てたりしないようだ。
しかし、先頭に居た男がアヤメの前に立つ。
「危ない!アヤメ!」
俺がスキルを使おうとした時、
「ちょっと待ちなさいなぁー」
一人の男が現れて、間に入った。
「なっ!貴様、無礼だぞ!」
「この女性は悪くないやろっ!この行列がちぃーちゃくて、目に見えて無かっただけやろぉー」
その男は行列を見渡しながらそういった。
「な、なんだと!?」
それを聞いて、行列にいた男達も怒り出す。
「待ちなさい」
その時に、駕籠の中から大名らしき人が出てきた。
「その男に免じて今回は許す。さっさと退きなさい」
その大名らしき人がそう言うと、アヤメを守ってくれた男はアヤメを連れて道の端へと寄った。
大名行列は何事もなかったように通り過ぎる。
「大丈夫か、アヤメ」
俺がアヤメの方へ駆け寄ると、アヤメは自分が何をしたかわかってないようで、首を傾げる。
「気ぃ付けな?次は知らんからな」
「ありがとう。で、あなたは誰ですか?」
「そんな畏まらなくてもいいんやで。ワシは坂本直柔っちゅーもんや」
坂本…直柔…?
坂本…直柔って確か…
「坂本龍馬ぁ!??」
なんたる偶然であろうか。今俺は、物凄く感動している!歴史上偉大な人物と会話してるんだ。
「あんま、大声ださんといてや。耳痛いわ…」
「あ、ごめん…つい…いやぁ、それにしても写真で見るよりカッコいいな~」
「写真?」
「あ、いや、何でもない。この後、どうするんだ?」
坂本龍馬に敬語を使わない俺がカッコ良く感じるので敬語を排除して、この後のことを聞く。
「ワシは用があるからな」
「実は、俺たち流れ者で…家が無いんですよ。宿泊できるところ知ってます?」
流石に威圧感漂う坂本龍馬に敬語無しでは話せなかった。
「それやったら、ワシんとこに来いや」
「あ、ありがとうございます」
ちょうど良く、宿泊先が決まった。多分、当分はそこに住むことになるだろう。
というわけで、俺たちは龍馬と話をしながら家に案内された。
「ここは、ワシの家とちゃうねんけど、事情があって借りてんねん」
そういって、家のドアを開ける。
「ひ…広い…」
カヤエの豪邸程、大きくはないが充分広いと言える。
「さ、入った、入った~」
長い廊下を渡り、一室へと案内された。
「ここなら自由に使ってええから。あ、それと隣の部屋もな」
「ほんとにありがとうございます…」
「それくらい、ええって。その代わり、困った時はお互い様やで?」
(やっぱ大物は違うなぁ…
身近な利益じゃなくて、未来の利益を見据えているんだからなぁ…)
大物との格差を感じていると、廊下から誰かが慌てて走って来る音が聞こえて来た。
俺達はその廊下側のふすまを見つめていると、荒々しくふすまは開けられた。
「だ、大丈夫ですか!??」
それは、息切れしながら短剣を抜いているカヤエだった。
「ど、どうしたんだ?」
カヤエは場の状況を理解したのか、短剣を閉まった。
「あ、すみません…ヨシハルさんが、何者かにこの建物に連れられていたので……てっきり、襲われたのかと…
よく考えれば、あなたなら大丈夫でしたね」
カヤエは龍馬を見つめながらそう言った。
「それよりも、カヤエ。まだ怒ってるのか…?」
「もともと、怒ってなどいません。あの時は感情に流されてしまいましたが…」
…カヤエの考えていることは本当にわからない。アレは完全に怒ってただろ。
「ところで、この方は?」
「ワシは坂本や。よろしゅう」
「ヨウシです。よろしくお願います」
カヤエも無事に帰ってきたということで、カヤエもここに宿泊することとなった。
「では、私は皆さんの状況を確認しますのでこれで…」
カヤエはそう言って畳の部屋から出て行った。それを見計らって龍馬も立ち上がる。
「ワシは大事な用事があるから留守にするわ。頼んだで」
というわけで、俺たちは留守番を任された。
アヤメとの静かな時間が進んでいく。時計すらないこの空間で、シーンとした空気が漂う。
「あの……アヤメ…?」
俺がこの空気を打破しようと話しかけた。
「……なに?」
「…あ、いや…なんでもない…」
打破出来なかった。アヤメとのやりとりも何時までたっても慣れない。こうなることは、龍馬が立ち上がってから薄々感ずいていた。
静かな時間が流れていく。
どんな会話を持ち掛ければいいのだろうか?この時代の話でもするか?でも興味なさそうだし…
と、自問自答していたそんな時…
「オラぁ!坂本はいねーかぁ!?」
荒々しく玄関の扉が開けられる音が聞こえる。
俺はすぐに玄関へと向かう。
「なんだテメェ?坂本はどこだぁ?」
6人くらいのチンピラが押し寄せていた。チンピラかどうかは確定出来ないが、身なりが明らかにチンピラだ。
「龍馬さんなら留守だけど…」
「留守だぁ!?んなわけがねぇーだろぉが!どこに居るんだ?」
威嚇でもするかのように声を張り上げる。それに対して俺も少しイラっときた。
「だから留守だって」
「おい!さっきから隠そうたって無駄だぞ?はやく出さんと、お前ら痛い目に合うぞぉ?」
リーダーらしきやつがそう言うと、後ろの下っ端がアヤメに近づく。
「兄貴、この女なら高く売れますぜ?」
何を言い出すかと思ったらこんなこと言い出した。なんてありきたりなセリフだろうか。
「アヤメに近づくな」
ありきたりなセリフにはありきたりなセリフを返してやった。
東京ドームより広い俺の心も、その言葉にはカチンときた。
その近づいたチンピラ一人を前蹴りでねじ伏せる。尋常じゃなく吹き飛んでいった。常人ではあり得ないことだ。
それに軽く恐怖したのか、その恐怖をかき消すかのようにいっそう大きな声を張り上げる。
「て、てめぇ!死にてーみたいだなぁ!!」
そしてチンピラリーダーが刀を抜き出す。
「やるのか?」
俺もそれに合わせて軽く身構えする。
「死ね!!」
俺にその刀が振り降ろされる時、
(ムーメント、ムーブメント!!)
「あれぇ!?」
「オラァアアア!!」
空間停止スキルを使った筈だが、なにも起こらない。
縦に振り下ろされる刀を俺はギリギリに避ける。
「あっ、あっぶねー!!」
神の野郎!スキル使えないじゃないか!
「へへへ…」
チンピラリーダーはジリジリと近づき、また刀が振り下ろされる。
俺がダマソードで受け止めると…
ポッキリ…
チンピラリーダーの刀は、呆気なく、そう、まるでポ○キーのようにポッキリと折れてしまった。いや、そこはプリ○ツとかト○ポとかでもいいんだが、あえてポ○キーにしておく。
「な、何だと!?」
チンピラリーダーは自分との格差を知ったのか、情けない声をあげてすぐに走り去って行った。
それから少し立たずに龍馬が息を切らしながら帰ってくる。
「だ、大丈夫ですか?」
「ワシよりもお前らが…あれ?チンピラどもはまだ来てないんか?」
「あ、チンピラなら追い返しました」
「なんて?」
「チンピラなら追い返しました」
俺の言葉に、龍馬は目を丸くする。
「あっははははッ!ホンマか?やるな、お前、えーと…」
「ヨシハルです」
「ヨシハルか!やるなぁ!」
「困った時はお互い様ですよ」
俺が笑いながら言うと、龍馬は顔色を変える。
「それがな…実は大判を落としてもうてな…借りてた借金が返されへんねん…」
「大判…ですか…?」
大判といえば小判よりも大きい金の塊。そんなものを落とすとは、坂本龍馬とはそこまでドジだったのか?まさかドジっ娘……
「一緒に、探してくれんか?」
「別に構いませんよ」
「ホンマか!?それはありがたい!」
龍馬が感激して俺の手を握るのを他所に俺はアヤメの方に顔を向ける。
「アヤメ、さっき拾ったやつ出して」
「……これ?」
大名行列の際、アヤメが何かを拾ったのを俺は見逃さなかった。
アヤメの手には金色に輝く塊が握られていた。
「ああ!それや、ソレ!ありがとう!嬢ちゃん!…えっと…」
「……あやめ」
「あ、アヤメちゃんか!ありがとう!」
龍馬は俺の手からアヤメの手へと乗り換え、縦にブンブンと振る。
「ホンマにありがとうな……それより、最近ここいらで辻斬りがいきなり流行り出したんや。それだけは気い付けや」
「わかりました。今、夕方ですよね…?ちょっと用事があるんで、家を留守にします」
「了解!暗くなる前には帰ってきいや」
もう空は赤く染まっていた。
俺はアヤメと一緒に皆の待ち合わせ場所に向かった。
「遅いですよぉ!」
既に皆さん、お揃いのようでした。
「宿はもう取ってある。行こうか」
「はい!」
ウラたちを引き連れ、龍馬の借家へと再び戻る。
「…多いな」
龍馬は誰かを連れてくることを予想していたのだが、この人数は少し予想外だったようだ。
「ま、まぁ、ええわ。俺は隣の家でねるから、お前らはこの家で寝えや」
「ほんとありがとうございます…」
なんか、龍馬を追い出した感じになった。
「ところで、カヤエさんはまだ帰ってないんですか?」
「あー、カヤエはまだ街を散策してるよ」
「そうですか」
赤く染まっていた空は黒で塗りつぶされていく。
完全に空が真っ暗になってもカヤエは帰ってこなかったため、飯抜きで俺たちは寝ることになった。
「おやすみー」
俺たちは同じ部屋で寝ることになった。
満月の下でスズムシの鳴き声が良く聞こえる真夜中…
「そこの者、待って」
その言葉に、カヤエはアンテナをピクッとさせる。
「なんでしょう?この真夜中に」
「あなたの刀、何処か懐かしい…」
その女はカヤエの腰にしまっている短剣をみつめる。
「何を言って…」
カヤエがそう言った時、その女は刀を抜き出し、カヤエに斬りかかる。
カヤエは瞬時に判断し、さっと避ける。
「なるほど。巷で噂になっている辻斬りとは、貴方のことでしたか…
しかし、貴方どこかで…」
女はカヤエの言うことが聞こえてないかのように斬りかかる。
「しかし、そのような構えでは私を倒せません」
カヤエはそれに立ち向かうように短剣を抜き出し、斬り合った。
お互いがすれ違うようにして斬り合ったあと、女は一言。
「ミリア家直伝……サムライ狩り…」
途端、カヤエの身体は無数に切り刻まれる。
「いっ…なっ、何を…!?ヨシハルさんに…報告しなければ…」
カヤエの前には薄気味悪く頬笑む女性が立っていた。
○が多いですが、勘弁してください
100人達成しました!!
ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!
あと、龍馬の口調が関西弁なのは、そんな龍馬が見ていたいと思った好奇心からです。
深い意味はありません。




