第二十二条 当たり障りのない日常
ストーリーやキャラクターにおかしな矛盾が発生する可能性が高いです。
自分でも、見てはいますが、
見つけ次第、報告願います。
フェルトザウルス。
このモンスターは、大量発生する確率は極めて低い。
大量発生イベント、つまりこのイベントでは、凡ゆるモンスターが大量発生 してしまう。
しかし、これは矢鱈滅多に起こるものではなく、モンスターと戦ったり、あまりイベントをこなしてストーリーを進めていないと、このイベントは発生する。
プレイヤーに平和ボケや、楽をするのを防止するためのイベントである。
ということは、俺はかなり平和ボケしてたということになる。
しかも大量発生したモンスターがよりにもよってフェルトザウルスだなんて…
フェルトザウルスが出現するエリアは魔王城の中枢近く。
レベルは200を優に超す。
俺達は急いでギルドに向かう。するとそこには既に冒険者が集まっていた。
「えー…お前らに集まってもらったのは、今回大量発生したフェルトザウルスを狩ってもらうためだ」
ギルドマスターは大声で、集まっているメンバーに伝える。
フェルトザウルスという単語に騒然とする一同。
「だから、ここにはレベルを100越しているか、ランクがついている者しか招集していない」
その言葉に俺は辺りを見回す。
確かに、周りには「ギルダー・アル」や「ミセス・デリス」など、このゲームでは有名で、高レベルの冒険者が集まっている。
「フェルトザウルスは確かに強い。強いからこそ、お前たちを集めた。奴らはキガの森にいる。狩り目標は100頭だ。俺からは以上!!行って来い!」
ギルドマスターが掛け声をあげると、皆も意気込みを入れて走り出す。
走り出す奴らの中にはスキルを使ったり、飛行魔法を使って飛んだりする者がいたりと、個性豊かだ。
俺達はあまり焦らずに普通に歩いていると、俺の後ろから肩に手を回して軽くもたれかかってくる者がいた。
「あなた達も参加するの?」
こいつがギルダー・アルだ。
そういえばアルとゲームの中で出会ったことがない。
「うん。そうだけど?」
「いきなりで悪いのだけど、パーティ組んでもいい?」
本当にいきなりのパーティ加入依頼だった。
アルの髪の毛はピンク色なのに、目立たない感じで、その笑顔はカヤエやアヤメにはない笑顔だ。
俺がカヤエに目で合図すると
「私達は構いませんが、その者は確か、ギルダー・アルさんですよね?」
「そうだよ~?私も有名人になっちゃった」
ちょっと待て、顔近い。
「いいよ」
俺は一言言うと、アルを引き離す。
「んじゃっ、私のことはアルって呼んでね。あ、それと、ヨウシちゃんは有名だから知ってるけど、二人は??」
「貴方が突っかかっているのが、ヨシ……レイさんで、こちらがアヤメさんです」
「ふーん。レイちゃんにアヤメちゃんか……よろしくね?」
という訳で急遽、アルが仲間に入った。そしてカヤエが俺の名前を勝手に改名した。
……まぁ仕方ないか。ヨシハルなんてのは男の名前だからな。
多分、適当に名前を付けたのだろう。
「じゃあ、早速だけど…」
アルがそう言うと、俺達の視界が一瞬暗くなる。
そして一瞬にして、俺達は森の中にいた。
まさか、こいつも瞬間移動スキルを使えるのか…?
「どーお?凄いでしょっ?」
「……いえ、確かに凄いですが、私達は前にそのスキルを使う方に会っていますので」
「ふーん…私以外にも?」
カヤエはきっと俺の事を言っているのだろう。
だが、世界中探しても、瞬間移動スキルを使えるのはアルしかいない。
普通ならな。だが、主人公はなんでもありだから、使えちゃうんだな。
ギィィィイイイイ!!
俺達の声が響いていたのか、フェルトザウルスが何時の間にか集まり、四匹で俺達を囲む。
「うっわー、フェルトザウルスが四匹もー?…仕方ないなー。ヨウシちゃん達は二匹お願い。私は二匹を……」
アルが言いかけた時、彼女の前を一つの閃光が走る。
と思ったら、前の二匹のフェルトザウルスが崩れ、その次に後ろの二匹のフェルトザウルスが崩れる。
その閃光はくっきりと見えたと思えば、すぐに消える。
「私達は、フェルトザウルスごとき、敵ではありません」
閃光の正体はカヤエだった。
強化したカヤエは最早最強だな…
多分強化しただけでなく、話に聞いたあの技を使えるようになったからだろうか。
「す、すごーい…」
どうやら、アルも凄いの一言しか言えないようだ。
「さー。いこいこー」
俺が棒読みで場をまとめ上げ、次のフェルトザウルスを倒しに向かう。
俺達が足を進めている内に、今度は五匹のフェルトザウルスが現れた。
「カヤエ、少し待って。ここは私がする」
「しかしヨシ…いや、レイさん」
俺はカヤエの忠告を無視する。
今から神殺しのランクの力を見せてやる…
ランクはタダの飾りではない。
ランクを持つことにより、力は幾千倍にも膨れ上がる。
「…バックシールド」
久しぶりに声を出してバックシールドを使う。
俺の視界から一瞬にしてカヤエ達は消え、目の前にフェルトザウルスが現れる。
そのまま、そのフェルトザウルスを切り刻もうとするが、剣が弾かれる。ここまでは、俺の素の力だ。
ここからが、神殺しの力…
見せてもらおうか!神殺しの力を!
俺は神殺しランクを発動。次第に俺の身体がゴールドに輝き出す。
バックシールドを使い、再びフェルトザウルスに近づく…のだが。
「…わぁあ!!」
俺はフェルトザウルスを通り過ぎ、奥の木にぶつかった。
神殺しの力があまり過ぎて、上手く使えない。
俺はバックシールドを使わず、走り出す。
ただ走るだけなのに、バックシールドと同じスピードがでる。
俺は剣で斬りつけるのを忘れ、左手でフェルトザウルスの頭を叩きつけた。
そいつは、その一撃で息絶えた。
ちょっと待って…
強過ぎない?なんだかテンション上がってきたよ…
俺は剣を置いて、残りのフェルトザウルスを素手で殺した。
「凄い…」
最早、残りのフェルトザウルスに反撃の術もなく、呆気なく倒せた。
ここまで強いのか、神殺しとやらは。
俺は剣を拾う。これなら案外、魔王も簡単に倒せるかもしれないな。
「これぁ、私の出る出番は無いねー…」
アルは頭をかきながら少し諦めたような声でそう言った。
「はい、アルさんは見学していてください」
「…そーさせてもらうよ」
アルは完全に諦めて、見学することにしたみたいだ。
「アヤメ?一回、戦ってみる?」
「……いい」
どうやらアヤメはフェルトザウルスが 恐いようだ。確かに初戦の相手がフェルトザウルスなんて無理だよな。俺だったら泣くわ。
俺達はそのあとも狩りを続け、夕方になったころ。
「そろそろ帰った方がいーんじゃないの?何匹倒したか数えられないし、夕方になったら大量発生は終わるよー」
…うん、確かにアルの言うことに一理ある。
俺達は一旦ギルドに戻ると、既に100頭の討伐は終わっていたようで、謝礼金をいただいた。一応、アルにも謝礼金を渡す。
「ありがとー。…っと、言いずらいのだけど、私、泊まるとこないんだ。もう夕方だし、ホテルも取れないの。私を泊めてくれない?」
女性にこんな事言われたら……
一応俺達は相談したが、心優しい天使のようなアヤメが、一つ部屋が空いてるんだから、とOKした。
と言うわけで、自宅に帰宅。
「広いなぁー」
かなり驚いているようだが当然だろう。
「私は夕飯を作りますので…レイさんはアルさんを、部屋に案内してください」
俺は返事をして、アルを案内する。
「ここだよ」
俺は部屋を開けて、中に誘導する。
「わざわざこんな所を……いやぁ、ありがとう」
女性に礼を言われると少し照れる。
五分したらリビングにくるようにだけ言って、俺はリビングに行く。
カヤエなら五分もしない内に作り上げるであろう。
俺はアヤメと椅子に座り、料理が来るのを待つ。
やはり数分すれば、料理は並べられた。
五分きっちりにアルは折りたたみの椅子を持ってリビングに来た。
アルって意外と几帳面な所もあるものだ。少しは感心した。
「…五分でこんなにも料理が作れるの…?凄いよ、ヨウシちゃんは」
「いえいえ、これくらい、出来て当たり前です」
いや、当たり前じゃないんだけど…
「戴きます」
「いただきます」
「……いただきます」
「いただきまーす」
今日も料理は何時も変わらず、美味しい。
「んーっ!美味しー!」
アルは一口食べて、そう叫ぶ。
「そう言っていただけると、作り甲斐があります」
「……これ、なに?」
アヤメが料理に指をさしている。
その料理に視線を移す。
…まさか、アレを作れたのか…?
「それは、うどんです。レイさん故郷であった料理だそうです」
アヤメは、ふーんといってそのうどんを食べる。
「カヤエは、どうやって作ったの?作り方とか教えてないのに」
「この間食べた時に、この舌が覚えています。味で、作り方や食材ぐらいはわかります」
ぐらい…って…
ただのバトルマニアだと思っていたが…まさか、こいつ、天才か?
俺はうどんを掬いながら、微笑むカヤエを見ながら、そう思っていた。
俺達は完食したあと、お風呂に入ることになったのだが…
「うっわー!すごーいっ!」
大浴場に入ったのはいいのだが、先程からアルのテンションは高い。
確かに初めて見た時はその広さに驚いたが、そこまでである。
なんだかついていけない。
俺はアルを直視しないようにしながらサッサと体を洗う。
カヤエやアヤメ達は、慣れているからなのか、あんまりそんな感じにはならなかったが、アルはちょっと……
アルがようやく落ち着いて、体を洗い始めた頃、俺は既に浴槽に浸かっていた。
両側にはアヤメとカヤエが居たのだが、カヤエは逆上せるからと、先に大浴場を出た。
そしてようやく、アルも浴槽に入ってくる。
そこでアルは首を少し傾ける。
「あのさー?なんでアヤメちゃんはそんなにレイちゃんにくっ付いてるの?」
それは純粋な質問だったが、俺は固まる。確かに浴槽は特に狭くないし、どちらかといえば広い。それは10人以上は入れるだろう。
「……すきだから」
アヤメのその言葉に場が静まり返る。きっと勘違いされたに違いない…
「まさか、アヤメちゃんにそんな趣……」
「違うよ!?何か勘違いしてるからね?」
俺はカタコトな女言葉で必死に説得した。
俺達が風呂から上がっても、目線が冷たかったが、もう我慢することにした。
そしてそれぞれ寝ることになったのだが、アルの部屋にはベットはあるけど布団が無いという謎の事態が発生したため、
「それでしたら、レイさんの部屋で寝てはどうでしょう?私達は私達の部屋で寝ますので」
ということになり、今、隣りでアルが寝ている。
久しぶりに感じるこのドキドキ感を、必死に抑え込む。
「起きてるかなー?レイちゃん」
いきなり喋るもんだから、ビクッと驚いてしまった。
「お、起きてるよ!?うん、起きてる起きてる」
「そ、そう?なら良いんだけど…」
「どうしたんだ?」
「レイちゃんは今、レベル幾つなの?」
俺はフェルトザウルスを何頭も倒している。だから、結構レベルは上がってるはずだ。
ギルドカードを確認する。
「…14レベ…」
「えー!?たかが14でフェルトザウルスを倒しちゃうなんて…」
少し疑って、俺のギルドカードを確認すると、それはそれで納得する。
「か、神殺し…ランク…?」
俺が推測するに、ランクにはそれぞれいくつの経験値でいくつレベルが上がるか定められている。
例えば、サムライランクをもっているとしよう。
ここでは説明しやすいように経験値を数値に置き換える。
で、サムライランクはレベルを1つ上げるには3000必要だ。
一方、流離いの変態ランクは1000必要である。この時、どちらがレベルが上がりやすいかとなると、断然、流離いの変態ランクというのがわかる。
こんな感じで、神殺しランクはレベルを上げるのに、かなり高い経験値が必要とされるのだろう。
「…じゃあ、アルは?」
ここを責められたら対応出来ないので、先に話を降っておく。
「私はレベル184だよー。で、ヨウシちゃんとかはどれくらい?」
「私は224です」
俺達の話が聞こえていたのか、カヤエは部屋に入ってきて、布団に入る。
確か、ウラと確認した時に204だったから20上がったのか。いくらフェルトザウルスで経験値を得たとはいえ、レベル200を越せば、上がりにくいようだ。
「224!?すごいねー君たち。アヤメちゃんは?」
「それが、アヤメさんは、レベル不明なのです」
アヤメのレベルが不明なことには、アルは何も反応しなかった。
そのまま、会話がなくなり、やがて眠りについた。
次の日の朝。両側には誰もいなかった。
「おはよぅ…」
俺がリビングへ向かうと、既に料理が出来ていて、綺麗に並べられていた。
カヤエは、おはようございますと一言告げて椅子に座る。
俺達はいただきますの挨拶で料理を食べ始める。
「美味しいー!やっぱりヨウシちゃんの料理はサイコーだなー!」
「アルさんは本当に美味しそうに食べてくださいます」
と言って俺をチラッと見る。
やがて料理はキレイに食べ終わり、ご馳走様の合図で今日の予定に作りに入る。
「今日は、アヤメの力を試すことにする」
アヤメのレベルがわからない今、どう戦えばいいのかわからないし、足で纏いになってしまうかもしれない。
見た目や雰囲気での判断であるが、レベルは100を超えているのではないだろうか?
「本当に、気になるよねー」
「確かに気になります」
カヤエは何かを疑うような目でアヤメを見る。
真っ白な天使にそんな目で見ないで欲しい。
「アヤメ、いいよな?」
「……べつに」
別にというからには良いのだろう。今はそう解釈させてもらう。
「じゃあ、今日はキガの森へ行こう。大量発生も終わったし、普通の森に戻ってるはずだ」
キガの森に出てくるモンスターは大体レベル50前後で、さほど強くない。
俺達は身支度を済ませキガの森へと向かう。
昨日、アルに自慢気に瞬間移動スキルを使われたので、俺もカヤエの剣を借り、スキルを使う。
アルは少しショックを受けていたが、そんなのはどうでもいい。
キガの森で最初に出くわしたのは、カムリというモンスター。
カムリはあまり自分から人に攻撃せず、穏やかな性格でレベルは40程度。
しかし、少しでも攻撃すれば、その性格から一変し、猛攻撃を繰り出して来る。
俺も最初の頃はその猛攻撃に苦戦したが、今のレベルでは苦戦する敵ではない。
アヤメはカヤエから借りたソウセイ剣を持ち、カムリの前に立つ。
カムリは犬型のモンスターで、すばしっこいのだが、あの距離ならアヤメでも当てれるはずだ。
「……」
しかし、アヤメは攻撃せず、カムリを見つめる。
カムリも、攻撃せず、アヤメを見つめる。
いや、そもそもカムリは自分からは攻撃しないので、まぁ、こうなる。
見つめ合いが続き、
まさかの人間とモンスターが共存共栄を果たせるのではないのか、と思うほど、心が通じ合っているように、カムリに一言、
「……すきなものは?」
いきなりの一言に、モンスターであるカムリも一瞬ビクリとしたが、また体制を整えアヤメを見つめる。
モンスターに好きなものを聞く奴は初めて見たが、それを聞いて攻撃しないモンスターも初めて見た。
「……*○☆★◆▼◇△」
今度は意味のわからない言葉を発した。
何をやってんだか。
「蹴りを付けましょうか」とか言って前に出ようとするやつも出てきた。
早くして欲しい。
アルは腕を組んで木にもたれかかり、アヤメをじっと見つめている。
するとアヤメはカヤエから借りたソウセイ剣を振りかぶり、一撃を放つ。
その一撃はカムリの腹にクリーンヒットし、カムリは息絶えた。
やっと戦いが終わり、アヤメが戻ってきた。
「どうだった?」
「……」
何も答えなかった。
だが、カムリを一撃で倒せたなら、やはりレベルは50以上であるといえる。
確かに、ソウセイ剣の威力は強いが、やっぱりそれ位のレベルが無いと、今のは不可能だろう。
「さ、次は……おっ、スライムか」
なんだ、スライムか…
って、スライムだと!?
「アヤメ、カヤエ!逃げろ!!」
咄嗟に声を張り上げてしまう。
幸い、まだスライムは俺達を見つけていない。この隙に…!
しかし、
「アヤメ!?何やってんだ!」
アヤメはソウセイ剣片手にスライムの方に向かっていた。
このゲームはかなり前に説明したが、初級編、中級編、上級編、特別編と四段階のレベル構成となっている。
俺は最初、中級編でゲームを進めていった。
レベルが40程度の頃、レベル上げの為、キガの森でモンスターを乱獲していた時、スライムが現れた。
確かにスライムは弱く、経験値が豊富で、そのおかげで簡単にレベル50まで上げることに成功したのだ。
俺は中級編をクリアしたあと、すぐに特別編をすることにした。
特別編でも、苦戦はしたものの、レベル40まで上げて、またスライムの力を借りることに、キガの森へ出かけた…
しかし、
待っていたのは、恐怖や絶望…
そこに愛と勇気なんてものは存在しなかった。
特別編のスライムは通常のスライムとは思えない様な俊敏な動きをし、一つ一つの攻撃が強い。
その上プレイヤーが死なない限り、魔法や猛突進を繰り広げるため、一度攻撃を受け、体制を崩し、こけようものなら、反撃の手段はない。
それに、体力もかなりのもので、ソウセイ剣じゃあ、真面に攻撃が通っても最低5回くらいは死なないし、防御力や回避能力も高い。
加えて、クリティカルヒットも無く、状態異常も効果なし。
つまり、特別編でスライムは「触らぬ神に祟りなし」と呼ばれる程、戦ってはいけない、最強のモンスターとなったのだ。
俺が思うに、神殺しランクを使えば勝てなくもないだろうが、それは確かではない。
「何故、スライムがここに?」
スライムから距離を取ったカヤエはそう呟いた。
「私はこの間見かけたよー?直ぐに逃げたけどね」
特別編になってから、スライムは最強となったため、出現率もかなり抑え目になっている。
というか、俺って本当に不運だな。
それよりもアヤメだ。
アヤメはさっきのカムリと同じ様にスライムの前に立つ。
スライムは相変わらずの形で、コポコポと音を立てている。
だめだ!あのままでは!
神殺しのランクを発動させ、走り出す。
しかし、スライムも俊敏な動きを見せ、アヤメに突進を仕掛ける。
だが…
「なに!?」
スライムはアヤメの前でピタッと止まった。何かを見て怯えた犬の様に。
俺はその隙に渾身の一撃を炸裂させ、スライムは死んだ。
今の俺からして、例え、特別編のスライムといえど、やはり神殺しランクの前では弱いようだ。しかし、俺が今回恐れたのはスライムの俊敏さにある。
その速さは尋常でなく、目に見えない速さ、とでも言うのか。
しかし、動きの止まったスライムなど、恐れる所は何もない。
「…ふぅー、なんだか知らないが、良かった」
一体、何がどうなったのか、皆目検討も着かないが、結果オーライなので、まぁ、良しとしよう。
今度、スライムを見かけたらすぐに皆に知らせ、全力で走って逃げることを肝に命じさせてから、
アヤメの実力を試す事を続行した。
次に出てきたのは、サガンだ。
サガンというモンスターはカムリとは正反対で、とても凶暴で、人間を見かけたら直様攻撃を仕掛けて来る。
もちろんサガンはアヤメを見かけると、直様攻撃を仕掛けた。
しかし、
また、さっきのスライムと同じように、ピタッと動きを止める。
アヤメはその隙に一撃でサガンを倒す。
一体何が起きてるんだ?
スライムといい、サガンといい。
あいつらも、必死に戦えば、アヤメを倒せる力はあったはずだ。なのに、アヤメの前で、何かに怯えて、ピタッと止まる。
まるでアヤメがモンスターを従えているかのようだ。
「アヤメのレベルは大体わかった。そのレベルであれば、きっとこれから大丈夫だ」
とだけ言っておく。
俺は瞬間転移スキルを使い、家にもどる。
「では私は、一度城に出向かないといけませんので、失礼します」
一礼して走り去っていった。
今頃だが、俺たちが購入した家はヨウセツの街にあり、この街にはこの国の城が立っている。
城があるわけだから、当然王様もいる。
カヤエがその城になんの用があるのかは知らないが少し気になる。
ゲームではカヤエとパーティになる事はあり得なかったため、何時も教会にいるバトルマニア教の信者とばかり思っていたが、別にこれといって信者というわけではないようだ。
いや、バトルマニア教なんて無いんだけどな。
「アヤメは……ひぐ!」
アヤメが俺の尻尾を掴んできた。
やっぱりしまって置くべきだった。
「……ふさふさー…」
尻尾を手で包み、それを内から外へとなだらかにながす。
「…やめてくれ…」
一言そういうと、アヤメは怒られた猫の様に尻尾を離して身体を小さくする。
…別に怒ってないんだけど。
「……おこってる?」
「いやいや、怒ってないよ?」
「……そう」
なぜか安心したような顔をする。
アヤメは今日の事で疲れたのか、俺に身体を任せて寝てしまった。
立っていたのに、いきなり眠り出すもんだから、俺は倒れるアヤメを両手で包む。
「ったく。仕方ないな」
俺はアヤメをお姫様抱っこして、部屋に連れて行く。
アヤメを丁寧にベッドの上に寝かせる。ベッドはアヤメを受け入れるように接している所が沈み込む。
俺はそれを確認すると、安心して部屋を出た。
「変だよねー?」
部屋のそとにいたのはアルだった。
「何が?」
「キガの森のモンスターだよー。確かにモンスターは相手とのレベルの差を本能で感じることができる。だから、恐れて、私達に攻撃してくることは少ない。
でも、アヤメちゃんは違うよね」
俺が返事をせずに黙っていると、続けて話を続ける。
「確かに、アヤメちゃんのレベルはわかんないけど、モンスター達はレベルの差を感じ取ると、攻撃の素振りも見せずに直ぐに逃げるよね?でも、アヤメちゃんは違った。なぜか目の前で止まったんだよねー」
確かに疑問に思うことは幾つかある。だけど、今それを考えたところで何になることでもない。
「アヤメについては今は調べようがないよ。今は考えないでおこう」
アルは「うーん」と悩み声を出したが納得したようだ。
それから暫くして、カヤエが帰ってくると、すぐに夕飯を作るためにキッチンに直行した。
最近、夜が来るのが早い気がする。
カヤエにも同意を求めたが、「気のせいです」と一言でまとめ上げられた。
天使にも同意を求めたが「……」と、 天使は何も応えてくれなかった。
アルにも同意を求めたが、「わかんない」だけだった。
俺たちは料理を食べ終え、風呂に入ることにした。
また四人で入る。
「お背中流しましょうか?」
「ああ、頼むよ」
カヤエは微笑みながらそう言ってきたので俺は気前良く応えた。
カヤエの手が俺の背中を上から下へと流す。
「ひう!…カヤエ、ワザとだろ」
「いィえ?偶然ですよ」
前の仕返しか。
これは一本取られたか。
「やっぱり自分でやるからいい」
カヤエからスポンジを奪い取り、自分で身体を洗う。
「そうですか…」
なんだか残念そうにするカヤエ。
自分で身体を洗うのには少し抵抗があった。
俺は男なんだから。
自分の身体と悪戦苦闘しつつも、洗うことに成功して、風呂に浸かる。
「良っい湯だっな~♫」
「…それ、なんの歌ですか?」
「ん?ああ、俺の故郷の歌さ」
「貴方の故郷、ですか」
結構浸かってから、俺達は風呂を上がり、各自の部屋に戻る。
アヤメがくっ付いて来なかったりしたのが少し気になったが、きっと昨日のアルの件で俺が困ったのを見たからだろう。
俺とアルがベッドに横になっているとカヤエが部屋に入って来て一言。
「貴方の故郷について気になったので」
「なんだ?知りたいのか?」
カヤエは「はい」と言って俺の隣りに入る。「私も知りたいなー」と、アルも言ってきたから少しだけならと話すことに。
「この国とは違って、もっと文明が発達してるって言うのかな。その代わり魔法なんて使える人は一人もいない」
「魔法が使えない…のですか?でしたらモンスターなどをどうやって?」
「モンスター…か。兵器を使って倒すんだよ。銃って言うものがあってな?それの先から鉄の塊が目に見えない速さで飛んでいくんだよ」
「じゅうー?」
「ああ、そうだ。他にも爆弾とかだな。核爆弾っていうやつは、物凄い威力があって……」
俺がいた世界について、それを「国」という形で話すと、なんだか止めどなく口から溢れ出て来る。
「その、銃とやらと、爆弾とやらを使うなら何故魔法は使わないのですか?」
何故魔法を使わない…か。
「使わないんじゃなくて、使えないんだ」
「…使えない?ならレイちゃんはどうして使えるのー?」
「この国に来てから使えるようになったんだよ。多分だが、私の世…じゃない、私の故郷には魔法を使える環境が何かしら欠けているんだ。だから代わりに武器とかの文明が進んだんだと思う」
カヤエは俺の言葉に少し考えて、天井に顔を向けたまま夢を見るように語る。
「それ程の文明があれば、国民は幸せでしょうね。この国も、それを目指さないといけません」
なんか、教科書にでも出てくるかのようにまとめようとするカヤエだが、実質、俺の世界はそんな平和ではない。
「だけど、その文明を使って同じ人間を支配しようとする者が現れたり、結構大変なんだ」
だんだんと世界平和についての議論をしているようになって来たので、この辺で終わらせておこう。
「そうですか…、ところで、貴方の故郷は一体どこですか?その様な文明が進んだ国は聞いた事がありませんが」
「そ、それは…」
厳しい所を突かれた。それにはやはり答えようがない。
「…まだ、発見されてない所だよ」
口から出まかせ。
「発見されてない所かー。冒険者として、心が踊るよ。明日とかに行か……」
「ダメだ……故郷へは、帰れない」
俺はアルの言葉を遮る。
それを不服に感じたのか、すぐに食いついてきた。
「どうして?レイちゃんにとっても、悪いことじゃあ……」
しかし俺は元の世界に戻る方法をしらない。
「ダメなんだよ。出来ないんだ、どうしても。もう寝よう。この話は終わりだ」
俺は目を閉じる。
カヤエ達は残念そうにしながらも、そのまま何も言わずに寝てくれた。