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第十九話 第一次大浴場戦争。

「……あやめ」

彼女に名前を付けたのは良かったのだが、それからずっとその名前を言っている。気に食わなかったのか、俺はすこし不安になってきた。

「嫌だったか?その名前」

「………ステキ」

少し溜めたその言葉にはどこかしら感情が込められているように感じた。

「そ、そうか」

俺が付けた名前は気に入ってくれていたようだ。しかしどうも彼女の考えていることが分からない。

「スキルとかは無いのですか?」

カヤエがいきなり主語のない質問を降ってくる。

「何が?」

「記憶復元スキルとか」

いや、絶対カヤエのやつ勘違いしてるだろ。スキルが何でも出来る便利な道具とでも思ってるのか?そんなんだったらタリラタッタラ~なんて言ってすぐに出してるよ。

「そんなのは無い。あればしてるよ」

「確かにそうですよね。失礼しました」

そんな都合のいいスキルなんてある訳がない。いや、今まで都合のいいスキルばっかり使っていたからそんなふうに思われても仕方ないか。

「やっぱり家を買いに行こう」

「どうしたのですか?先程まではあれ程落ち込んでいらしたのに」

「アヤメのおかげで気が変わってさ」

アヤメを見ていると落ち着くというか、和むというか。なんだろうな、不思議な気持ちだ。

「そうですか。でしたら今すぐにでも行きましょう。もたもたしていたら日が暮れます」

「確かに、そうだな。アヤメも来るか?」

俺がアヤメを誘うと、迷いの無い言葉が返ってくる。

「……行く」

外に出る準備はもう既に出来ていたので、直ぐに出て家を買うため不動産屋に向かう。

そういえば俺はこの世界で家を買った事が一度もないんだが…大丈夫か?

俺はそんな不安な気持ちを持ちつつ、不動産屋に到着。

「いらっさいまし~」

ふざけた声が店内に響く。

このふざけた声の持ち主は店員のようだ。少しイラっとしたが、我慢しよう。

「どぅんな物件をヲ探しでしかぁ?」

「聞き取りずらいので、普通にお願いします」

俺以外にもカヤエが先にイラっとしたようだ。我慢出来ずに店員に本音をブチまけた。

「あ、はい。ですよね。すいません」

何だよ。普通に話せるのかよ。

普通に話せるなら最初からふざけないでほしい。鬱陶しいだけだから。

「取り敢えず、1番高いの出してくれない?」

俺の注文に店員は手で顎を触り少し考えて注文に答えた。

「高いのですか?これなんかどうですか?何と全長が634mも…」

「そっちの高いじゃなくて、高価なやつお願い」

「あ、そちらでしたか。それなら、これなんかどうです?」

店員が差し出したパンフレットには部屋の中やリビング、設計図までもが事細かに書かれていた。

「おお。いいじゃないか。コレ。なぁカヤエ?」

「…いや、私としてはなんとも言えません。貴方が決めてください」

いきなり振られても困るよぅ…と言わんばかりにカヤエはそう言った。

まぁ、金は武闘大会で手に入れた賞金と秘宝を売った金で合計は180万Nあるから大丈夫だろう。

というか武闘大会の賞金が170万Nとは驚きであった。

「これいくら?」

俺はさっきの1番高価な物件を指差す。

「それでしたら143万Nになります」

おっ。案外高いが、今の俺にとっては手頃と言えるか。

昔の俺なら必ずブチ切れていた値段なのは間違いない。

じゃあ、それで。と言おうとした時。

「これが……いい」

アヤメが珍しく意見を出した。

「これか?」

俺はアヤメが手にとったパンフレットを見せてもらった。

その物件は案外綺麗なのだが、シンプルで部屋が四つでリビングが一つだった。

普通ならシンプルではないが、さっきの1番高価なのはマンションと同じくらいに部屋があったのでそれと比べるとそうでもない。

確かに俺達にはそれ程の数の部屋は必要ない。

「じゃあこれで」

アヤメが希望したので、俺はその通りにした。

「54万Nになります」

結構値段は下がったが、満足してくれそうなので別に構わないし、むしろラッキーと言える。

俺は支払いを済ませ、さっさとその物件に行く。そういえば下見とかしてないけど、大丈夫かなぁ。

またまた俺は不安を募らせ、俺は先程我が家となった物件に辿り着く。

「ここか?」

俺が不安そうに指を差してカヤエに聞くが、カヤエも不安そうに答える。

「どうやらそうみたいですね」

パンフレットで見たよりもでかくないか?と思ったのは多分俺だけだろう。

「とりあえず入ろうか」

俺はドアに手を掛け、遂に中にはいった。

「おお。綺麗だな。流石一軒家だ。気分がいいねぇ」

「そうですね。気分が晴れ晴れする程の広さです」

「……ひろい」

俺達は木のいい匂いを嗅ぎ広々とした空間を堪能したあと、二階の部屋へと向かう。

「んじゃあ、ここがカヤエの部屋な」

「はい。ありがとうございます」

「んで、ここが俺の部屋で、ここがアヤメの部屋」

「……うん」

みんな同じ造りの部屋だったので、部屋の分担などどうでも良かったが、どうせ決めるのは俺になりそうなので、最初から俺が仕切らせてもらって、それぞれの部屋を決めた。

「とりあえずはそれぞれの部屋を決めた…と…。あ、それと、夜8時にリビングに集まってくれよ?夜ご飯あるから」

「わかりました」

「……うん」

夜8時とはいってもあとだいたい1時間くらいである。

料理をする前に二つホテルに宿泊費を払いに行って、食材やテーブル、イスも持って来ないといけない。

「カヤエ?ちょっとソウセイ剣を貸してくんない?」

「…別に構いませんが、下手な事に使わないで下さいよ」

「大丈夫、大丈夫」

俺はカヤエからソウセイ剣を借りると、すぐに瞬間転移スキルを使って、最初に泊まってた家具が置いてあるホテルに移動する。

うーん。やっぱりウラにセイクリッドソードを渡したのは……いや、もう決めたことだ。

ホテルのフロントで宿泊費を払うと、直ぐに部屋に戻る。

そして家具…と言ってもカヤエが買ってくれたテーブルとイスだけなんだが、それと食材を瞬間転移スキルで家に持って帰る。

あれから二日経ったのか、スキルは使える様になった。

ん?ちょっとまてよ?あれから二日経ったのか…?

……ま、いいか。あんまり深く考えると頭が痛い。

それに俺はレベルに関係なく、どんな魔法やスキルも武器などの条件が揃えば使う事が出来る。

しかしそれは俺がゲームをしていた時なスペックを元にされているみたいで、裏魔法などはゲーム当時、取得していなかったため当然使えない。


……あー!もういいや。考えるのはやめだ。

さ、もう一度別のホテルに行って宿泊費を払わないと…

俺は砂漠の森の後に泊まったホテルへと瞬間転移スキルを使う。

レベル…というより、ランクが上がったからなのか、高レベルスキルである瞬間転移スキルを何回も連続で使えるようになった。

普通なら一回か二回でスタミナが切れ、身体を上手く動かせなくなるだろう。

ホテルのフロントで料金を払い、もう一度、瞬間転移スキルを使う。

今のところ、このスキルを4回連続で使った訳だが全くスタミナが切れる気配は感じられない。

「おっと…料理だ、料理」

当然だが、簡単な料理の方が楽だ。

多分、うどんを作ったりすることは、相当暇でない限りしないだろう。

「そうだ。考えるの面倒だからカヤエに……」

「何かご用ですか?」

「うぉわぁ!!び、ビックリするだろ!?急に出てきたら!」

「それはすみませんでした。それで、何も無ければ部屋に戻りますが」

何も無い訳がないという目で俺を見る。

「いや…料理、代わりに作ってもらいたくてな?カヤエはできるか?」

俺が少しカヤエの様子を伺いながらそう言う。カヤエはプライドを傷付けられるとムキになるから、できるだけ穏やかにそう言った。

「…少しなら、可能だと」

少しできるなら充分だ。

「そうか?なら頼んだ。メニューは何でもいいけど、生は避けてくれよな」

やっぱりちょっと不安なので、生だけはやめるように言っておく

「わかりました。では、貴方は私が呼ぶまで部屋にいてください」

「おう、ありがとな」

「いえいえ」

俺は急にカヤエが心配になってきたが、彼女はヤル気なのでそっとして、部屋に戻った。

「ふぅー。なんか疲れた」

別にスタミナとか、魔力とかが切れた訳ではない。やはりこれは生物特有の単なる疲れ。ゲームでは感じることのなかったものだ。

俺は改めてギルドカードを確認する。

神殺しか…

手に入れた事の無いランク。ゲームにそのランク設定があったことすら俺は知らない。

手に入れたとしても「巨龍殺し」や「札束王子」とか「キノコ狩り名人」、それから「変態鬼面族」とか「流離いの変態」、「劫火の中から現れる変態」などなど。

殆どが汚名であるのは置いといて、神殺しとかいうランクは本当に知らない。

他にもストーリーに関しては魔王を倒すまでしか知らない。

このゲームは魔王を倒してから本場だと、ゲームクリアをした人から聞いたことがある。

その人曰く、「魔王を倒してから散々な目にあい、難しかったが、割りと楽しかったし面白かった」だそうだ。

だから俺がこの世界で魔王を倒したとしても、そこから俺はやっていけるのか、帰る事ができるのか…


……俺はまた深く考えてしまう。この話を頭の中で考えると、次へ、次へとドンドン考えてしまう。

しかしその思考もそれまで。

カヤエの声で中断された。

「失礼します。料理の準備が出来ました」

「おお!そうか」

「私はアヤメさんをお呼びしますので、先に下へ行ってください」

どんな料理が出来たのか楽しみだ。

俺は二階から下りて一階のリビングへ向かう。

「……これは!!」

俺はテーブルに並べられた料理を見ていると、アヤメとカヤエが二階からおりてきた。

「どうしました?」

どうしました?じゃないだろ。

これはまるで、高級レストランに来たみたいじゃないか!

テーブルに並べられた数多くの料理は、全て主婦とかができるような料理ではない。それらは店でしか食べることの出来ない料理である。

それに見栄えも良く、こんな短時間で仕上げ、その上数多くの種類の料理を作ることなんていくら三ツ星シェフでもできないはずだ。

「気を害しましたか…?」

カヤエが平気な顔でそう聞いてくる。

うん、ある意味では気を害した。

ってゆうかカヤエって料理できたのかよ。

「い、いや別になんでもない」

「そうですか。では早く食べましょう。冷めると美味しくないですから」

「そうだな。じゃあ、いただきます」

「いただきます」

「……」

俺は一つの品を皿に取る。

「この料理は?」

俺は東京の高級レストランで料理の修行をしていた。その時に今取った料理を作りたいと師にいったのだが、作らせてもらえなかった。

「それはフォアグラ入りドンプ産カイユのパロティーヌです」

「そ、そうか」

名前が長い……やはり高級料理か。

高級料理の大半は名前が長い。その名前は料理に使う材料や、見た目、材料の原産地からくるものが多い。

俺はフォークでそれを食べる。

「美味しい…」

見た目でもその美味しさは感じられたが、それ以上の美味しさを俺の舌は感じた。この味は一度、食べたことがある。師が作る料理の味だ。

あれは丁度寒い冬の……やめよう。俺の過去は面白くもなんともない。

「それはありがとうございます」

俺はカヤエの言葉に一切反応せずに次へと料理に手を付ける。

途中で俺はアヤメが一口も食べてないことに気づいた。それどころかフォークすら手にしていない。

食べる手を止めてカヤエに言う。

「食べないのか?美味しいぞ」

「……たべる?」

まさかとは思うが食べ方を知らないなんてのは…

「食べ方を忘れたのでしょうか」

カヤエが俺に聞く。

俺に聞かれても困る。しかし、この料理を見て食べ気が無くなるなんてことはあり得ないからな。

「仕方ないな…俺が…」

俺が食べさせると言おうとしたら、カヤエが

「私が食べさせましょう。一度食べれば思い出すはずです」

と素早く言った。

「なら任せる」

カヤエは直ぐにアヤメの前にあるフォークを手に取り、適当に料理を刺すと、それをアヤメの口の前に持っていく。

「口を開けてください」

アヤメは少しであるが、口を開ける。そこへカヤエは料理を入れる。

「それを良く噛んでから飲み込んでください」

飲み込むことを知らない、なんてことも…と思ったがアヤメは普通に飲み込んだ。

「……おいしい」

アヤメは飲み込んでから一言だけ呟いた。

それからは普通に食べ始め、俺達はテーブルな溢れんばかりに並べられた料理を平らげた。

「ごちそうさま」

「ご馳走様でした」

「……ごち」


「……あのな、アヤメ。別に悪い事はないんだけどさ、その、ごちってのはやめといた方がいいぜ?」

ごち…って、普通の女の人は言わないだろ。

「……どうして?」

「いや、それはだな…」

上手く説明が付かない俺はカヤエに目線で助けてと伝える。

「ゴチと言うのは私達庶民が使うような言葉ではなく、中世から現代に掛けて高貴な身分の方達が使う言葉であるため、あまり似つかわしくない上、外でそれを使うと睨まれたり恨みをかう恐れがありますので使わない方がいいのです」

と、カヤエは長々しく説明したが、これらは全部嘘。

いや、この世界では本当なんだけど。

「……わかった」

素直に頷いてくれた。

もしかしたらウラよりも騙されやすいんじゃあ…

「それでは私は片付けをしますので、お風呂に入っておいてください」

「そうか。なら俺、先に入るわ」

そして俺は風呂場に行き、風呂に入る。

「おお!広い!」

俺が風呂場の戸を開けると、そこには大浴場が広がっていた。

俺は早速、身体と頭を洗い、風呂に浸かる。これは温泉なのか、独特の良い匂いがする。

俺は広々とした大浴場を貸し切りしたような気分でしばらく浸かり、それから風呂を上がった。

「次は誰が入るの?」

俺はリビングに行くと既に片付けられている。

「先にどうぞ」

カヤエは何時も最後を選ぶ。

「……おふろ」

「知らないようなので私が手伝いましょうか。丁度、一度で入れば時間が省けます」

「そうだな。そうしてくれ」

俺が頼むとカヤエはアヤメを連れて行く。

「……よしはるがいい」

そういってアヤメは立ち止まる。

「は?」

急なことについつい言葉が漏れた。

「……まえに、おふろにいれてくれた」

アヤメがそう言うとカヤエはアンテナをピーンとさせる

「ヨシハルさん、これは一体…」

「いや、仕方なかっただけだぞ?あの時は仕方なかったんだよ」

俺は必死に訴える。

そしてそうなった経緯を伝えてようやく理解してくれた。

「わかりました。で、どうするのですか?」

「どうするって……」

そうなったらもう俺がやるしかない。

別に向こうは何も知らないんだから恥ずかしいことはないだろ。

「じゃあ三人で入りませんか?」

おっとここでまさかの三人で提案。

アヤメも何故かその提案に頷いている。

「な、ならそうするか」

その案が決定された。

そして俺達は風呂場の戸を開ける。二人は平然と中に入っていく。

え?驚かないの?結構広いぞ?

なんか驚いてた俺が恥ずかしいじゃないか。

ふと裸の二人を見る。なんだかもう慣れた。世の中慣れだな、慣れ。

「洗うから目瞑れよ」

俺はアヤメの頭を洗う。

身体を洗うのはランクに流離いの変態が付きそうなので、やめてカヤエに任せた。

カヤエがアヤメの身体を洗ってるのを見てふと思う事がある。

さっき俺は何でも慣れだと言ったが……

「ひゃあはぅ…」

尻尾だけは慣れない。

アヤメはいきなり洗うのをやめて変な声を出すカヤエを見る。

「今は洗ってるんです…はぁう!」

あ、気絶してしまった…

カヤエは床に崩れる。

「ごめんなアヤメ。さっきカヤエがやってた要領で自分で洗ってくれないか?」

「……うん」

アヤメは何も見なかったかのように身体を洗い始める。

やがてカヤエが目覚める。

目覚めたのでもう一度尻尾を触ろうとした時、カヤエは宙に一回転して起き上がり、俺から距離を取った。

「貴方とはいえ、もうやられませんよ」

「そうか…」

俺は諦めて下を向く。

「あ、いえ。今はですよ??」

慌てるカヤエを見て、俺はすかさずバックシールドを使い、カヤエの後ろに回り、尻尾を掴む。

「ひぃふぅあ!…ゆ、油断しま…ひぁいぃ…」

カヤエは気絶する。

「俺が諦めるわけないだろ?」

気絶したカヤエに俺はそう言った。

そしてアヤメが身体を洗い終わる。

「じゃあ湯船に浸かったら?カヤエはまだ気絶してるから」

「……うん、そうする」

俺が言った通りにアヤメは湯船に浸かる。

そしてまたカヤエが目覚め、俺との距離を取る。

「貴方という人は、本当に油断できない」

「そんなこと言うなよ」

俺はカヤエに近づく。

「丁度良かった。貴方と一度戦ってみたかったのです」

「無駄だよ。今のカヤエじゃあ俺に勝てない」

「じゃあやりますか」

こうして第一次大浴場戦争が始まった。

「先手必勝です!」

カヤエがそう言って、バックシールドで俺に近づき、右手で殴ってきた。

しかし俺にはその攻撃は読めている。その右手を避け、腰にある尻尾を掴む。

こうして大浴場戦争が幕を閉じた。

「どうして…はぁう!」

カヤエが攻撃する時、もの凄いスピードで動く。そのためただでさえバランスを取るため動かしている尻尾はもっと動く。

このバランスを取るパターンを知っていれば、尻尾がどう動けば、カヤエがどう動くのかもわかるのだ。

だから尻尾の見えているカヤエは俺にしては強くない。

見えてなければ俺は負けるけどな。

「直ぐに気絶されちゃあ困るからこのまま湯船にでも浸かろうか」

そして三人仲良く湯船に浸かった。

カヤエは俺に隙が少しでも見えれば逃げようとするから、その時は手に少し魔力を込める。

「ほぅはぁ…もうやめてください…気持ちよすぎて何も考えれなくなりそうです」

「前にも聞いたけどそんなに気持ち良いのか?」

「…はい、とても……ひゃあん!」

気絶してしまった。

俺的にはフサフサしてもふもふの尻尾を触るのは最高である。

するとアヤメが立ち上がり風呂場から出ようとする。

「もう上がるのか?」

「……よしはる、へんたい」

アヤメはそう言って風呂場から出た。

……やり過ぎた。流石のアヤメも今ので俺が変態だと…

いいや、違うぞ。俺は変態なんかじゃない。

「そうだ。変態なんかじゃ…」

「貴方は変態です…はひぃ!…間違えました違います。変態なんかじゃありません!」

「だろ?」


…あ、俺、変態だ。

「カヤエ?」

「は、はい!?」

そんなに怯えなくても…

俺は手から尻尾を離す。

「?」

「ごめんな。嫌だよな。尻尾触れるの」

「…」

「今日から止める。カヤエの気持ち考えてなかった」

「…」

「んじゃあ先に上がるわ」

俺は立ち上がる。すると、

「…私としては、対して嫌な訳ではなくて、むしろ嬉しいです。触ってくれて。ですから止めるなんて言わないでくだ…ひぁい!」

「そうか?なら止めない。これ止めるなんて考えられないよ」

尻尾に魔力を込める。

「や、やっぱり駄目で…はぁん!」

カヤエは気絶レベル10を越したか…

俺は意味のわからないことを考えながら、風呂場から出るのをやめて湯船でゆっくりする。

すると、出て行った筈のアヤメが入ってきて俺の隣に来た。

「どうしたんだ?」

気絶して、湯船に浮いているカヤエをよそに、俺はアヤメにそう聞く。

「……さみしい」

「え?」

「……ひとりは、いや」

アヤメがとても寂しがりやなのはわかった。でもな、俺の腕にしがみつき過ぎなんだよ。ウラよりも酷いぞ?痛いくらいだよ。

でも、痛いから離れろとか言えず、俺はカヤエが目覚めるのを待つ。

しかし、カヤエはいっこうに目覚めない。いや、これは…

「もう、起きてるだろ?カヤエ」

「…はい。こうして浮いているのが楽でして」

…カヤエに変な趣味が生まれた。

「じゃあもう上がるか?」

「…ですね」

俺達は風呂から上がり、身体を拭く…のだが。

「あの…身体を拭く時くらい離れてくれない?」

「……や」

や…って…略すのが好きなんだな、ごちそうさまといい今回の嫌といい。

かなり拭きずらかったが、何とか拭き終わり、アヤメのほうは、カヤエに拭いてもらった。

そして二階の部屋に向かう。

「ここからは、皆それぞれの部屋に移動だ。だからアヤメ、離れてくれない?」

俺が離れてと頼むと、無言であったものの案外普通に離れてくれた。

「んじゃあな。お休み、カヤエ、アヤメ」

「お休みなさい」

「……おやあり」

…アヤメって、どっからあの言葉を学んでんの?

気にはなったが、スルーして部屋に入った。

おやありってのは、おやすみの挨拶をありがとうっていうものの略。

ま、どうでもいいや。

「さ、寝よ」

電気を消し、布団に入る。

…そういえば、ウラは豆電球くらいのボンヤリとした明るさが無いと寝れなかったけど大丈夫かな?

いや、ウラはウラなりに頑張ってるはずだ。今は信じよう。

というより、久しぶりに一人で寝れる気がする。


そして俺が布団に入り始めてから数十分くらいして、俺の部屋の戸が開いた。

誰だ?寝たふりをして俺は軽く身構えする。泥棒か?泥棒なら一撃で仕留めてやる。

そいつは俺の左側に来て、布団に入ってしがみついてきた。

なんだ、アヤメか。

「また寂しいのか?」

「……うん。それに、こわい」

怖い?まさかアヤメもウラと同じなのか?まぁ、いいか。

やがて音も立てずに部屋に入ってくる者がいた。

間違いない。

「カヤエか」

「…良く気づきましたね。完璧だったはずでしたが」

そういいながら布団の右側に入ってくる。尻尾は出ているようだが、触らないで我慢しよう。

結構一人で寝れなくなった。

「カヤエも寂しくなったのか?」

「…まぁ、はい」

カヤエにもそんな一面があるとはな。

驚きだ。

俺はそのまま二人に挟まれて眠りに落ちた。

アヤメの名言集Part1


ごち

ごちそうになります。

おやあり

お休みの挨拶をありがとう。



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