第十八話 去り行く者と、現れる者
神は俺に殴られ、これでもかと言うくらいに宙を舞う。
我慢できなかった。
この神はダメだ。この神を倒さなければ気が収まらない。
最初はそんな子供の考えみたいに力で解決せず、聞きたいことだけ聞いて帰ろうと思っていた。
「…に、人間如きがぁ!!」
地面に横になりながらも神は俺に右手のひらをこちらに向ける。
その手の平が見えたと思ったら、物凄い風圧で俺の身体は吹き飛ばされる。
「うっそっ!!?」
想像していたよりも強いその力に俺は驚きを隠せない。
その力はまるで、神風、とでも言うのか。
スキルが使えるようになった神域でも、そのスキルを使い目の前にいる神を倒せるのか。
「ふざけるでないぞ!!人間如きが我に触れようなんてのは…!!」
起き上がろうとする俺を、またその力で吹き飛ばす。
今気づいたが、この力はただの風圧で吹き飛ばしているのではない。
風圧に魔力除去がかかっている。あの風は魔力を奪うのだ。
それを証拠に、今、俺の魔力は尽きかけている。胸が痛い。
横になって起き上がれなくなっている俺に神は追い打ちをかけ、俺はまた吹き飛ばされた。
「はははッ!所詮は人間だな!やはり人間はクズな種族だ。周りの種族を滅ぼし、自分だけが生き延びようとする。そして手に入れた力がそれだ!」
「…この…や、ろ…!」
「見てみろ!この有様を!人間は神から与えられた物を使わないと何もできないではないか!」
「それは、違います」
カヤエは俺の記憶吸収スキルによって真実を吸収されたことによるペナルティによって気絶していたが、回復したのか、倒れている俺を支えてそう言った。
「何が違うと言うのだ?この状況がわからんのか?我々神が与えた資源、スキルを使わないと強くはないではないか。人間達の言う科学技術なんてものは人間達が確立していったのではない。神がその定義を行ったのだよ」
「…確かに、私達人間は貴方達神のような特別な力を兼ね備えている訳でもありません。武器を使わないと私達は弱い。
しかしながら私達には特別な力、があります」
カヤエのその言葉に神は目を細くする。細くされた目は次第に広がっていき、顔には怒りの表情が浮かべられた。
「特別な力…だと!?」
「はい。愛と絆、の力です」
何てベタな台詞…だと何時もの俺なら思っていただろうが、今の俺はそんな事は思わなかった。
「愛?絆?…はっ!馬鹿馬鹿しくて笑いも出んわ!そんなもので力は増えない!」
「ではやってみせましょう」
カヤエは俺に顔を向ける。
「…カヤ…エ?」
俺は魔力の殆どを失ってしまったため、もう声すら出ない。
「全ては貴方に託します。受け取ってください」
カヤエがそう言うと俺の右手を両手で握った。
握ったかと思うと、握られた両手から緑色の光りが漏れる。
途端に、俺に力が湧いてくる。
「…はぁ…はぁ…後は、頼み…ましたよ」
カヤエはそう言い残し、俺の横に倒れる。
力が湧いてくる。あり得ない程の魔力が俺の中から湧き出てくる。
何なんだ…コレは…
俺は起き上がり、目の前にいる神を睨む。
「ほう?その女が何をしたか知らんが、見たところ魔力でも移したんだろうな。ふっ…それが愛や絆とやらとは、実に笑わせてくれる!」
神のその言葉に堪忍袋の緒が切れるどころか、堪忍袋が爆発してしまいそうになった。
俺は右手の拳と左手の拳に魔力を集中させて足にも魔力を集中させる。
俺は魔力を集中させたのを確認すると、すぐさま神にも攻撃をしかける。
俺が殴りかかった右手は当たらず、神は左に上手くかわす。
俺は続いて左手で殴りつける。
腹に見事にクリーンヒットしたと思えば、右足で蹴り飛ばす。
神はバッタのように左側に飛ぶ。
しかし俺は容赦などしない。
バックシールドを使い、倒れた神を上から右手、左手と交互に殴りつける。
「…ふざけるなぁぁあ!!」
神は俺を吹き飛ばす。
それは一回では飽き足らず、二回、三回、俺は吹き飛ばされる。
だが、俺はその度に起き上がる。
「な、何故だ!?どうして立てる!!?魔力は尽きている筈!」
成る程なぁ。
わかったぞ、俺はわかった。
目の前にいるのは本当の神ではない。いや、神ではあるが、人間が創った神…とでも言おうか。
そもそもこのゲームは人間によって作られた。
ではこの世界がそのゲームを元に創られた物だとすればどうだろうか。
この世界の神もまた、人間の作ったものだということだ。
何が言いたいのか。
それは、人間が作ったものを人間が倒せない訳がないことだ。
神にはスキルが使えない。そんなことを言っていたのに、普通に使えたし攻撃も受けた。
それにカヤエは力を俺に授けた。これはヨウシ一族伝統の奥義である『絆の力』だ。
名前はそのまんまではあるが、効果はかなりのもので魔力が20分の間、永遠に尽きない。
この奥義は『絆の力』と言うからなのか、友好度が90を越えないと、仲間には使ってくれない。
つまり、制限時間は20分。
神であって神でない、目の前の神を倒す!!
「失せろ!!」
俺は大量の魔力を限界まで右手に集中させて戸惑う神の腹を殴った。
鈍い感触が右手に伝わる。
俺はまだ終わらない。左手、右手…これまでの力を全て使い果たす勢いでひたすら殴ることだけを、神を倒すことだけが、頭の中を巡りに巡った。
そして右手に鈍い感触が伝わらなくなる。
神が目の前で倒れたのだ。
「…く…そ…人間…が」
「…ふぅ…はぁ…お前は、散々貶した人間に負けたんだ、よ!!」
神は光の粒子に包まれる。
「嘘だぁぁぁぁぁあ!」
神は叫びながらその光の粒子に包まれ、消えていった。
「お、終わった…!」
俺はペタンと地面に手をつけた。
しかし、終わったと思ったのも束の間、また神のような、いや、神が現れた。
俺はその現れた者を見た瞬間、これが神なのだというのがわかった。
その輝かしいオーラに包まれ、邪念の無い透き通った目をしていた。
「人間よ。本当にすまなかった。先ずは謝罪をさせてもらう」
突然の事に俺は声が出ない。
「今の神には、前から問題があると思っておった。
処理をしようとした。
しかしながら処理するのに手間取ってしまったため、私が自ら処理しに来たのだが…
迷惑をかけてしまったな」
俺は頭を下げる神を見て、何故か罪悪感を感じた。
「あ、頭を上げてください!俺はただあの神が気に食わなかっただけですから」
「そうか…いや、正直のところ、私達神は人間を勘違いしていたようだ。お前のように真っ直ぐとした心を持つ人間がいる…覚えておこう」
…そういえば。
「突然ですけど、俺はどうしたら元の世界に戻れるのですか?」
「…その事なのだが、帰る事には帰れる…筈、なのだ」
筈…?どういうことなのか。
「今、お前の元の世界の時空は少し乱れておってな。しばらくは不可能だ…」
「…うそだろ」
「しばらくは…だ。そう気を落とすでない。おっと、言い忘れておったが、この世界は私が担当することになった。
それと、もうすぐで神域から出てもらう。その女も一緒にな」
そう言われると、俺はカヤエの方に目を向ける。
「さぁ。もう時間だ。それと、その女には神域についての記憶をすべて抹消させてもらう」
神がそう言うと、さっき倒した神の周りに包まれていた光の粒子が俺達の周りを取り巻く。
ってゆうか抹消するのかよ。俺がやった意味なくない?
「人間よ。その絆の心を捨てるでないぞ」
その最後となる言葉を聞き、俺達は神域から帰った。
「大丈夫ですか!?二人とも!」
ウラの心配する声が聴こえる。
「あ、ああ」
俺が先に目が覚めたようで、カヤエは未だに眠っている。
どうやらここはホテルのようだ。
また別のホテルなのか、何時もの見慣れた天井ではなかった。
「おい、起きろカヤエ」
俺がそう言うと、カヤエは直ぐに起きた。
「え?」
カヤエは記憶を消された上にいきなりホテルのベッドにいるもんだから戸惑っている。
「何があったんですか!?帰ってくるのが遅いから見に行ったら二人とも倒れていて…」
「…私は、何も覚えていません。貴方は?」
二人の目線が俺に向けられる。
「い、いや。何も」
嘘は泥棒の始まり。
誰が言い出したのか。
「それよりも、ウラはどうやって俺達を?」
ウラの力ではあの奥地を俺達を運びながら抜けることは不可能な筈だが。
「妖精さんが助けてくださいました!」
…妖精ってのは何でもアリだな。
「それよりも…ウラの頭にある…それは…」
「あ、気づいちゃいました?猫耳ですよ!妖精さんに頼んだら付けてもらえました!」
ほ、本当に何でもアリだな、あの妖精は。願い事は一回だけじゃなかったの?
「ま、願い事が叶って何よりだ」
俺は大好きな猫耳を我慢してそう答える。
「もう寝ませんか?私は何か凄く疲れました」
「そうですね!寝ましょう!」
俺達は寝ることになった。
「そういえば…私達、夫婦なんですよね!!」
ウラが何か言い出した。
願い事がもう一度叶うなら、このことを撤回したい。
「そうでした。では…」
二人とも服を脱ぎ出す。
「ちょっ!待て待て!やめろやめろ!」
俺が止めに入る。
「裸で寝るのは夫婦なら当然のことですが」
「だけど…!」
俺は目の前の裸の二人を見る。
これは…!!
「むむっ…」
カヤエはウラの腰の方を見て何か不愉快そうだ。
俺もカヤエの腰の方を見る。
「おっ…」
あれは…尻尾ではないか…!!
ウラに尻尾…だと…!?
「私の尻尾…気になります?」
「あ、ああ」
俺は唾をゴクリと呑み込む。
「触っても…良いですよ…?」
ほ、本当か?
それなら、遠慮なく…
俺は真っ先に尻尾を手にとる。
「ひゃう!」
凄いフサフサだ…カヤエの尻尾にはない感覚…癖になりそう…
「ひゃあぁ…ちょっと…ヨシさん、強すぎです…!!」
しかしそんなことは気にしない。
続けていると
「もう…だめですよ…!」
ウラが俺から尻尾を離す。
「な、なんで」
「このままじゃあ気持ちよすぎて意識が…ひゃあぁ!」
いやいや、そんなの関係ない。
俺は折角なんで頭にある猫耳も触りつつ、尻尾も触る。
この触る際に手に少し魔力を込めると…
「もぅ…だめ…」
気絶する。
俺はベッドに倒れるウラを見ると、すぐにカヤエに視線を移す。
「な、なんでしょうか」
「分かってるくせにぃ」
今度はカヤエの尻尾を堪能させてもらう。
「やっぱカヤエのが一番だわ」
「そう…ですか?」
カヤエの尻尾のこの何とも言えない感覚は何でも再現できない。
そして手に魔力を込める。
「ひぃあ!」
力が抜ける声が聴こえる。
「もう終わったのか?」
「いや…これくらいであれば…はぁう!」
流石、カヤエだ。少し魔力を込めたくらいじゃあ気絶しなかった。
それならば、魔力を吸収すればどうだ…?
魔力吸収スキルを使う。
…あれ?…あ、そうか。今、俺はスキルを使えないのか。
なら…
もっと魔力を込めるまでだ。
「はぁあ!す、凄い!気持ちよすぎて…!」
カヤエも気絶する。
いやぁ。尻尾のフサフサ感は何とも言えない。
とはいえ、ある意味ピンチを切り抜けた俺。
それからどちらかが起きる度に気絶させた。
そのまま、俺も眠りに落ちたのだった…
次の日の朝、俺は二人よりも早く起きた。
陽はまだ登り始めたばかりなのか、少し外は薄暗く、少し肌寒い。
俺は着替えを済ませ、二人を部屋に残し外へでる。
このホテルは砂漠の森から少し離れた街にあるのだとわかった。
正直あんまり外に出る必要は感じられなかったが、散歩気分で外に出ることにしたのだ。
俺はホテルを出てから、細い路地を歩いていた時、前の方から何やら怒鳴り声が聴こえる。
「やるのかコラァァア!?」
そのチンピラのように声を張り上げていたのは身体が引き締まっていて、幾千もの戦いを制してきたかのような傷跡がある男だった。
怒鳴られているのは普通の体格の弱そうな男だった。
弱そうな男はこう言う。
「何を言ってるのだ。私は何もしていないではないか」
それに対し強そうな男はこう言った。
「さっき俺の肩にぶつかったじゃねぇか!とぼけんな!」
よくある展開だな。
俺はそう思いつつ、仲裁に割って入る。あんまりこういうのはしたくないのだが、暇つぶしに。
「まぁまぁ、落ち着いてください二人とも」
「なんだお前。関係ねぇだろうがよ!あっち行ってろ」
強そうな男は俺に手の甲を向け、しっしと言う。
しかし引き下がらない。
なぜなら暇だから。
「でもですね。朝から怒鳴り声を張り上げられると、近隣にも迷惑ですんでね。どうか引き下がっていただけないかと…」
俺が下から丁寧に言っているのにも関わらず男は態度を変えない。
「はぁ!?ふざけんなよ!俺は被害者なんだ!こいつを殴ってやってもいいんだぜ!?」
強そうな男に便乗するように、弱そうな男はこう言う
「そうですよ。そこの男何て、私に掛かれば敵ではありません」
何なんだよコイツ。折角庇ってんのに。
「なんなら、お前からやってもいいんだぜ?」
T[強そうな男]は、目をギラつかせながら俺に近寄る。
「何だって?」
流石に俺でもその言葉は聞き捨てならない。俺は喧嘩の仲裁に入っただけだぞ。
「お前をボコボコにしてやってもいいって言ってんのが聞こえなかったか?」
Tは薄笑みを浮かべながらどんどんと近づいて来る。
遂に俺の堪忍袋の緒という緒が切れた。
しかし、俺がここでTを倒してしまっては俺はこいつと同じになる気がする。
Tは俺の顔を殴りつけて来た。
俺はその腕を掴み、そのまま力任せに背負い投げを一本。
そして腕の骨も一本折ってやる。
「ぐあっ!くそ!」
「まだやるなら片方の腕も折るけど?」
「っ!お、覚えておけよ!」
Tは雑魚キャラで良くあるセリフを吐き捨て、そさくさと走って行った。
「あ、ありがとうございます」
残った男は俺に頭を下げる。
「いや、良いんだよ。こっちも暇だったんだから」
俺がそう言うと気楽になったのか、明るい声に変わった。
「私はこの近くに住んでいてキリと言います。あ、そうだ、地図渡しときます。私はここに居るんで、困った時は立ち寄ってください。では」
弱そうな男改めキリは俺に地図を渡し、そう言い残して去って行った。
本当に何もすることが無くなった俺はさっさとホテルに帰る。
やがてホテルに着き、部屋に戻る。
部屋に着いたら二人とも既に起きていた。
「ウラさん、違いますよ。こうするのです」
「こう…?」
「こうです」
「こう…ですか?」
「少し違います。これをですね…こ…」
「なにやってんの?」
俺を他所に二人は尻尾をフリフリさせていた。
「尻尾が生えたのは良かったんですけど、バランスが掴めなくてこけちゃうんです…だから今、カヤエさんに教わっているんです」
説明が終わると、二人はまた、こう、こうじゃない、とか言い始める。
尻尾があるせいで、バランスが取れなくなるみたいだ。
尻尾を持つと言うのは大変な事なのか。
…ちょっと待て。
俺の前で尻尾を揺らさないで欲しいんだけど。
「朝ごはん作っとくわ」
俺は逃げるようにしてキッチンに立つ。目玉焼きを作るために、卵を三つフライパンの上で焼く。
その間に俺はキャベツと人参を千切りにして、サラダを作る。
目玉焼きがいい具合に完成したので、皿に盛り付け、サラダも皿の端に盛り付ける。
そして白ご飯をすくって、茶碗に入れる。
「さ、できた」
俺はそれらを運ぼうとして、リビングに向かい、机に並べる。
まだ二人は尻尾をフリフリと…
もう我慢出来な…い。
俺は後ろから練習しているウラの尻尾を襲う。
「きゃあ!」
おう…フサフサじゃないかぁ…
「ま、またですか?今は…ひゃあう!」
ウラは気絶する。
「早いんだよなぁ…気絶するの」
俺はそう言って視点をカヤエに移す。
「ちょっ、ちょっと待ってくだ…」
「待たない」
逃げようとするカヤエを捕まえ、尻尾を堪能する。
やっぱりカヤエが一番…だなぁ。
「もう…だ…メ…」
カヤエも気絶する。
尻尾って触られるとそんなに気持ちいいのか?
俺は疑問に思いつつ、イスに座る。
二人とも気絶しちゃったし、先に食べよう。
俺は朝ごはんとして目玉焼きをいただく。朝ごはんの定番だからな。目玉焼きは。
一人でご馳走さまをし終わり、二人の分をそのままにして、自分の分だけ片付ける。
俺がキッチンからリビングに戻ると二人は起きていた。
二人は尻尾を隠していて、既に食べ始めていた。
勿体無い…
「尻尾を何で隠すの?」
俺が何気なく聞くと
「貴方が襲ってくるからじゃあありませんか」
という声が。
…確かに。それは認めざるを得ない。
「そういえば、家をご購入されるつもりで?」
「あ、ああ。そうだった」
今日買いに行こう。
その前に…
「ひゃあぁ!」
ウラの猫耳を堪能させてもらう。
尻尾は隠せても耳は無理。
「今食べて…あひぇぃ」
ウラ、本日二度めの気絶。
「…そんな物足りなそうな目で私を見てもらっても困ります」
ま、そうだよな。
このままカヤエに行こうかなと思ったら尻尾は隠されているから無理。
……最近俺が変態になってきた気が。
ま、いっか。
「ご馳走さまでした。今日も美味しかったです」
カヤエはそう言いながら食器を片付けた。
そこでやっとウラが起きる。
「……もう。ヨシさんのせいで私だけになったじゃないですか」
最終的にウラだけが一人で食べていることになった。
猫耳がピクっと動いている。
「それって無意識なのか?」
「何がです?」
「いや、やっぱり何でもない」
無意識に動くんだ、と内心驚きながらもカヤエの方を向く。
「カヤエは……いや、何でもない」
カヤエのアンテナは無意識に動くということは知っている。
「ごちそうさまでした」
やがてウラも食べ終わり、全ての食器が片付けられた。
一旦、皆のレベルを整理することにした。
俺達はギルドカードを確認する。
カヤエのレベルは204レベル。
理由は至って簡単。父親を倒した経験値が一番大きい理由だろう。
ウラは…72か。
これは武闘大会の決勝戦で勝ったときの経験値か。普通にレベル上げをしたらこんなにも簡単にレベルは上げれない。急成長であると言える。
ということは、俺のレベルにも期待が持てる。
「ーーこれは…!」
カヤエが俺のギルドカードを見て、驚愕の声を漏らす。
そこに表示されていたレベルは、
レベル1だった。
「…あれ!?ヨシさんってレベル1でした?この間でも大分と…」
「ウラさん。これは只のレベル1ではありません…レベルの隣を見てください」
ウラの視線はカヤエの言葉によって右にずれていく。
そこに表示されていたのは、
ーー神殺し。
「神殺し…ですか。何ですか?コレ」
「基本は、そのような文字は表示されません。この文字はランクといいます。もしウラさんが神を殺せば、右に神殺しと表示され、神殺しランクとしてレベルは振り出しに戻るのです」
「…それって、強さとか変わらないのですか?」
「ランクが上がりますので強さは桁違いになります」
カヤエは俺の代わりに見事な説明をした。
「…つまり、ヨシさんは神を…?」
「はい、神を殺した、ということになります。貴方、説明していただけますか?」
二人の視線は俺に注目される。
「あ、いや、それはだなぁ…」
ずいっと二人は耳を寄せる。
「今日の朝、散歩中にお地蔵様を倒しちゃって壊れてさ…た、多分それで神殺しが…」
言い訳にもならない苦し紛れにもならない…
「そんなことを…」
カヤエが言い出した時にウラが被せて大声を張り上げる。
「あ~!!だからですね!成る程、納得です!」
ウラが騙…じゃない、信じてくれる奴で良かった。
カヤエが何か言い出す前に
「さ、準備しよう!今日は家を買うからな」
「ちょっと、いいですか」
ウラが珍しく気を落としている。
「どうした?」
いつも元気な奴が落ち込んでいると気になる。
「……わ、私、今日で皆さんとお別れです…」
「…え?な、なんで…!」
「私には人に言えない事情がありまして、レベルがある程度まで上がれば、別れることにしてたんです……
本当に黙っていてすみません!!」
その言葉に俺とカヤエは言葉が出ない。
「事情って?」
「…すみません、聞かないでください」
ウラは目に涙を浮かべながら衝撃発言を言った。
カヤエはそれに対し、少し言葉が出なかったのだが、すぐに決断をする。
「私は…構いません」
カヤエがそう言うとウラが少し浮かべていた涙を落とす。
「俺は…」
二人は俺を見る。
「俺は…そんなの、ダメだ」
「そんなことを…」
カヤエが何かを言い切る前に俺はホテルを走って出た。
そんなこと、許せる訳ないじゃないか。
町外れまで走って、俺は道にあったベンチに座る。
確かに俺は知っていた。ウラがパーティから離れ、何処かに行くことを。
しかし、それは止めようがない。
少し考えて子供の様に飛びたして来た俺が恥ずかしくなった。
俺が帰ろうと決めた時、
「大丈夫ですか」
カヤエが後ろから現れた。
きっと探索者マップを使って俺の居場所を特定したのだろう。
「ああ。少し、落ち着いた。だけどカヤエは反対じゃないのか?」
「私は、反対です。でも、ウラさんは相当その気持ちを溜め込んでいた筈です。その気持ちを考えると、反対には出来なかっただけです」
「そう、か」
俺はカヤエに慰められ、ホテルに戻った。
部屋ではウラが椅子に座って泣いている。
「俺は、もういいよ。ウラにはやりたいことがあるんだろ?」
「ヨシさん…」
「応援する。頑張れよ」
「…はい」
ウラはしっかりと頷き、立ち上がった。
「もう、行くのか?」
「…はい」
ウラは支度をし始める。
「これ持っていけ」
俺はセイクリッドソードを渡す。
「いいんですか?」
「いいんだよ。俺にはあの時手に入れたスカスミエルがあるから」
確かにスキルには制限されてしまうだろうが、俺にはそんなスキルがなくったって構わない
そして、別れの時。
ホテルの外で、ウラは何も言わず、俺は手を振って見送った。
一人いなくなることは寂しい。
そんな気持ちを抑えて俺達は再び部屋に戻った。
「そう気を落とさないでください。貴方には私がいますから」
俺はカヤエの顔を見る。
「そう…だよな。ごめんなカヤエ」
「いいですよ。それよりも私も大事な話があります」
「ちょっと、今日はやめて、また後ででいいか?」
「…はい。別に構いません。では私は用事がありますので失礼します。その様子ですと家をご購入される気はないでしょうから。…では」
カヤエはそう言って俺を一人、残して部屋を出て行った。
何時も三人だったので、久しぶりに一人になった気分だ。
散歩に行こう。
暇な時は散歩だ、散歩。
俺は気分を間際らわせるために、部屋を出て、ホテルを出た。
時刻はまだ昼すぎで、町は賑わっている。
すると、店から怒鳴り声が聴こえる。
「何度いったら分かるんだよ!」
声が聞こえたかと思うと、女の人が店から放り出される。
「もういい!お前はクビだ!明日から来なくていい!」
放り出された女の人を見ると、声をかけずにはいられなかった
「大丈夫か?」
俺は倒れている女の人に手を差し出す。
女の人はそれに捕まって立ち上がる。
「…ありがと」
その女の人の身なりを見ると、ボロい服を来ていて、髪の毛はボサボサで少しかわいそうになる。
「なんなら、ちょっと来ないか?その服じゃあなんだから着替えないと」
「…」
返事こそ無かったものの、俺は手を引っ張り部屋に連れて行った。
先ずは風呂にいれないと…
「とりあえず風呂に入れば?」
俺がそう言うと
「…フロ?」
「うん。身体洗っておいで」
俺は女の人を連れて風呂を案内する。
「ここで脱いで中に入る。いい?」
女の人は返事をせずに脱ぎ始めたので、俺は慌てて風呂場からでる。
すると、女の人は裸で風呂場から出てきた。
そして、
「…フロ、わからない」
彼女はそう言った。
風呂がわからない…のか。
「と、取り敢えず、こっちに来て」
俺は風呂場にもう一度向かう
「ここで頭を洗うんだよ」
「…アラウ、わからない、やって」
「ま、まぁ洗うくらいなら…」
俺は服のまま入り彼女は裸で入る。
何なんだこの状況は…
「じゃあ、頭、洗うな」
彼女は返事をしないので頭を洗いはじめる
「目、瞑ってろよ?」
もしかしたらこの女の人の国には風呂を入る文化がないのかもしれない。
そんなことは考えられないだろうか?
頭を洗い流し終わると、次は…
「え、えっと。俺はもう上がるから、君は同じ要領で身体も洗うんだぞ」
俺は風呂を出る。
服を来ていたため、蒸気のせいで暑かった。
「……おわった」
俺が出て間もなくして、彼女は直ぐに出てきた。
「気持ちよかったろ?」
彼女は時々返事をしないが何となく俺には分かる。
「じゃあこれで身体を拭いて。俺は服を取ってくるから」
彼女にタオルを渡し、俺は服を探す。服とは言っても、カヤエのメイド服しかなかったので、それを着せた。
一段落つき、ベッドで質問させてもらうことに。
「店で何したの?」
「…わからない」
「どこから来たの?」
「…わからない」
「じゃ、じゃあ君の名前は?」
「……わからない」
彼女に色んな質問をしたが、返事はわからない、だけであった。
記憶喪失か…
その線があり得る。一度仲間にして保護でもするか。どっちみち外に出たら困るだろう。
「しばらくはここにいる方が良いよ」
「…そうする」
そして沈黙が始まる。
俺は彼女を横から見ると、目は蒼白に好きとっていて、髪はほんのり水色がかっていた。現実ではこの髪の色が似合う人はいないだろうが、これはゲームの世界。
彼女には特別にあっていた。
沈黙はしばらく続いて、我慢大会みたいになっていたころ、カヤエが帰って来た。
俺の隣の彼女を見ると、
「貴方という人は…」
そう言って彼女と見つめ合う。
彼女は恐い雰囲気を感じ取ったのか、俺の後ろに隠れる。
「あ、そういえばカヤエ、カヤエの服、借りてるけど大丈夫?」
「…別に大丈夫ですが、その人は?」
「道で困ってたから声かけたんだけどさ、なんにも知らなくてさ」
「記憶喪失…ですか」
「多分」
「……だれ?」
彼女は珍しく自分から話しかけて来た。
「この人はカヤエ。俺はヨシハルだよ」
「よろしくお願いします」
「……かやえ…よしはる」
「それよりも名前がわからないんじゃあな…」
名前が無いとどう呼べば良いか分からないし、色々と不便だ。
「名前を付ければいいのでは?」
カヤエがそんな提案をしてきた。
「あ、それ、いいね。じゃあ…ええっと…アヤメ…何てどう?大人しそうな名前だし」
「……あやめ…」
彼女は目をこちらにむける
「どうやら気に入ったみたいですね」
「じゃあ、君の名前はアヤメ、だ。よろしくな」
「……うん」
ウラがいなくなり、代わりにアヤメが仲間に加わった
十八話を継続して読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




