第十六茶 変わらない日常。
「少し、よろしいでしょうか?」
カヤエが食糧庫の中に入って来た。
「ん?なんだ?」
俺は手元にある野菜や肉を手にしながら答えた。
「この後、いかがなさるつもりですか」
「前にも言った通りだよ。砂漠の森に行く」
「いえ、そうではなくて」
「え?」
カヤエは顔は変えないものの頭のアンテナは少し焦っているように見える。
「…やはり、今は結構です」
カヤエはそう言い残すと、すぐに食糧庫から出て行った。
「何だったんだ?」
取り残されたみたいになった俺は野菜を片手にそう呟いた。
そんなことよりも晩飯、晩飯。
今晩は焼き魚だな。和風で攻めよう。
俺は秋刀魚と塩を両手にもって、キッチンへ向かった。
「お、炊けてる炊けてる」
先日米を炊けるように準備していたので、一応炊けているみたいだ。
これで、米、魚、味噌汁の三拍子…
あ、味噌汁だ。
「ウラー?」
俺はウラを呼び出す。
「何ですか?」
ひょこっとキッチンに顔を出す。
「食糧庫に味噌とって来てくれないか?取ってくるの忘れたんだ」
「み、みそ…ですか?」
「うん。味噌」
「…すみません。みそって何ですか?」
えっ?
まさかこの世界は味噌がない?
「あ、ごめん。間違えた。かつお節持って来て」
「かつおぶし…」
まさか、かつお節も無いのか?
どおりでうどんのツユを作る時に無かった訳だ。
「あ、やっぱりいいや。ありがとう。戻っていいよ」
「…すみません。何も、知らなくて」
「別にいいよ。…って!何も責めてなんてないから。泣くなって」
何故かウラは泣き出してしまい、カヤエが駆け付けに来てくれた。
が、カヤエは俺が何かしたと勘違いし、鋭い目で俺を睨んだ後ウラと一緒にリビングに帰った。
「…ほんと何なの?」
少し泣きたい気持ちを抑えて魚を焼き始め、塩を絶妙なバランスで秋刀魚の身体に振りかける。
そして三枚の皿に秋刀魚を三匹、それぞれのせて、レモンも添えておいた。
俺はそれをリビングに持っていくと、二人の目線は秋刀魚に向けられた。
俺はすぐにキッチンに戻り、米を茶碗によそい、それをリビングに運ぶ。
全て机の上に起き終わると
「ヨシさん。これは何ですか?」
「秋刀魚の塩焼きだよ」
「秋刀魚をそのように調理するとは。思いもよりませんでした」
「そうか?ならカヤエはどんな風に料理するんだ?」
「生です」
生って…料理じゃないだろ。
刺身だよ。刺身。
「そ、そうか。ほ、ほら、早く食べないと冷めるぞ。はい、いただきます」
「いただきまーす!」
「いただきます。」
俺が真っ先にこんがりとちょうど良く焼けた秋刀魚を口に入れる。
おお。旨い旨い。
続いて二人が口に運ぶ。
「塩気が効いていて美味しいです」
カヤエは直様絶賛してくれたが、ウラは口に運ぶのと同時に顔の色を変える。
「どうしたんだ?」
俺が聞いても無言のままで何も喋らない。
「何かあったのか?」
俺がもう一度聞くと
「ほ、骨が…」
骨の取り方を知らないとは…
いや、秋刀魚の塩焼きを知らないからなのか…しかしカヤエは何とも無かったんだが。
「骨は仕様ではなかったのですか」
あ、カヤエは骨ごと食べてたみたいだ。
仕様って表現はどうかと思うが…
「ごめん、ちょっと貸して」
俺はウラから秋刀魚ののっている皿を手にして秋刀魚の腹に箸を入れてそのまま秋刀魚を開きにして骨だけをとってあげた。
「ありがとうございます!」
ウラは嬉しそうに皿を受け取ると秋刀魚を頬張り始めた。
「なるほど。では私も」
そう言って、カヤエの愛刀、ソウセイ剣を取り出す。
「いや!まてまて!剣はダメだろ!」
俺はすぐにカヤエから皿を取り、ウラと同じようにして、返した。
「器用ですね…」
「まあな」
俺はその後、和風をしっかり堪能した。
「ヨシさん、今日は誰からお風呂に入ります?」
「私はまた最後で大丈夫です」
「じゃあ私、先に入りまーす!」
ウラはそう言うと真っ先に風呂場に直行した。
「そう言えば、カヤエ?」
「何ですか?」
「砂漠の森の情報知ってるか?」
「はい。少しながら父から聞いております。話によりますと、確か知恵と力の両方を兼ね揃えたものだけが、奥地に辿り着ける…だった気がします」
「そうだ。流石だな」
俺が褒めると照れているのかアンテナがクネクネしている。
「砂漠の森、奥地。そこには一体何があるのでしょうか」
「それは明日のお楽しみだな」
「そうですね」
俺たちの会話が一段落着くと、ウラが風呂から上がる。
「ふぅー。やっぱりお風呂は最高です」
「そうか。なら俺入ってくる」
俺もすぐさま風呂に直行。
風呂は良い所だ。
常に一人でくつろげる。
俺は湯船に浸かりながら明日の事を考えた。
俺達が明日行く砂漠の森。その奥地にもしかしたら俺が元の世界に戻れる方法があるかもしれない。
砂漠の森に棲む妖精「カピタン」がその鍵を握っているといえるだろう。
「どうしたのですか。そんな険しい顔して」
頭にアンテナのついた裸の美女がひょこっと姿を現した。
「うおわッ!な、何でカヤエがここに!?しかもはだ…」
「駄目でしたか?たまには二人で入るのも宜しいかと」
「いや、駄目…じゃないけど…」
目のやり場に困るじゃないか。
俺は咄嗟にタオルで隠した。
カヤエはそんな俺に気付かずに俺の隣に入って俺にもたれかかる。
「ちょっ…ウラは!?」
「スリープで眠らしましたので30分ほど大丈夫です」
眠らしたって…
「そ、そうか」
なら良いか…ん?良いのか?
「お風呂は好きですか?」
「ん?ま、まあな」
しばらく沈黙が続く。
この状況はどう説明していいのか。
「ちょっと、しがみつき過ぎだよ」
俺の腕にしがみつきながらもたれかかってくるので自然と胸が。
「あ、すみません。こうしていると落ち着くもので」
何なのこの空気は。
「何だコレ。」
俺は腹にスリスリと漂っている黒い何かに触れた。
「ひゃふあ!な、何するんですか!」
「あ、いや、何か漂ってたから」
しっぽだったのか。
それにしてもその反応可愛い…
「…触りたいのでしたら、触っても、良いですよ?」
「本当か!?なら遠慮なく!」
俺は早速、フサフサのしっぽを触る。
うわぁ。凄いフサフサだ。
フサフサのもふもふで…
「…ちょっ…触り過ぎですよ!」
俺は目の前でしっぽを没収された。
残念。
「貴方は、不思議ですね」
「何が?」
「私のしっぽを見ても驚かない人は居ませんでしたよ?」
「そうなのか?カヤエは可愛いんだけどなぁ」
「ッ!…そうですか?でしたら…」
カヤエは立ち上がる。
おっと…目のやり場に困るじゃないか。
カヤエは俺の前にきて俺にもたれかかるようにして顔を近づけてきた。
「そこまで貴方が私の事を思ってらしたとは、知りませんでした。
よければキスを受け取ってください」
エメラルド色に透き通った瞳で俺を見つめる。
アンテナはピーンと立っていて、顔をどんどん近づけてくる。
俺も無意識の内に顔を寄せていく。
そして
「ヨシさん!?カヤエさん!?何やってるですか!!二人だけでイチャイチャと!あ!まさか、キスを…!二人とも最低です!!」
「スリープ」
カヤエが魔法をかけると、ウラは崩れ落ちる。
俺はカヤエと見合わせる。
「…30分超えてしまいましたね」
相変わらず俺に上に乗って抱きついているカヤエ。
「…この後大変だぞ。キスはまた今度にしよう」
「残念です」
カヤエは俺から離れて隣へ戻る。
俺は湯船から上がり、シャワーで頭を洗う。
さて、ウラが起きたら大変だぞ。
何て言い訳していいか…
俺は一通り頭を洗い流すと湯船に浸かっているカヤエを見る。
どうやら疲れが溜まっているようで、湯船で寝てしまったようだ。
寝ている姿はまた一段と可愛い。
っと…いけない、いけない。
「カヤエ。上がるぞ」
「ん…あ、はい」
カヤエは目を擦りながら立ち上がる。
「カヤエ…恥ずかしくないのか?」
「はい。貴方であれば」
俺はさっさと風呂を上がった。
俺は寝ているウラをベッドに運び寝かせて俺たちもベッドで横になる。
「そろそろウラさんが目覚める頃です」
「そ、そうだな」
「結婚しませんか?私たち」
「け、結婚!?」
結婚はダメだ。あくまで俺は異世界から来た人間。
この世界の住人ではない。
するとその言葉に反応したのか、ウラが起き出す。
「駄目ですよ!!ヨシさんには私がいるんですから!!」
「ウラさん、何を仰っているのでしょうか?貴方より私の方が適任です」
ここから二人の言い争いが始まる。
「いいえ、カヤエさん何かより私が一番な筈です!ね、ヨシさん?」
「え?」
いきなり振られても…
「ウラさんの何処に魅力があるのですか?」
「私にだって魅力はありますよ!」
「例えば、どの点でしょうか?」
このままでは、また戦いで決着をつけそうになりそうだ。
ここは俺から止めに入るしかない。
「ちょっと、待っ…」
「「(ヨシさん)(貴方は)黙ってください!」」
「うっ…!」
ダメだ。俺では止めれない。止めるどころか余計にエスカレートしていっている気が…
俺を取り合いしてくれる美女が二人居るというのは嬉しいことなのだが。
「でしたら決闘で決めませんか?」
遂にカヤエが決闘を持ち込む。
明らかカヤエが有利なのだが、それにまんまとハメられて
「うっ…。い、良いですよ!?別に負けませんから!」
受けてしまう。
ここは仕方ない。
「スリープ!!」
俺はスリープを使い、二人とも眠らした。
「ふぅー。ったく」
二人は仲良く向かいあってベッドで寝ている。
いや、仲良かったのかは知らないが。
「私はその程度の魔法は効きませんよ」
「やっぱりか」
やはりカヤエには効果が薄かったみたいだ。
すぐに目を覚ます。
「大人になれよ。カヤエ」
「すみません。少しながらムキになりました」
反省している顔もこれまた可愛い…
じゃない!もうなんだ?今日の俺は!?妙に女性を欲しがってしまう。
「二人の気持ちは分かったから。もう寝るぞ」
返事はなかったが、俺は電気を消してベッドの真ん中に横になった。
っと、右側にいるカヤエからしっぽがひょろひょろと擦り寄って来た。
俺はそのしっぽを手で触る。
フッサフサだ…毎日、常日頃こうしておきたいくらいに気持ちいい。
「そんなにしっぽが好きですか?」
俺が強く触る度にビクッと頭のアンテナを動かすカヤエ。
それが可愛いくてつい抑揚をつけて触ってしまう。
「ああ。好きさ。大好きさ」
俺はしっぽに夢中になりながらもそうこたえた。
「なら、私は好きですか?」
その質問がきた時に俺はしっぽを触る手を止めた。
「好きにきまってるじゃないか」
ついついそう答えてしまった。
いや、ゲームの頃からカヤエが可愛すぎて大好きだったから。
俺はまた手を動かす。
「…ウラさんと比べてもですか?」
俺の手はまたもや止まる。
ウラと比べると、か。
ウラは確かに可愛いと言えば可愛いんだが、恋愛対処とかになるかって言われると…ん~。
「ウラは、また別だよ」
「そうですか。でしたら結婚を…」
「いや、カヤエは俺の全てを知っていない。俺の事を知ってしまったら多分カヤエは……やっぱり何でもない」
俺が別の世界から来たとなればカヤエとウラはどんな反応をするだろうか。
信じてくれるだろうか。
「私は貴方の事をもっと知りたいです」
「残念だが…今は言えない」
「そうですか」
「いつの日か…言える日が来る。その時は信じてくれるか?」
「当然です。いかなる事でも信じますよ」
本当に信じてくれるのか…
それよりも、
「ウラ、起きてるだろ」
「ひっ!ば、ばれてました?」
「当たり前だろ。誰だって気づくぞ。そんなにしがみついてきたら」
相変わらず腕に巻きついて来る。
「では、私もそうします」
カヤエはそう言って右腕に巻きついて来た。
俺は身動きが出来なくなってしまった。
「…もう。寝よう」
俺は自分にスリープをかけて先に眠らせてもらった。
次の日の朝。
俺は真っ先に目を覚ました。
相変わらず二人は俺にしがみついている。
俺はウラを引っぺがす。
次にカヤエを引っぺがそうとしたが、案外強く巻きついて来いて離れない。
仕方なくしっぽを握ると
「ひゃあ!!」
可愛いらしい声で飛び起きた。
「おはよう」
「…おはようございます」
「それにしてもしっぽは敏感だよな」
「…お恥ずかしい事ですが」
「良いんだよ。可愛いから」
可愛いければ何をしても良い。
これは当然のことだ。
「それに…」
「ひゃあう!?ちょっと!朝から…うひぇあ!」
しっぽを勢いよく擦るとこんな風に乱れるのが堪らなく可愛い…
っと…このままでは完璧に変態になってしまう。
「カヤエはしっぽが弱いんだな」
「…貴方はドSで…ひゃう!」
「何か言った?」
「い、いえ。何も」
「そう。なら良いんだ」
俺がしっぽから手を離すと、すぐさましっぽを隠した。
流石に今のやり取りでウラも起きる。
「私にしっぽがあれば…」
一人でブツブツ言い始める。
「さ、準備だ。準備。今から砂漠の森に行くぞ」
俺はさっさと風呂場に行き着替えを済ませ出発する準備をする。
するとベッドルールから
「ひゃあう!やめてくだ…ひぃ!」
「カヤエさん?誰にそんなことを言ってるんですか?」
ウラが先程のやり取りでカヤエの弱点を知ったようだ。
しっぽを両手で掴んでいる。
「許しませ…ふぁう!本当にやめ…はぁあ!助け…ひゃあん!」
「ふふ。カヤエさんと言えど、これには反抗出来ないみたいですね?」
完璧にウラがカヤエを従えている。
しかし俺が近寄ると
「あ!ヨシさん!」
俺に気を取られたウラは一瞬の隙をつかれる。
「あッ!ちょ…フヒヒヒ!こそばゆい…!アヒヒヒ!ズルいですよ!」
立場逆転。
カヤエは一瞬の隙を付き、ウラをノックアウトさせた。
「次、あんなことをしたら今度こそ許しませんよ。
すみません、弱い所を見せてしまい。」
「気にしなくていいよ。それより、ウラは出発までには回復するの?」
こそばされて死にかけているウラを指差す。
「大丈夫でしょう」
「…それより服。服着なよ」
「あ、はい」
多分着替えの途中にウラに襲われたのだろう。
そして出発の時。
「よし、んじゃあ行くぞ?」
「はい」
「準備オーケーです!」
俺たちは砂漠の森に向かった。




