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その日はパフェを食べながら雑談をしてゲームセンターに行き、クレーンゲームで透哉に欲しかったキャラクターのぬいぐるみを取ってもらった。奏音はぬいぐるみを喜んで受け取った。かわいくてふわふわのクマのぬいぐるみ。服屋にも行った。奏音が行く予定だった服屋。ゴシックロリータのブランドで、かわいさの中に少しの毒が含まれているような服を見ては透哉は「これ、カノンに似合うんじゃない?」と一緒になって物色してくれた。
夕方になり帰り道。連絡先の交換をした。透哉は奏音の降りる駅まで一緒に帰り、電車の降り際に笑顔で手を振っていた。
──カレカノごっこ。それらしかった。奏音も週末だけ男の娘になる生活をしだしてから、初めての楽しい週末だった。──そう、奏音は透哉と過ごした時間を楽しいと感じていた。
「ただいま」
誰もいない家に帰宅し、奏音は着替えをしてカノンから素の自分に戻る。
母親は仕事で不在にしている。父は幼い頃に離婚していない。親の目がない時間が奏音がカノンに慣れる自由な時間だ。
今日身に着けていた服やアクセサリー、ウィッグの手入れをしながら奏音はぽつりと呟いた。
「楽しかったな。透哉って、思ったより面白いやつかも」
学校で噂に聞いていたほど女癖が悪いというわけでもないらしい。顔がいいのは変わらない。かわいいものやおしゃれなものが好きという共通点もあった。実際によく知りもしないで透哉を警戒した奏音に少しだけ罪悪感が残る。
当然のように透哉は奏音の女装を誰にも言わないと約束もしてくれた。
バッグの中から小さなショップの紙袋を出し、奏音は少し笑って封止めのシールを慎重にはがして中身を出した。紫のバラと十字架のモチーフが繋がった片耳用の二連ピアス。それは透哉が買ってくれた約束の印だ。奏音のお気に入りのショップで透哉が「似合うんじゃね?」と言って選んでくれた。
「かわいい。付けてみよ」
奏音は姿見の前に座り直し、普段付けているシンプルなシルバーのピアスを外し、透哉の買ってくれたピアスに付け替えた。ウィッグを外しても奏音は髪を耳を隠すくらいに伸ばしており、髪を耳にかけてピアスを確かめる。バラと十字架のモチーフが細いシルバーのチェーンで繋がっていて、冷たく輝く。
薄い耳たぶに小さいけれど金属の質感を残した紫のバラとチェーンに繋がった十字架のシルバー。やはりかわいい。普段、女装をする時は大ぶりなピアスを付けることが多く、小さく繊細なデザインのピアスは奏音にとって新鮮でもある。
「このくらいなら、普段からつけてても変じゃないかも」
奏音はピアスを指先で確かめ、角度を変えて何度も見てから呟いた。
「ねえ、どう思う? 僕らしくないかな」
透哉に取ってもらった白いクマのぬいぐるみに奏音は何気なく訊ねるが、ぬいぐるみは返事をしない。それは奏音の癖だ。一人っ子で母親が仕事で不在がち。一人親環境で育った奏音がぬいぐるみを話し相手にするのはありがちな環境順応だ。
クマのぬいぐるみをぽふぽふと撫でていると、スマホの通知音がぴこんと鳴った。
「ん? 誰かな」
奏音がスマホに手を伸ばして画面を確認すると、透哉からのメッセージだった。
『カノンー! また週末遊ぼうなっ!』
自撮りの写真とともに短いメッセージが添えられていた。やっぱり顔がいいな、と奏音はしみじみと思う。それから遅れて、透哉に対して「マメだな」と感じた。
奏音はちょうど撫でてたクマのぬいぐるみと自撮りをしようとしてやめた。もうカノンの姿ではないと気付いたからだ。
『今日は楽しかった。来週も楽しみにしてるね』
結局、無難なメッセージを送り返した。
スマホを置いてしばらくしてから、奏音はピアスの写真を送ってもよかったかもしれないと気付く。けれど、奏音は結局それをしなかった。カレカノごっこ。それだけなのだ。それ以上でもそれ以下でもない。
それに──透哉がどんなつもりで奏音にそんなことを持ち掛けたのかもよくわからない。ただ、かわいいということを肯定され、うっかりいいよと言ってしまったのだ。なのに奏音は透哉からもらったピアスをかわいいと思い、クレーンゲームで取ってもらった白いクマを無意識に撫でている。




