第46話 秘密の創作とアイテムボックスの悲喜劇
三日間の休暇を終え、アイリスはセーフハウスの一角で、こそこそと何かに取り組んでいた。
それは、この世界では珍しい、自分だけの密かな創作物だった。アイリスは誰にも見せず、手元で緻密に書き込んでいた。
「……ふぅ、誰にも見られずにここまでやれた」
静かな独り言とともに、彼女は小さく息をついた。その瞬間、背後から気配を感じる。
「……これ、なにやってるの?」
振り向くと、リーナが好奇心丸出しで近づいてきていた。
「え、ちょっと! 見ないで!」
アイリスは慌てて手元のものを隠す。しかしリーナは無邪気に覗き込み、顔をほころばせる。
「ふふ、面白そうじゃない。ちょっと見せてよ」
「だ、だから見ないでって……!」
ガルドも興味津々で近づいてくる。アイリスは赤面しながら必死に守るが、仲間たちには秘密の創作物が見えてしまった。
「……あれ、これってアイリスの手作り?」
ガルドの言葉に、アイリスは小さく頷く。誰にも知られないはずの努力が、いきなり公になった瞬間だった。
「うーん、でもさ、商業ギルドに登録したら売れるんじゃないか?」
リーナは無邪気に笑う。アイリスは思わず目を見開く。
「え……え? 売るの?」
「せっかく描いたんだし、他の人にも見せられるじゃない」
アイリスは戸惑いながらも納得せざるを得なかった。仲間たちの視線を避けつつも、これも冒険の副産物の一つだと考えた。
翌日、アイリスたちは街の商業ギルドに向かう。
窓口でアイリスは創作物を提出した。ギルドの担当者はそれを見て少し驚いた様子だ。
「……これは特許を出して、販売も可能です。登録しましょう」
「え、えっと、登録すれば販売も……?」
「はい。あなたの作品として正式に流通可能です」
こうして、仲間に見られた秘密の創作物は、なぜか商業ギルドでの販売が決まった。
しかしここで問題が生まれる。量が多すぎて、手作業で複製するのは非現実的だったのだ。
「……え、全部アイテムボックスで増やすの?」
アイリスは焦りながら呟く。アイテムボックスは便利だが、こうして大量複製するのは少し気恥ずかしい。
「うん、これなら販売数も十分になる」
リーナは楽しそうに笑う。ガルドも苦笑しながらも手伝う気満々だ。
アイリスは深呼吸し、原稿を一枚ずつアイテムボックスに入れて複製を開始する。瞬く間に量は増え、手元には山のように並んだ。
「……うわ、すごい。でも恥ずかしい……」
仲間たちの前で複製される様子に、アイリスは赤面しつつ整理を始める。
「これで街中で販売可能になるわけね」
リーナがからかうように言う。
「そ、そうだけど……恥ずかしいな」
ガルドも苦笑しながら、山の整理を手伝う。
アイリスは少しずつ恥ずかしさを笑いに変え、仲間たちの協力を得ながら作業を進めた。
その夜、セーフハウスのテーブルには、増えた創作物と作り置きの揚げ物、チーズハンバーグ、酒が並ぶ。四人は笑いながら次の冒険や資金運用について話し合った。
「これで次の迷宮も準備万端だね」
アイリスは淡々と整理を終えながら呟く。
「でもまずは、冒険のほうが優先だね」
リーナが笑顔で頷き、ガルドも同意する。
アイリスは密かに心の中で、この創作物が誰にも知られないように守りながら、次の冒険への準備を整える。
物語の幕はまだ下りない。仲間との絆も、アイテムボックスの力も、そして冒険も――すべてがこれから広がっていくのだ。




