第36話 銀影の狩場――はぐれメタルと経験値の暴風
セーフハウスでの休息を終えた三人は、再び迷宮の深層へと足を進めていた。
金塊の回収で得た余裕は大きいが、それだけで満足する理由はない。装備も資金も整ってきた今、次に狙うべきは――経験値だった。
「……次、行く場所ある」
アイリスが歩きながら言う。
「またか」
ガルドが軽く笑う。
「今度は何だ?」
「経験値効率、最上位」
その言葉に、リーナが反応する。
「……強い?」
「強くない」
「は?」
ガルドが眉をひそめる。
「強くないのに、効率いいのか?」
「逃げる」
「余計面倒じゃねぇか」
だがアイリスは首を振る。
「捕まえればいい」
「簡単に言うな……」
しばらく進むと、通路の雰囲気が変わる。金属的な光沢を持つ床。滑らかな壁。足音が軽く響く。
「……ここ」
アイリスが止まる。
何もいないように見える。
だが――
「来る」
その瞬間、小さな影が走った。
銀色。
丸い体。
異様に速い。
「……あれか!」
ガルドが反応する。
「はぐれメタルスライム」
アイリスが告げる。
「経験値、異常に高い」
「でも逃げるんだろ?」
「普通は」
その“普通”という言葉に、ガルドは苦笑する。
「お前が言うと信用ならねぇな」
はぐれメタルスライムは、こちらに気づいた瞬間、全力で逃げ出す。
壁際を滑るように移動し、隙間へと消えようとする。
だが――
「逃がさない」
アイリスが静かに言う。
手をかざす。
アイテムボックスを開く。
「……え?」
ガルドが声を漏らす。
次の瞬間。
はぐれメタルスライムの進路に、“壁”が出現した。
突然の障害物。
スライムが弾かれる。
「動線制御」
アイリスが短く言う。
「逃げ道、塞ぐ」
「……そんなことできんのかよ」
「できる」
シンプルな答え。
さらに別の位置に、別の障害物を出す。
通路が“閉じる”。
スライムが行き場を失う。
「今」
リーナが動く。
盾で進路を遮る。
ガルドが前に出る。
「逃がすかよ!」
完全に囲む。
はぐれメタルスライムは跳ねる。
だが、もう逃げ場はない。
「撃つ」
アイリスが武器を構える。
だが、ここで問題がある。
「……硬い」
弾が弾かれる。
「物理ほぼ無効」
「じゃあどうすんだ!」
ガルドが叫ぶ。
アイリスは冷静だった。
「回数で押す」
「力技かよ!」
だが、それしかない。
連射。
連射。
連射。
わずかなダメージを積み重ねる。
リーナが押さえ、ガルドが逃げ道を潰す。
アイリスが撃ち続ける。
やがて――
小さな音。
そして。
はぐれメタルスライムが、崩れた。
光となって消える。
その瞬間。
空気が震えた。
「……なんだ?」
ガルドが目を瞬かせる。
体の奥から、何かが湧き上がる。
力。
確かな“成長”。
「……上がった」
リーナが呟く。
「経験値、多い」
アイリスが頷く。
「一体で、大量」
「やばいなこれ」
ガルドが笑う。
だが――
「まだいる」
アイリスの視線が動く。
別の影。
また一体。
はぐれメタルスライム。
「来たな!」
同じ手順。
逃げ道を塞ぐ。
囲む。
削る。
倒す。
再び、成長。
「……これ」
ガルドが息を吐く。
「無限に上がるんじゃねぇか?」
「出現数は限りある」
アイリスは淡々と答える。
「でも――」
少しだけ間を置く。
「周回できる」
「出たよ」
ガルドが笑う。
だが否定はしない。
むしろ、歓迎している。
三人は動き続ける。
はぐれメタルを探す。
見つける。
捕まえる。
倒す。
繰り返す。
経験値が積み上がる。
レベルが上がる。
体が軽くなる。
動きが洗練される。
「……効率いい」
リーナが呟く。
「最高効率」
アイリスが肯定する。
ガルドは笑いながら、次の標的を見る。
「まだまだいけるな」
三人は止まらない。
銀色の影を追い続ける。
逃げるはずの存在を、逃がさず狩る。
それは本来の想定を超えた戦い方。
だが――
それが彼らのやり方だった。
ゴミスキルと呼ばれた力。
それは今、経験値すら“効率化”していた。
三人の強さは、さらに加速する。
止まることなく。
果てることなく。
ただ、上へ――積み上がっていく。




