第37話 帰る場所
はぐれメタルスライムの狩場を離れた三人は、迷宮の通路を落ち着いた足取りで進んでいた。
先ほどまでの高速戦闘とは違い、今は敵を無理に探していない。周囲を警戒しながらも、どこか余裕のある空気が漂っている。
経験値も十分に稼いだ。装備も整ってきている。資金に至っては、もはや困ることはない。
だからこそ――次に何をするか、考える時間があった。
「……そろそろ」
アイリスが静かに口を開く。
その声に、ガルドが視線を向ける。
「何だ?」
「拠点、欲しい」
短い言葉。
だが、その意味は大きかった。
「拠点……家か?」
「うん」
リーナも小さく頷く。
「……必要」
三人は歩きながら話を続ける。
「今までは宿とセーフハウスで問題なかったけど」
アイリスが淡々と説明する。
「落ち着かない」
「まあ、それは分かるな」
ガルドが苦笑する。
セーフハウスは安全だが、共有空間だ。他の冒険者の出入りも多く、完全に気を抜ける場所ではない。
宿も同様だ。便利ではあるが、長期的な拠点には向かない。
「荷物も増えてる」
アイリスが続ける。
「整理する場所、必要」
「確かに」
ガルドは頷いた。
金塊、素材、装備、調味料。アイテムボックスに収まるとはいえ、管理の手間は確実に増えている。
「あと調理」
その一言で、リーナの目がわずかに輝く。
「……ちゃんとした場所、欲しい」
「それは同意だな」
ガルドも即答する。
「今でも十分うまいが、設備が整えばもっとできるだろ」
「火、安定する」
リーナが付け加える。
「うん」
アイリスは小さく笑う。
料理は環境で変わる。広い調理台、安定した火力、保管設備。それらがあれば、今よりさらに質の高い食事が可能になる。
少しの沈黙。
そして、ガルドがふと口を開いた。
「……あとさ」
「?」
「三人だけでいいのか?」
その言葉に、アイリスの足がわずかに止まる。
「どういう意味?」
「いや、今のバランスは悪くねぇけどよ」
ガルドは頭をかきながら続ける。
「回復役、いねぇだろ」
リーナも反応する。
「……確かに」
これまで問題にならなかったのは、単純に被弾が少なかったからだ。戦闘能力が高く、敵を短時間で処理できるため、大きなダメージを受ける場面が少なかった。
だが、それは“運用で補っている”状態に過ぎない。
「長期戦とか、連戦になるときついかもしれねぇ」
ガルドの言葉は現実的だった。
アイリスは少し考える。
戦力構成。
役割。
今の三人。
そして――足りないもの。
「……回復」
ぽつりと呟く。
「あと補助」
「だな」
ガルドが頷く。
「バフとかデバフとか、ああいうのがあると戦闘が安定する」
リーナも静かに言う。
「……守るだけじゃ、限界ある」
アイリスはゆっくりと顔を上げた。
「付与術師」
「それだな」
ガルドが笑う。
「回復魔法も使えて、補助もできるやつ」
「必要」
リーナがはっきりと言う。
三人の中で、自然と結論がまとまっていく。
「……仲間、増やす」
アイリスが決める。
「お、いいのか?」
「うん」
即答だった。
「効率上がる」
「理由がそれかよ」
ガルドが苦笑する。
だが、それだけではないと分かっていた。
戦闘の安定性。
探索の継続性。
そして――
「料理も増える」
「そこか!」
思わずツッコむ。
リーナは少しだけ考え、そして頷く。
「……人数多いと、楽しい」
その一言に、空気が柔らかくなる。
アイリスはわずかに目を細めた。
「条件ある」
「お、出たな」
ガルドが身構える。
「何だ?」
「回復魔法、使える」
「まあ当然だな」
「付与術」
「バフデバフか」
「あと」
少し間を置く。
「料理、嫌がらない」
「そこ重要かよ!」
だが、リーナは真剣に頷く。
「……大事」
「マジか……」
ガルドは頭を抱えるが、否定はしない。
確かに、この三人にとって“食事”は重要な要素になっている。
「あと、信用できる」
アイリスが続ける。
「それは一番大事だな」
ガルドの声が真剣になる。
力があっても、信用できなければ意味がない。
背中を預ける以上、そこは譲れない条件だった。
「……見つかる?」
リーナが静かに問う。
「見つける」
アイリスは迷いなく答えた。
そして――
「拠点も」
「仲間も」
「全部、揃える」
その言葉には、確かな意思があった。
ガルドは笑う。
「相変わらず欲張りだな」
「必要なだけ」
アイリスは淡々と返す。
リーナも小さく頷く。
「……いい」
三人は再び歩き出す。
迷宮の奥へと。
だがその先には、戦いや報酬だけではない。
帰る場所。
増える仲間。
広がる可能性。
すべてを手に入れるために。
三人は確実に、次の段階へと進もうとしていた。




