第34話 ゴールドゴーレムと金塊の楽園
宝箱階層での周回を終えた三人は、さらに深層へと足を進めていた。
罠の密度は相変わらず高いが、すでに慣れている。処理は流れるようで、足取りに迷いはない。やがて通路の空気が変わった。
重い。
わずかに金属の匂いが混じる。
「……変わったな」
ガルドが低く呟く。
アイリスは無言で頷く。
足元の石床に、微細な金色の粉が混じっているのが見えた。
「……これ」
リーナがしゃがみ込み、指先で触れる。
「金」
「だね」
アイリスの目がわずかに細まる。
「この先、金属系の魔物が出る」
「つまり?」
ガルドが口元を歪める。
「稼げる」
即答だった。
通路の先に、大きな空間が見えてくる。天井は高く、広さもこれまでの階層とは比べものにならない。
三人は慎重に足を踏み入れた。
そして――止まる。
「……なんだこれ」
ガルドが思わず声を漏らす。
視界に広がるのは、黄金。
床一面に散らばる金塊。壁に埋め込まれた金の鉱脈。光を反射して、迷宮の内部とは思えないほど明るく輝いている。
「……すごい」
リーナも珍しく感情を滲ませる。
だが、それだけではない。
その黄金の山の中に――“動く影”があった。
「来る」
アイリスが短く言う。
金塊の山が崩れ、そこから巨大な人型が姿を現す。
全身が黄金で構成された巨体。
鈍い光を放ちながら、ゆっくりと立ち上がる。
「……ゴーレムか」
ガルドが構える。
「ゴールドゴーレム」
アイリスが告げる。
「硬い。重い。でも――」
「倒せば?」
「全部金」
ガルドの目が輝いた。
「よし、やるか!」
ゴールドゴーレムが腕を振り上げる。
その動きは遅いが、質量が違う。直撃すればただでは済まない。
「前に出る」
リーナが盾を構える。
衝撃を受け止める。
重い音が響く。
だが、彼女は崩れない。
「集めるぞ!」
ガルドが叫び、さらに前に出る。
周囲の金塊が揺れ、別のゴーレムが起き上がる。
一体、二体、三体。
「増えたな」
「問題ない」
アイリスは冷静だった。
武器を構える。
狙うのは関節。
動きの要所。
「撃つ」
連射。
弾が走る。
だが――
「……硬い」
通常の魔物とは違う。
弾が弾かれる。
「物理耐性、高い」
「じゃあどうすんだ?」
ガルドが受けながら叫ぶ。
「削る」
単純だが、確実な方法。
同じ箇所に集中して撃ち込む。
ひびが入る。
さらに撃つ。
砕ける。
「……いける」
アイリスの声にわずかな手応えが混じる。
リーナが動きを止め、ガルドが位置を固定する。
そこに集中砲火。
一体、崩れる。
崩れた瞬間――
音を立てて、金塊へと変わる。
「……マジか」
ガルドが笑う。
「ほんとに全部金だな!」
「言った」
アイリスは淡々と答える。
次。
また一体。
同じように削り、崩す。
金塊になる。
さらに増える。
「うは……」
ガルドが思わず声を漏らす。
「やばいなこれ」
足元に金が溜まっていく。
動くたびに音が鳴る。
リーナも静かに頷く。
「……重い」
「あとで回収」
アイリスは冷静だ。
戦闘を優先する。
すべてのゴーレムを倒す。
最後の一体が崩れた。
静寂。
残ったのは――
金塊の山。
「……すげぇ」
ガルドがその場にしゃがみ込む。
手に取る。
ずっしりとした重み。
「これ全部持って帰れるのか?」
「持てる」
アイリスが即答する。
アイテムボックスを開く。
次々と収納していく。
金塊が消える。
消える。
消える。
「……便利すぎるだろ」
「知ってる」
リーナも一つ拾い、軽く見てから渡す。
すぐに収納。
作業はあっという間だった。
広い空間にあった金塊が、みるみるうちに消えていく。
最後に、ひとつだけ残す。
「……これ、記念」
アイリスが小さく言う。
「いいな、それ」
ガルドが笑う。
リーナも頷く。
短い休息。
だが、三人の表情には余裕があった。
「……ここ」
アイリスが周囲を見る。
「周回できる」
「出たよ」
ガルドが苦笑する。
「でも、確かに美味しいな」
「効率いい」
リーナも同意する。
三人は立ち上がる。
視線は再び奥へ。
まだ終わりではない。
金塊の山は、ここだけではないはずだ。
ゴールドゴーレムの階層。
それは――
戦えば戦うほど、富が増えていく場所。
「行く」
「おう」
「……うん」
三人は再び進む。
黄金の迷宮を。
笑いながら、金塊を積み上げながら。
その先にある、さらなる“美味しい場所”を求めて。




