表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れ伯爵家の三女、領地で無双する  作者: 森のカフェしっぽっぽ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/58

第33話 宝箱回廊――周回者たちの静かな狂気

 迷宮の中層に差しかかった頃、空気が変わった。


 それまでの単調な石壁と分岐の連続とは明らかに違う。通路は整然としており、部屋の配置にも一定の規則性がある。何より――宝箱の数が異様に多い。


「……ここ」


 アイリスが足を止める。


 視線の先には、扉のない小部屋。その中央に、ぽつんと置かれた宝箱。


 さらに、その奥にも同じような部屋が連なっているのが見える。


「……多いな」


 ガルドが眉を上げる。


「宝箱階層」


 アイリスが短く言う。


「そのまんまだな」


「ドロップ狙いの場所」


 リーナが静かに周囲を見渡す。


 敵の気配は薄い。代わりに、罠の密度が高い。


 そして宝箱。


「……どうする?」


 ガルドが問う。


 アイリスは迷わなかった。


「周回する」


「やっぱりか」


 ガルドが苦笑する。


 だが反対はしない。ここまで来て、見逃す理由はない。


「全部回収」


 リーナも短く同意する。


 三人は、すぐに動き出した。


 最初の部屋。


 宝箱一つ。


 だが、当然のように罠が仕込まれている。


「床、沈む」


 リーナが一歩前に出て止まる。


「横、来る」


 ガルドが壁を軽く叩く。


 アイリスは頷き、手早く対処する。


 石を投げ、床を落とし、矢を誘発させる。爆発系は事前に処理。


 無駄がない。


 数秒で安全を確保する。


「開ける」


 中身は――小さな魔石。


「……まあまあ」


 アイリスはすぐにアイテムボックスへ収納する。


「次」


 テンポが速い。


 二つ目。


 三つ目。


 四つ目。


 宝箱は連続して配置されているが、罠の種類や配置は微妙に違う。


 だが三人は止まらない。


「上から落ちる」


「回避」


「横、二連」


「処理」


 短い言葉で連携が成立する。


 ガルドが前に出て受け止め、リーナが遮断し、アイリスが解除と回収を同時に行う。


 動きに迷いはない。


「……これ、慣れてきたな」


 ガルドが呟く。


「パターンある」


 アイリスが答える。


「完全ランダムじゃない」


「つまり覚えゲーか」


「そう」


 進むほどに、処理速度が上がっていく。


 最初は慎重だった動きも、次第に“作業”へと変わっていく。


 宝箱を見つける。


 罠を読む。


 処理する。


 開ける。


 回収する。


 次へ。


 その繰り返し。


「……なんか、戦闘より忙しくねぇか?」


 ガルドが苦笑する。


「効率いい」


 アイリスは淡々と返す。


 実際、収穫は大きい。


 魔石、装飾品、素材、武器。


 中には珍しいアイテムも混ざっている。


「……これ、売ったら結構いくな」


「いく」


 アイリスが即答する。


 さらに進む。


 同じような構造が続く。


 だが、その中で――


「……大きい」


 リーナが言う。


 通常より一回り大きい宝箱。


「レア枠」


 アイリスの声が少しだけ低くなる。


「罠も強い」


「だろうな」


 ガルドが構える。


 慎重に観察する。


 床のわずかな歪み。


 壁の隙間。


 天井の影。


「……四つ」


「増えたな」


 だがやることは同じだ。


 一つずつ処理する。


 時間をかける。


 そして――


「開ける」


 中には――


 指輪。


 淡い光を放つ。


「……いいやつ」


 アイリスが小さく言う。


「当たりか」


「当たり」


 すぐに収納。


 そしてまた次へ。


 気づけば、時間の感覚が薄れていた。


 何個開けたのかも分からない。


 ただ、動き続ける。


「……何周目だ?」


 ガルドがぼそりと呟く。


「分からない」


 アイリスは即答する。


「まだ回る」


「まだやるのかよ」


 だがその声に嫌気はない。


 むしろ、どこか楽しんでいる。


 リーナも無言で頷く。


「……続ける」


 三人は止まらない。


 宝箱を開け続ける。


 罠を処理し続ける。


 ドロップを回収し続ける。


 それはもはや戦闘ではなく、“周回”という作業だった。


 だが――


 その作業は確実に力となる。


 装備が整う。


 資金が増える。


 選択肢が広がる。


 そして何より――


「……楽しい」


 アイリスが小さく呟く。


 単純な繰り返し。


 だが、それを最適化し、効率を突き詰める。


 その過程そのものが、彼女にとっては価値のあるものだった。


「……まあ、分かるけどな」


 ガルドも苦笑しながら同意する。


 リーナは静かに次の宝箱へ向かう。


 三人は進み続ける。


 宝箱階層という名の回廊を。


 尽きることのない報酬と、終わらない作業の中で。


 静かに、確実に、力を積み上げながら――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ