四十一呪 三人で来た場所は
まともな職業とは言い難いやの付く方々が、律儀に借りたい金額だけ貸して利息だけ高くするなんて逆に面倒な真似、するわけがないのだ。借りたいと思った金額以上に強引に貸して、更に利息をとんでもない金額にするとか、普通にやっていただろう。前提からして、間違っていたのだ。
そこまで話した時、ふと鈴音が思案顔になった。
「……少し思ったのだけれど、それも呪いの効果だったんじゃないかしら。もし叶真くんが借金を無視して警察に通報していたら、お金に振り回されることはなかったでしょうし。それだと、呪いが成立しないわよね? 呪いの効果が本当なら、そんなこともあり得るんじゃないかしら」
「言われてみればそうかもしれねえな……」
それは、とてもしっくりと来る仮説だった。もしそれが本当だとしたら、呪いに心まで操られていたようでかなり嫌だ。
本当に解呪出来て良かったと安堵した叶真は、やれやれと首を振った。
「まーとにもかくにも、これでもう借金なんて言う七面倒なもんに振り回されず!! 人生初の、夢にまで見た貯金と言うものが出来るぞ!!」
やたらと高いテンションで宣言してのけた叶真のしてみたいことが、まさかの貯金だった。これには鈴音だけでなく、求磨も呆れたような不憫に思うような目を向けた。
「……僕が言うのもなんなんだけど、借金なくなってやりたいこと、それなの?」
「いやだってよ、キュウ。これまで俺がどれほど頑張ってバイトして稼いだとしても、右から左に動かすだけでなくなってたんだぞ? と言うかむしろマイナスになっていた。それがどうだ。やっと、やっと貯められるんだぞ!? 俺借金がなくなったら、一度でいいから通帳に六桁の記載をしたかったんだよ!」
とてつもなく慎ましいその願いに、鈴音はもうなんと声をかけていいかわからなかった。求磨は求磨で、どちらかと言えば堅実ではなく派手に使ってみたいと思うタイプなので、なぜ叶真がこんなにもテンション高く貯金したいと言えるのかがよくわからない。
求磨ならもしもお金があったとしたら、とりあえず髪を染めてカラコンを買うだろう。もちろんオシャレのためではなく、無駄に目立ってしまう赤茶色の髪と瞳を隠すためだ。
それはそれで慎ましやかな願いだと気付かず、求磨は仲睦まじく歩く二人のあと遅れてついて行く。
今三人が鈴音の魔法に頼らず歩いているのは、この後にも用事があるからだ。家に直接帰るだけなら病室からテレポートすればいいだけの話なのだが、これから行く先はそうもいかないのだ。
「なぁキュウ。こういう時って、普通は何買うんだ?」
「さぁ……? 僕に訊かれても困るよ」
最初に向かった先は、スーパーだ。そこでこれから行く場所に必要なものを揃えようと来たのだが、なにぶん二人共全く経験がないので、どうしたらいいのかわからない。
この場で唯一経験者の鈴音がどうにか必要なものを揃え、レジへ持って行く。なんとここの支払いは割り勘だ。
求磨は暴走状態の時はバイトなど出来なかったので、色んな施設を転々としたり、適当な野草を食べたりしていたらしい。だが今は普通にバイトだって出来る。なので、求磨もきっちりお金を出していた。叶真も鈴音も無理をしなくていいと言ったのだが、けじめだからと求磨が聞かなかったのだ。
百鬼兄弟がとんちんかんな品物ばかりを持って来るので時間を喰ったが、どうにか予定していた時間に本日の最終目的地に着くことが出来た。
新緑の山々に囲まれた、静かな場所。目に見えない結界でも張られているのかのごとく、境界線を超えた途端に空気が変わった気になる。
ザクザクと砂利の敷かれた道を歩き、三人が辿り着いた場所。
『蛇喰家之墓』
レネルア・クーネスト――またの名を、蛇喰レネルアが葬られているお墓だった。
「墓の目の前で故人を悪く言うのは気が進まねえんだけどさ、なんつーか……自己主張激しい墓だなおい」
レネルアの眠る墓を見た最初の感想が、それだった。
求磨も同じことを思ったらしく、頭痛でもするかのように額を抑えていた。
「これはちょっと……うん。恥ずかしいね、全体的に。しかもこのお墓が建てられたのって、江戸時代とかそのくらい昔なんでしょ? より恥ずかしいよね。僕だったこんなお墓に入るくらいだったら、その辺で無縁仏になった方がマシだよ」
百鬼兄弟が酷評した墓が一体全体どんなものか。
本来墓石には、黒っぽい色をした黒御影石や、白っぽい色の花こう岩を使ったりする。他にも種類はあるが、わかりやすいのはそんな感じだろう。
だが、レネルアの墓は違う。
まず、石がなんと大理石だ。江戸時代に大理石のイメージがないのだが、どこから持って来たのだろうか。日本にも大理石が採れる場所がないわけではないので、そこはいいとしよう。
問題なのは、その形状だ。
大きさは、およそ百七十センチ。細身でやたらとスタイルがよく、髪の長い女性が一振りの剣を地面に突き刺すようにして持っている。
一言で言えば、相当に美化されたレネルア本人の彫刻だった。




