四十二呪 勇者の呪い
求磨の感想に同意なのか、子孫である鈴音ですら疲れた顔だ。
「そうよね、これはホントないわよね……私も最初見た時から思っているわ。あの本の姿を見た後だと、なおさら精神的に来るわよねこの墓石……一応お彼岸に毎回来るけれど、他のお墓に来た人達と出会った時の恥ずかしさと言ったら、尋常じゃないわよ……」
「なんかその、ごめん……」
「俺も申し訳なくなって来たわ……」
ただのレネルアを模した墓石であれば、ここまで残念な気持ちにはならなかったかもしれない。美化されている、と言う点からしてもう残念臭がするのだ。
レネルアが遺した本に映し出された映像が若い頃の本当姿と言うならばだが、このレネルアはもう別人クラス。顔だけならば似ている方だが、ずいぶんとその、胸の辺りが山盛りになっているのだ。
自分の虚像を映すのに、わざわざそこを削る必要はないので、あれこそが真実の姿なのだろう。どうやらレネルア本人は、そのことを気にしていたようである。
勇者ではあったが、中身はどこにでもいる女の子だったのかもしれない。
これ以上墓石の件を引っ張ると際限がなさそうだったので、その辺はもう考えないことにした三人はとりあえずお墓の掃除から始めた。
とは言えお彼岸の度に来ていると言うのは事実のようで、雑草を抜いて勇者の像を磨いた|(流石にまだこれを綺麗にするのは百鬼兄弟には抵抗があったので、鈴音がやった)だけで掃除はすぐに終了した。
「さてと」
買って来た花とお供え物のお饅頭|(レネルアの好物……ではなく、嫌がらせで選んだ嫌いなものだ)を墓前に供えた鈴音は、懐からある物を取り出した。
レネルアの遺した本だ。
「レネルアさん。これは役に立ったと言えば立ったけれど、ずいぶんと振り回されたわ。という訳で、今日は三人で文句を言いに来たの」
本を墓前に見せながら言った鈴音が退くと、先に墓石の前に立ったのは求磨だ。
「蛇喰レネルア。よくも僕達の人生を、しっちゃかめっちゃかに掻き回してくれたね。まあ、もう呪い自体は解けたことだし、恨んではいないよ。ただ、どうしても文句が言いたくてね。これだけは言わせてもらおう。ふざけんな」
それだけで満足したのか、求磨は持っていたお線香をあげるとくるりと踵を返しどこかへと歩き去ってしまった。恨んではいないが、まだわだかまりはあるのだろう。今日、文句を言いにとは言えここまで来ただけでも態度が軟化したと見るべきだ。
微妙な空気を残し去って行く求磨の背中を苦笑いで眺めていた叶真は、鈴音からお線香を受け取ると墓前にしゃがみこんだ。
「えっと、初めまして……って言うのが正しいのか? まあいいや。魔王の子孫の百鬼叶真だ。さっきのが双子の兄で、求磨。文句はあいつが言ってくれたから、俺は別のことを言おうと思う。ありがとう」
叶真が何を言うつもりだったのか知らなかった鈴音が無言で驚くなか、叶真はまるでそこにレネルアがいるかのよう言葉を重ねて行く。
「ぶっちゃけると、今でもあんたのことは嫌いだ。生まれてから十五年間、呪いのせいでロクでもない目に遭ったし、多分それが原因で死に掛けたし。だからまあ、本当はお礼なんか言う義理ねえんだけど……
でも、あんたが何もしなければ、俺は鈴音と出会わなかった。それは、すげー困る。てなわけで、他の因果関係とか全部ほっぽって気にしないで、その一点に限ってだけ礼を言うことにした。ありがとう」
お線香を上げ立ち上がる。最初に文句だけを言った鈴音は、お線香を上げていなかったので最後は鈴音の番なのだが。なぜか下がろうとする叶真を引き留めた。
「叶真くん、ちょっとそこにいてくれるかしら」
「いいけど……?」
わけもわからず言われた通りの場所に立つと、鈴音は先にお線香を上げてから、レネルアの像に向かって宣言した。
「レネルアさん、ごめんなさい。私、このお墓には入らない。他に入るところが出来たの。あとそれと、あなたが嫌っていた魔王の子孫を連れて来ちゃったわ。これについては謝るつもりもない」
言いたいことだけ言った鈴音は、何がなんだか思考の追いつかない叶真の腕を掴んでスタスタと歩き出した。
「ちょ、鈴音!? 色々よかったのか!?」
「いいのよ。どうせまたすぐ来るし、それに振り回されたのも本当だもの」
そう言って笑みを浮かべる鈴音は、心底楽しそうだった。
その笑顔には敵わないと肩を竦めなんとなく振り返った叶真は、見た気がした。
お墓の中央で、困ったような微笑みを浮かべ頭を下げる、金髪の少女の姿が。
「あれ……?」
「どうしたの?」
慌てて目を擦って見直すが、そこにはもう何も無い。
「……いや、なんでもねえよ」
首を傾げる鈴音の手を握り直した叶真は、今度は前を向いて歩き出した。
きっともう、勇者だの魔王だの、そんな下らないことは考えなくていいのだと。この手をずっと握っていて、いいのだと。
そろそろ夏もまっさかりな美しい青空を見上げながら、叶真はそう確信したのだった。
今回で完結となります。現在もう一つ連載しておりまして、タイトルは『異世界に行く方法はありますか?』です。よろしくお願いします。




