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四十呪 勇者も魔王も関係なく

 そろそろ夏の本番の、とても暑い日差しの下。燦々と降り注ぐ陽の光を避けもせず歩く、三人の姿があった。夏休みに入ったばかりのタイミングのため、全員が私服だ。


「わ、私なんかがお見舞いに行って、本当によかったのかしら……? 叶真くん達のお父様からしてみれば、私って諸悪の根源の子孫よ? 恨まれていてもおかしくないと言うか、むしろその方が自然とすら思うのだけれど……」


 病院を出て次の目的地へと向かう小さな交差点の一角で、信号待ちをする鈴音が心配そうに尋ねた。


 今日は叶真、求磨、そして叶真が強引に引っ張って来た鈴音の三人で、百鬼(なきり)奇跡(みらくる)――百鬼兄弟の父親のお見舞いに病院へ行っていたため、三人で集まったのである。


 何度大丈夫だと言っても心配をやめない鈴音に対し、叶真は気にした様子もなく信号が青になった横断歩道を渡りながら、肩を竦めて軽く答えた。


「大丈夫だって、全然問題ないから。うちの親父、そんなこと小さい気にするようなタマじゃねえし。むしろ、息子が初めて彼女連れて来たーって、喜んでたんじゃねえか?」


「まあ父さんの意識があったら、絶対に喜んでいたよね。それを素直に口に出すかどうかは、ともかくとして」


 三人で並ぶには道が狭いので、叶真と鈴音に一歩遅れながら歩く求磨はどことなく呆れた様子だ。原因は、とても簡単なことである。目の前を歩く叶真と鈴音の二人が、朝会ってからずっと腕を組んでいるからだ。


 やーやーお熱いことでー、と面倒そうに一度囃し立てたきり、求磨は二人については何も口を挟んでいない。


ぶっちゃけると何か言うのも面倒だというのと、勝手にすればいいだろみたいな半分拗ねているというのが正しい。一年ぶりに兄弟と顔を合わせたと言うのに、自分よりも彼女を優先させればこうなってもおかしくなかった。


 ここで叶真の名誉のために言うと、求磨よりも鈴音を優先している、だなんてことは全くない。正確に言うと、きっちり半々だ。それでも求磨としては、面白くない。問題は一応解決したとは言え、まだわだかまりが完全になくなったわけではないのだ。


 後ろで腕を頭の後ろで組み投げやりな様子で歩く求磨の心境には気付かず、叶真と鈴音は病院でのことを話していた。求磨の場合、今回は位置取りも悪かったと言える。


「それにしても、ちょっととは言えちゃんと髪の毛生えて来てたな、親父」


「そうね。スキンヘッドだって聞かされていたけれど、丸刈りって言うのかしら。普通の坊主だったわね」


 あの騒動の後始末――主に求磨の引っ越しやら本当に借金を返す相手がいなくなったのかの調査――が終わって、今日やっとお見舞いに来ることが出来た。本当なら、もっと早く来たかったのだがなかなか日取りが合わなかったのである。


 三つの呪いが全て解けたと思われたあの日から、既に二週間近くが経っている。もしも本当に呪いが解けているのであれば、そろそろ父親に髪の毛が生えていてもおかしくないとは思っていたが、直接確かめてみるまで信じられなかったのだ。


「……ってことはやっぱ、呪い、ちゃんと解けてたんだな。全然実感湧かねえけど、親父の頭見る限り解けてるってことなんだろ」


 遠い目をする叶真の呟きに応えたのは、同じく遠くを見つめる求磨だ。


「そうみたい、だね。僕も未だに信じられないよ。あれだけ僕達を苦しめていた呪いが、もうどこにも存在していないだなんて」


 話を聞いていた鈴音も慎重に言葉を選びながら、それに同意した。


「そうよね。ただ、何と言うかとても勝手なのだけれど……呪いが解ける時って、もっとこう派手な光とか、わかりやすい何かがあるのではないかと勝手に思い込んでいたわ。まさか、あそこまで何もないとは思ってなかった。微かな音だけって地味よね」


「そうだな。俺も勝手にそんな感じのを想像してたわ。地味なのが悪いとは言わねえけど、ややこしいっつーかわかりにくよなぁ」


 大抵の人は、呪いが解けるところを想像しろと言ったら割と派手な物を想像するだろう。いきなりほとんど何の実感もなく、強いて言うのなら微かな音だけで呪いが解けたことを信じろと言う方が難しい。


 根本的な話として、呪いをかけられていること自体を先に信じられる、ならだが。


「呪いも解けたし求磨も親父も見つかったし、やっと普通の高校生活が送れそうだ。俺、ずっと憧れてたんだよなー、部活動とか委員会とか」


 しみじみ言う叶真のセリフを聞いた求磨も、うんうんと頷きを返す。


「借金の件ももう返す必要なくなったんだから、無理して返そうとは思わないんだろう?」


「それなー。今になって考えてみると、どうしてああも返すことにこだわっていたのか自分でも理解出来ねえんだよな。そりゃあ理由はどうあれ借金作ったの親父だし、借りたものを返すってのは常識だ。けどやーさん相手にそこまでする義理なかったような気もする。

 それに今になってよくよく考えりゃ、親父の借金はギャンブルで作ったとは言えあんなもろ闇金で借りてんだから、普通に吹っ掛けられてるだろうしな。利息とかどうなってたかまでは、詳しく知らねえけど」


 とても今更なことだが、叶真の言う通りだった。


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