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三十七呪 簡単で、難しい

『そしてあの人は、呪いを解こうとしたのだろう。魔法の存在しない場所へと飛ぼうとしたのだ。それに私は巻き込まれ、ここにいる。恐らく、魔法が存在しない場所であれば、自らにかけられた呪いと言う名の魔法も存在不能になると考えたのだろう。まあ、それは失敗に終わったようだが』


 錯乱状態であったからこそ、そんな手段で呪いを解こうとしたのだろう。魔王は自分で魔法を編み出すことが出来るほどに魔法に精通していたのだから、もしかすると元の世界でじっくり時間をかければ呪いは解けていたかもしれない。


『この世界に飛ばされてからも、私の呪いは存在し続けた。術者である私には、それが感知出来た。だがこの世界の魔力は濃度が薄すぎて、ロクに魔法は使えない。魔王を見つける事も元の世界にも戻る事も出来ず、私は途方に暮れた』


「そりゃそうだよな。突然飛ばされたんじゃ」


「そうだね。僕だったら三日ともたずに野垂れ死にそうだよ」


『だがすぐに私はこの世界に根を下ろすことが出来た。たまたま出会った清朝(成長)――私の親友となった尼の名なのだが、その清朝のお蔭で衣住食を手に入れ、仕事をも手に入れる事が出来た。そして、生涯の伴侶となった晴比子(はるひこ)とも出会えた』


「はるひこさん、ってのがレネルアの旦那ってことか」


「そうよ。とても穏やかだけれど、天然で思ったことをすぐに言う人だったそうよ」


「……」


 鈴音の性格は、先祖代々続く遺伝だったらしい。納得である。


『それから七十年の月日が経ち、私はもうそろそろ天から迎えの来る年だ。目は霞むし耳は遠くなったし、身体の節々が痛む。年は取りたくないものだ』


「それで若い頃の姿でこの本残したのかな?」


「そうかもな。まあ、自分がよぼよぼの婆さんになったところを遺したものを、子孫にまで引き継がせたくなかったんじゃね?」


 ありそうな話だ。自由に自分の姿をいじくって遺すことが出来るというのに、わざわざ今の姿で遺す必要はない。


『死が訪れるその前に、私にはやることがある。あの人にかけた呪いを解くことだ』

「「「!!」」」


 求めていたと思われる情報に、三人は目配せをし合うと黙り込んだ。


『あの人にかけた呪いは、もしかすると子孫にまで遺伝してしまったかもしれない。あの人だけならばまだしも、子孫まで呪ってしまうのは流石に忍びない。だから私は呪いを解きたかったのだが……その力だけでなく、時間も私にはすでに残されていない』


 それまでほとんど表情を変えなかった映像のレネルアが、そこで初めて悲痛な表情を浮かべた。そして、とても悲しそうに懇願した。


『この本を開き、私の意志を見た我が子孫よ。お願いだ。私の代わりに、あの人にかけた呪いを解いて欲しい。きっと私が死んでも、術者の権限は子孫へと受け継がれるだろう。

 私の子も孫も、術者の権限を持って生まれてしまったことからしてそれは明白だ。こんなことなら、自らの血を生贄にしての呪術なぞ、使わなければよかった』


 これで、勇者の血そのものが叶真達魔王の子孫を呪い続ける理由がわかった。血を媒介にしてかけたものだからこそ、呪いの存続にも血を必要としたのだ。


『我が子孫よ。頼む。呪いを解いてくれ。あの人にかけた呪いを解くこと自体は簡単であるが、同時にとても難しい。なぜなら、解呪に必要な条件は、『術者が呪った者が改心したと認め、許すこと』だからだ。より正確に言うのであれば、“術者の権限を持つ者が、呪われた者を信頼し全てを預けられると思う事”

 これは、心の問題だ。だから容易いと同時に、とてつもなく難しい。だがもしも、あの人の子孫が本当の意味で信用出来る人間であれば。もしかすると、簡単に解けるかもしれないのだ。

 すまない、我が子孫。居場所も分からぬ者の呪いを解けなどと、無茶を言っているとは思う。だが、私にはもう出来ない。だから、これを見た子孫よ。どうか、私の願いを聞き入れてくれ』


 ぷつり、と。そこで映像は途絶えた。


「……」

「……」

「……」


 三人とも、言葉が出なかった。何をどう言っていいのか、わからないのだ。呪いを解くための方法は、わかった。だがそれは抽象的で、どう解けばいいのかがわからないのだ。


 沈黙を破ったのは、鈴音だった。


「えと、一ついいかしら」


「何か方法が浮かんだのか?」


「いえ、具体的な方法が浮かんだとか、そういうことではないの。ただ、ちょっとここを見て欲しいのよ」


 そう言って鈴音が指さしたのは、先ほどまでレネルアの虚像が映し出されていた場所。


「あれ……?」


 言われて指された部分を見ると、違和感があった。最初に見た時と、何かが違っていたのだ。魔法陣を始めから改め直した叶真と求磨だったが、理解したのは変わる前に見覚えがあった叶真だった。


「……これ、術式が一部変わってる。ただ映像を映すだけから、呪われた対象の呪われ具合もわかるようになってるぞ……」


「え?」


 叶真に言われ異世界語を読める求磨もマジマジ見直し、首を傾げた。


「あ、ダメだ。僕これわかんない。変わる前の状態を見たことあったら、別なんだけど。これって最初の状態わかんないと解けないようになってるみたいだね。キョウ、これの発動条件ってわかる?」


「ちょっと待ってくれ、今解読してみるから! これは多分……呪われた対象が、魔法陣に魔力を込める事……」


 言いながら、叶真は手のひらを本へと翳し術式に魔力を込めた。瞬間、叶真の手の甲にレネルアの遺した本に書かれているのと同じ文字が浮かび上がる。


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