三十六呪 もう一度
鈴音の問いに、求磨はとてもバツの悪そうな顔をした。それは、ついさっき叶真が浮かべた顔にとても良く似ていた。
「えーっと、実を言うと帰る当てはないと言うか、ホームレス的な感じなんだよね……僕の家、って言っていいかわからないけど、住んでるとこはこのステージ裏の窪みだったりしなかったり……」
「は!? こんな近くにいたのかお前!?」
叶真の住む家から、徒歩で行ける距離だ。下手をすればどこかですれ違っていてもおかしくない距離である。
「僕もつい最近まで、キョウが近所にいるだなんて知らなかったよ。でもキョウ最近、この近く通っただろ?」
「この近く……?」
最近の出来事を順に思い出した叶真は、一つ思い当たることがあった。
「もしかして、バイトで橋架け替え工事手伝った時か?」
「あ、そうかも。なんか忙しそうにしてたし。それを見つけてこっそり尾行した結果、蛇喰ちゃんが勇者の子孫で、しかもキョウと一緒にいる事を知ったんだし」
だからこのタイミングで求磨がやって来たのだ。暴走状態の求磨は、呪いを解くと言う目的のために最善と思われる行動を取ったと言うことなのだろう。
「んじゃ、お前行くとこないのか?」
「まあ、実を言うとね……父さんの入院費を稼ぐだけで精一杯で、自分のことまでは手が回らなったんだよ」
「なら、うち来い」
「へ?」
キョトンとする求磨に、叶真は呆れ返った視線を向けた。
「俺達兄弟なんだから、一緒に住むのは当たり前じゃねえか。何そんな不思議そうな顔してんだよ」
「けどキョウ、借金塗れでヤバいだろう?」
「うぐっ……」
「それに、今の家一人暮らしの契約でどうにか住んでるんじゃないの? 僕が行ったらまずいんじゃないかい?」
「うぐぐっ……」
ただでさえお金がなく、呪いも解けていない状態なのだ。しかも求磨も呪われている。ならば二人になったところで稼ぎがまともに増えるとは思えないし、むしろ状況は悪化するかもしれない。
どうしようと悩む二人に、突然鈴音がちょこんと右手を挙げた。
「あの、一ついいかしら」
「何か案があるのか?」
「案と言うか、一つの可能性なのだけれど……」
言って、挙げていた右手でぴょこんと叶真の背中にある自分のミニポーチを指さした。
「もしかしたら、レネルアさんの日記に、呪い解く方法があるんじゃないかって思ったのだけど……」
言われてみれば、日記の途中で鈴音が飛び出して来てしまったため、最後まではその内容を知らない。まだ知らない部分に、勇者の血を根絶やしにする以外に呪いを解く方法がある可能性は少なくなかった。
と言うわけで、三人は濡れていない場所を選んでレネルアの日記を広げ、再び鈴音が魔力を注入した。
すぐに叶真の家で起こったのと同じ現象が起こり、本の上にレネルアの姿が映し出された。
『この本を読むことが出来、この姿を見ることが叶っていると言う事は、その者は私の子孫に違いないだろう』
「蛇喰。これって早送りの機能とかついてたりしないか?」
「ついてないと思うわ……と言うか、あなたじゃないとこの魔法陣は解析不能なのだけれど。私、異世界言語なんて読めないわよ?」
と言う事で、最初から話を聞きなおすことになった。叶真と鈴音の二人はすでに内容をある程度までは知っているが、求磨は話を一切知らなかったため、それはそれで良かったようだが。
しばらくの間一度聞いた話をもう一度聞いていると、やっと一度聞いた部分まで話が進んだ。
『――かけたのは、金に振りまわされる呪いだ。三つの呪いを、私が束ねてあの浮気男にかけた』
「ここからだな」
「ええ」
「色々やらかした僕が言うのもなんだけど、僕達の先祖ってロクでもないね」
聞いていないところに期待する叶真と鈴音とは違い、初めて聞く内容だらけの求磨は呆れ返るばかりだ。そのうえ叶真と鈴音の間でも温度差があるため、反応は三者三様。温度差と言ってもより真剣なのは鈴音の方なのだが。
『かけた呪いが成就したかどうかを確かめるために、私は一人魔王城へと足を運んだ。他の娘二人は魔法を使う素養がなかったため、魔王が本気で怒っていた場合とてもじゃないが生きていられないと判断したためだ』
「そこまで魔王って怒ると怖い短気な人だったのかしら。いえ、そりゃあ呪いなんてかけられたらみんなキレるとは思うけれど」
「んー、日記を読む限りは妙なところで鷹揚だったかな。つっても呪われたことなんてこれまでなかっただろうから、反応なんてわかんねーけど」
「と言うか、自分が世界一と思っているような人間だったように思えるよ。だから、何が起こったとしてもそれほど怒るように思えなかったかな」
と言う事は、レネルアの勝手な思い込みだったのかもしれない。まあ、この場にいる誰も本当に魔王に会ったことがあるわけではないので、本当は短気だったこともあり得るのだが。それに短気でなかったとしても、鈴音の言う通り呪いがかけられたなんて知れば普通の人はキレて何をするかわからないだろう。
『だが私が魔王城に着くと、そこでは予想外の光景が広がっていた。怒って私のことを待ち構えてるかと思いきや、私室で一人パニックに陥っていたのだ。私が入って来たことにも、全く気付かぬほどに』
「まー、そりゃ錯乱するよな」
「魔王でも解けない呪いだったみたいだし、仕方がないないんじゃないかしら」
「内容がすごいえげつないしねえ」
叶真、鈴音、求磨がそれぞれの感想を言い合う中でも、レネルアの話は着々と終わりへ向かって行った。




