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三十五呪 友達

「本当に、ごめん。僕の事情に巻き込んで。君が直接悪いわけじゃないことはわかっていたんだけど、自分を止めることが出来なかった。言い訳でしかないし、君のことを道具のように扱ったうえ殺そうとした男のことなんて、許す必要はないけど。それでもせめて、謝らせて欲しい。ごめん」


 頭を下げる求磨を見つめていた鈴音は、とても困った顔になった。


「えと、私としてはどうすればいいかとても困るのだけれど……怒る怒らないで言うのであれば、さっきも言った通り悪いのはレネルアさんなわけだし。それに百鬼くん――ああ、どちらも百鬼くんだったわね。叶真くんが言っていたことも、全部事実でしょう? 呪いがかけられていることに関しては、私も悪いのだから」


「あ、いや俺が言った『お前ら』ってのは蛇喰のことを含めてじゃなくて、レネルアとその他二人のつもりだったんだ。言い方が悪くて誤解させたみたいで、ホントごめん」


 元はと言えば、その誤解を解くために鈴音をここまで追いかけて来ていたのだ。それよりも一年ぶりに兄の求磨と遭遇したり、しかも鈴音が操られていたりで誤解を解く暇がなかっただけで、当初の目的は今ようやく果たされたことになる。


「だとすると、やっぱり悪いのはうちの先祖なのよ。やり過ぎなのは間違いなかったのだもの。だから許す許さないも何も、私はそれほど気にしていないわ。強いて言うのであれば、雨に当たって冷たかったのだけれど、風邪を引いたらどうしてくれるのかしらと文句を言いたいくらい」


「今この状況でそこについて文句を言えるお前はやっぱすげーわ……」


「?」


 叶真が何に関心しているのかわからず首を傾げる様を見ていた求磨は、二人の顔を見合わせて面白がるような顔なった。


「君達、仲いいね。羨ましいくらいだよ。良かったね叶真。いい彼女がいて」

「ふわっ!?」

「いえ違うわ。友達よ」


 奇声を上げて飛び退く叶真とは対照的に、鈴音はものすごく冷静だった。ただし、口調は冷静そのものの鈴音の顔が赤くなっていたのは、二人とも気付けなかったのだけど。


「え? そうなの?」


 求磨の様子からしても素で言っているのは確実で、叶真は過剰に反応してしまった照れ隠しなのかぶっきらぼうな口調で言った。


「ああそうだよ友達だよ。人生初の友達だ悪いか」


「いや別に悪いと言ったつもりはないんだけど……まあでも、仲が良さそうでほんと何よりだよ。僕は嬉しい」


「なんだったら、求磨くんも友達になる?」


「は!? いいのか!?」


 突然の爆弾発言に言われた方の求磨ではなく、なぜか叶真の方が目を白黒させるなか、平然と鈴音は頷いた。


「ええ。言ったでしょう。今日の事は不幸な偶然が重なった事故だもの。気にしていないわ。それに、友達は多い方がいいと言うし」


「お前、ほんとすげーわ」


「多分褒められてる……のよね、私。なのになぜ叶真くんは不満そうな顔をしているのかしら?」


「不満じゃねーよ驚いただけだ」


 その口調自体が不満げなのだが、叶真は気づいていない。


 二人が会話をする様子を見ていた求磨は気付き、肩を竦めていた。


「キョウは素直じゃないね」


「いやお前に言われたくねーぞキュウ。お前だって素直じゃないって点では同じだろ。もっと俺に言ってくれればよかったんだよ。何があったか、何をされたか。お前のが確かにほんのちょこっと先に生まれたさ。けど、俺達は対等だって昔決めたろ。そのために、俺はキュウのことを兄とは呼ばないって決めたんだから」


 それは昔、まだ二人が小さかった頃の話。小さかった二人はいつも一緒にいたお互いのことを、友達みたいに思っていた。なんでもかんでも二人で半分こして、笑い合って。喧嘩もしたが、必ず仲直りした。

 全部二人で分け合おうと決めた。対等でなければ、笑い合うことも喧嘩をすることも出来ないから。これからずっと、二人は対等でいようと。


 なのに成長するにつれ、求磨は叶真と対等ではなくなった。守るべき対象として見るようになった。それはあの母親のせいなのだが、それでも叶真は求磨とだけは対等でいたかったのだ。


 どこへ行っても貧乏や髪の色、母親のことで差別され迫害され続けた叶真としては。


「約束、忘れたのかよ。ずるいぞお前。変な時ばっか兄貴ぶって……」


「……ごめん、キョウ。そうだね、そうだった。そっか、ちゃんと相談すればよかったんだね……」


 そう言って微かに笑う求磨の顔は、とても穏やかなものだった。


 微笑んだままの求磨は一つ伸びをすると、フラフラと覚束ないながらもしっかりと自らの足で立ち上がった。


「攻撃した俺が言うのもなんなんだけどよ、もう立ち上がって大丈夫か?」


 心配そうに尋ねる叶真に、求磨はひらひらと手を振って見せた。


「あはは。大丈夫。自分にかけた強化の魔法はもう解けてるけど、それでも攻撃を食らった時に――と言うか凍ってしばらくは魔法が効いていた状態だからね。ダメージがそれほどあったわけじゃないんだ」


「ならいいんだけど……蛇喰の方は? さっきの頭痛は収まったか?」


「ええ。心配しなくても大丈夫よ。それよりも、一つ訊きたいのだけれど」


「なんだ?」


「立ち上がったのはいいのだけれど、あなた達――と言うより、求磨くんはどこへ行くの? どこに帰るのか、少し気になったのだけど」


「あ」


 そう言えば、求磨が今どこに住んでいるかなどの話は出来ていない。そりゃそうだ。今の今まで殺し合いに近い戦いをしていたのだから。魔法の暴走していた求磨はともかく、叶真の方は求磨のことを殺すつもりなどこれっぽっちもなかっただろうが。


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