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十三呪 友達

「それじゃ俺、もう帰るわ。昼飯ありがとう。誰かと飯食ったの、久々だ」


「あ、待って!」


 立ち去ろうとする叶真を引き留めた鈴音は、顔を真っ赤にして目を泳がせていた。わたわたと辺りを見回したかと思うと、急に深呼吸をし出す。それが終わってからようやく、鈴音は叶真を真っ直ぐに見詰めた。


「あの、その……よかったらなのだけれど、明日からは一緒に学校に行かないかしら」


「へ? いやでも、俺家すげー遠いし……」


「だ、だからこそよ。私が魔法であなたの家に迎えに行くから、それから学校に行けばいいわ。一緒だとテレポート先が難しいから、私の家を経由して徒歩で行くことになるけれど……」


 鈴音の出した提案は、叶真にとってとても魅力的だ。だからこそ、なぜ鈴音がそんなことを言い出したのかがわからなかった。なぜなら、鈴音がそんなことを言い出すメリットが一切ないからだ。


 鈴音はこれまで家から学校まで、テレポートで通学していたはずだ。つまり通学時間はゼロに等しい。


 だが叶真と一緒に行くとなれば、それは出来ない。鈴音は人目に付かない場所にしか、テレポートしないからだ。


 鈴音一人ならば女子トイレの個室にテレポートするなりいくらでも方法があるだろうが、男子である叶真が一緒ではそれが出来ない。帰り道であれほど歩くのが面倒そうだった鈴音がこんな提案をしてくれるとは、全く思ってもみなかったのだ。


「俺としてはすげーありがたいんだけど、お前はそれでいいのか? お前通学時間は長くなるし、メリットがないと思うんだけど」


「それは、その……」


 動揺する鈴音が何を考えているのか、叶真にはわからない。ただこんなにも表情をコロコロ変える鈴音が初めてで、何となく新鮮だとは思った。ただ問題なのは、表情が変わってもその心のうちが全く読めないことだ。


 思いつき、ってことはありえるだろうが、鈴音が意味のない冗談や嘘を吐くとは考えられないというのが一番大きい。なぜ突然一緒に登校しようと言い出したのか、明確な理由があるはず。だとは、思うのだが。具体的な理由が、一切思いつかない。


 叶真がそんなことを考えている間に、鈴音の方は何かしらの結論に至ったようだ。これまでは熟れた桃のようだった顔色を夕陽のような色まで真っ赤にさせながら、鈴音は叶真に言った。


「わ、私と友達になってほしいからよ」


「…………………………え? なんで?」


 想定の埒外過ぎた鈴音の願いに、つい素でそう訊き返してしまった。この言い方では、まるで鈴音と友達になりたくないみたいに聞こえてしまっただろう。


 それに気づいて何か言う前に、ダメージを受けた顔で鈴音が呟いた。


「わ、悪気があろうがなかろうが、そういう言い方されると傷つくのね……悪気がなければ、スルー出来ると思っていたのだけど。今後、もう少し、いえ盛大に言動には気を配るわ。私に友達が出来なかったのも、これは必然だったと言うべきね」


「あ、いやぁ……」


 フォローしようとはしたが、その通り過ぎてフォローの言葉が浮かばなかった。強いて言うなら必然は言い過ぎだと思わなくはないが、これまで鈴音が言って来た数々の無意識な毒舌は、必然とまで言っても納得出来るものだ。これほど黙っていれば、と言う枕詞が似合う人物を、叶真は他に知らない。


 ほんの少し赤みが引いた鈴音は、さっきまでよりもしっかりした口調で言い切った。


「私、百鬼くんとなら、友達になれると思うのよ」


「……って、いきなり言われてもな……ってか、なんで俺なわけ? 俺なら何言ってもいいから?」


「方向性は違うけれど、間違ってはいないわ。百鬼くん、優しいもの。私みたいな言動に配慮が足りない人間とでも、こうしてちゃんと会話をしてくれるし」


「それは呪いを解いてもらうっつー目的があるからで……」


「そうだとしても、私とちゃんと会話をしてくれた年が近い人はあなただけなの。大抵の人は、気付くと私のことを無視するようになる。用事があったら、目の前にいても手紙が回って来るくらいに、私との会話を避けるのよ。それもこれも、私が悪いのはわかっているのだけれど」


 会話そのものを拒絶されるというのは、相当だ。確かに手紙で言いたいことだけ書いて渡せば、鈴音も余計な事は言わずに同じく手紙で返すだろう。手紙なら考えてから書くから、毒舌も鳴りを潜めるというわけだ。


 案外、鈴音とコミュニケーションを取る手段としては正しいのかもしれない。だからと言って叶真もそれを見習って手紙で会話するかと問われれば、否と答えるであろう。それはなぜか。


 もしかすると、悪気のない毒舌程度、些事でしかないからかもしれなかった。イージーモードとは言い難かった叶真の人生において、毒舌も暴言も、雨が降るくらいよく浴びせられるものだったから。これまでのほほんと生きて来た人よりは、耐性があってもおかしくなかった。


 けど、それと鈴音と友達になるということは全然別だ。多少の毒舌くらいなら受け流せることと、鈴音と友達としてやっていけるかどうかは関係ない。相性とか、そう言う感じの問題だろう。


 だから、鈴音に一つだけどうしても確かめておかなくてはならないことがあった。


「俺なんかと友達になったとしても、鈴音にいいことなんてひとっつもないぞ。それどころか、下手すりゃ借金取りのこわーいおっさんと遭遇することだってあり得る。そんなやつと友達になろうっつーのか?」


「ええ」


 即答だった。一切の思考を挟まない、まるでその質問がされることを、予めわかっていたかのような。


「適当に言ってるなら――」

「私が適当なことを言うとでも?」


 説得力に満ちた、重い言葉だった。真剣過ぎるその顔のどこにも、適当で言っている様子はない。ただただ、発言全てが本気だと告げているだけだ。


「私はただ、あなたと友達になりたいの。友達がいない寂しい奴が、誰でもいいから優しそうな奴を友達にしようとしてるんじゃないかとか訊かれたら、そんなことは全くないとは言えないかもしれない。心のどこかで、絶対にそう思っていないとは言えないわ。

 だからあなたが、そんな打算的な人間と友達になんかなりたくないと言うのであれば、私にそれを責める資格はない」


 早口でまくしたてるように言った鈴音は、必死に表情を変えまいとしているのか唇を噛み締め俯いてしまった。きっと、叶真が友達になるのを断ると思っているのだろう。叶真が鈴音の申し出を断る理由なら、いくつもあった。まだ知り合って二日目だとか、鈴音の無自覚の毒舌とか。


 友達にならない理由と、友達になる理由をどっちも考えて。


叶真が出した結論は、とても自然なものだった。


「えと、その……こちらこそ、よろしく」


 友達になるのに、理由なんて必要ない。


 叶真の慣れない返事を聞いた鈴音の顔を、叶真はきっと一生忘れないだろう。ぱあっと音がしそうなくらい、眩しく輝くその笑顔を。


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