第五十八話 音沙汰
凱旋興行から、一年ほどが経った。
あれだけ頻繁に届いていたボドからの連絡は、この一年で、目に見えて減っていった。
「最近、連絡来るか?」
レオンがそう聞くと、カインは首を横に振った。
「たまに来るけど、前ほどじゃないですね。二、三ヶ月に一回くらい」
「何て言ってきてるんだよ、最近は」
「相変わらず、仕事の話がほとんどっス。楽団の話は、もうほとんど出てこないですね」
レオンは、少し考えるような顔をした。
「今度、また何かの興行に誘おうかと思ってたんだけど」
「呼ばないんですか」
「うーん、正直、あの腕だと、ちょっとな……」
レオンは、言葉を濁した。以前のような、多少の期待を込めた誘いは、もうそこにはなかった。
「まあ、無理に呼ぶことも、ないかもな」
「そうっスね」
その会話を最後に、レオンがボドを興行に誘うことは、なくなっていった。
リゼットも、この頃には、めっきり店に顔を出さなくなっていた。
「最近、リゼットちゃん来ないな」
トビアスがそう漏らした。
「連絡、あんまり来てないんじゃないですかね、あの人にも」
「まあ、来てたら、もっと嬉しそうにしてるだろうしな」
誰もそれ以上、深く言及しなかった。ただ、リゼットの足が遠のいていく様子そのものが、ボドとの関係性を、何よりも雄弁に物語っていた。
「結局、あいつ、楽団ちゃんと続けてるのか、続けてないのか、誰にも分からないんだよな」
カインが、ぽつりとそう言った。
「フェリシオンに帰ってくる気配も、あんまりないよな」
「ないっスね。連絡来ても、こっち帰るとか、そういう話は一切出てこない」
店内に、しばらく沈黙が流れた。
「まあ、向こうで、それなりにやってるんだろ、たぶん」
レオンがそう締めくくったが、その声には、確信も、期待も、あまり込もっていなかった。
ボドの近況は、この一年で、噂話にすらならないほど、静かに、フェリシオンの日常から遠のいていった。




