第五十九話 灰になった男
ある夜、レオンの店に、いつもの面子が、特に約束したわけでもなく、なんとなく集まっていた。
カイン、フィオナ、トビアス。ボドがフェリシオンにいた頃、当たり前のように顔を揃えていたメンバーが、ボドがいないまま、いつも通りの席に着いていた。
「そういえば、最近、ボドの話、誰もしなくなったな」
カインが、ふとそう漏らした。
「言われてみれば」
フィオナが、少し驚いたような顔をした。
「前は、来るたびに誰かしら、あいつの話してたのにな」
「まあ、話す近況自体が、もうないですからね」
トビアスが、苦笑しながらそう言った。
「あいつ、結局、何になりたかったんだろうな」
カインが、誰にともなく、そう呟いた。
その問いに、すぐに答える者は、誰もいなかった。
「有名になりたい、とは、よく言ってたよな」
レオンが、カウンターの奥から、静かに言葉を継いだ。
「楽団やって、いつか大きい舞台に立って。そういう話、何度も聞かされた」
「今、それができてるかっていうと」
「できてないだろうな、たぶん」
トビアスが、そう相槌を打った。
「でも」
フィオナが、少し考えるように言った。
「本人の中では、まだ道の途中、ってことになってるんじゃないかな。あの人、いつもそうだったし」
「かもな」
カインが、グラスを傾けながら、小さく笑った。
「あいつの名前、アッシュって、ガルシオンの曲から取ったんだよな。灰になった男が、それでもまだ何か探して歩き続ける、みたいな歌」
「そうだったな」
「なんか、今のあいつ、まさにそれっぽいよな」
その一言に、店内に、笑いとも、感慨ともつかない、微妙な空気が流れた。
「灰になったのかね、あいつも」
誰かが、そう呟いた。
それが誰の声だったのか、この場にいた誰もが、はっきりとは覚えていなかった。ただ、その一言だけが、しばらくの間、静かに店の中に漂っていた。
フェリシオンの夜は、いつも通り更けていく。ボドがいた頃と、何も変わらない喧騒の中で、しかし確かに一つ、彼の存在だけが、静かに、遠いものになっていた。
彼が本当に灰になったのか、それとも、まだどこかで、何かを探して歩き続けているのか。その答えを知る者は、この店には、もう誰もいなかった。
〈了〉
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「こんなナルシストなやついるよね」というものを目指して書いてみましたが、なかなか上手くまとまらずでした。難しい・・・。少しでも楽しんで頂けていましたら嬉しいです。
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