第五十六話 ハゲシオン計画
「久しぶり」
凱旋興行の合間、ボドは何となく懐かしくなって、ダリオの店に顔を出した。
「お、生きてたか」
ダリオは、相変わらずの淡々とした調子でそう言うと、鏡の前の椅子にボドを座らせた。
「首都、どうよ」
「まあ、ぼちぼち」
「生活、相変わらず不規則そうだな」
ダリオは、髪をかき分けながら、少し眉を寄せた。
「うわ、進んでるな、これ」
「進んでるって、また、その話か」
「その話も何も、現在進行形だからな、お前の場合」
ダリオは、鏡越しにボドの頭頂部を見つめながら、淡々と続けた。
「この調子だと、四十路まで持たないと思うぞ、正直」
「大袈裟だろ」
「大袈裟じゃない。てか、ガルシオンって、今何歳だっけ」
「四十くらいのはずだけど」
「そのガルシオン、まだフサフサなんだろ?」
「……たぶん」
「お前がこのままいくと、追い抜くぞ、変な意味で」
「変な意味で追い抜くって何だよ」
「ハゲでな。もうすぐ、ガルシオンって呼ばれるより先に、ハゲシオンって呼ばれるようになるかもしれないぞ」
「やめろ、その呼び方」
「あと、いよいよ本格的にヤバくなったら、常に帽子被ることになるだろうから、ボウシオンでもいいけど」
「もっとやめろ」
ボドが本気で嫌そうな顔をしたが、ダリオは特に気にする様子もなく、鋏を動かし続けた。
「ハゲシオンか、ボウシオンか。まあ、どっちの未来もそう遠くないと思うけどな」
「縁起でもないこと言うなよ」
「事実を言ってるだけだけど」
その日、施術を終えて鏡を見たボドは、いつもより少しだけ長く、自分の生え際を確認していた。
「……マジで、直した方がいいのか、生活」
「今更感はあるけど、まあ、直すに越したことはないな」
「善処する」
「前もその台詞、聞いた気がするけど」
ダリオがそう言うと、ボドは何も言い返せず、逃げるように店を後にした。
その背中を見送りながら、ダリオは小さく呟いた。
「ハゲシオンか、ボウシオンか、どっちが先か、見物だな」
その独り言を、誰かが聞いていたかどうかは、定かではなかった。




