第五十四話 やっぱりな
打ち上げの席で、レオンはヴィクトルを捕まえて、ボドの首都での様子を尋ねていた。
「向こうで、ちょくちょく興行に顔出してるんだろ、ボドくん」
「うん、何回か出てもらったよ」
「どうだった、実際」
ヴィクトルは、少し考えるような間を置いてから答えた。
「ちょっとは、良くなってきてたんだけどね……もうちょっと、って感じかな」
その言い方には、以前フェリシオンで前座を務めた時と、ほとんど変わらない評価が滲んでいた。
「あー」
レオンは、小さく相槌を打った。
「まあ、本人は頑張ってるとは思うんだけどさ」
「頑張ってるのは分かるよ。ただ、なんていうか」
「なんていうか?」
「歌が入ると、途端に、こう、我が出すぎるっていうか。目立ちたい気持ちが先に出て、周りと合わせるのが二の次になる」
その分析は、これまで誰も口にしなかった形で、驚くほど的確だった。
少し離れた場所で、たまたまその会話を耳にしていたカインとフィオナが、顔を見合わせた。
「やっぱりな」
カインが、小さくそう呟いた。
「やっぱりって、何が」
「いや、地元にいた頃から、ずっとそうだったから、あいつ」
フィオナも、苦笑しながら頷いた。
「今日の演奏聞いてても、なんとなく分かったもんね、それ」
「セシリアさんは、普通に上手かったのにな」
「あの人が上手いだけに、余計、噛み合わなさが目立ってた気がする」
二人がそんな話をしている間にも、レオンとヴィクトルの会話は続いていた。
「今度また誘う予定は」
「うーん、どうだろうね。まあ、機会があれば」
その返事は、以前ほどの積極性を、明らかに欠いていた。
「そういえば」
レオンが、ふと思い出したように尋ねた。
「ボドくんの相方、フェリクスって奴、会ったことある?」
「ああ、その名前は本人からよく聞くけど……いや、会ったことないな、そういえば」
「一度も?」
「一度も。いつも『今度紹介する』とは言われるんだけどね」
ヴィクトルは、特に深く気にした様子もなく、そう答えた。だが、その一言に、レオンの中で何かが小さく引っかかった。
かつて「また誘っていい?」と本人が自ら言い、快諾された頃の勢いは、今のヴィクトルの反応には、もうそこになかった。
レオンは、その温度の変化を敏感に感じ取っていたが、それをボド本人に伝えるかどうかは、また別の話だった。
「まあ、今日はとりあえず、お疲れさん」
レオンは、そう言ってヴィクトルのグラスに酒を注ぎ足した。
少し離れた場所で、当のボドは、セシリアや周りの客と、上機嫌に談笑していた。今日の演奏の出来について、彼自身がどう受け止めているのか、その表情からは、はっきりとは読み取れなかった。




