第五十二話 既読はつくけど
「最近、返信来るの遅くない?」
レオンの店に顔を出したリゼットが、誰にともなく、そう漏らした。
「アッシュから?」
「うん。前は、その日のうちに返してくれてたのに、最近は、二日とか三日とか、平気で空くようになって」
その声には、いつもの詰問めいた鋭さよりも、むしろ戸惑いに近い響きがあった。
「まあ、向こうも忙しいんじゃないか。仕事もあるし、色々」
レオンがそう言うと、リゼットは小さく頷いたが、あまり納得しきれていない様子だった。
「既読はつくんだよね、ちゃんと。でも、返事だけが遅い」
「それは、まあ……」
レオンは、うまい言葉が見つからず、言葉を濁した。
その日、たまたま居合わせたトビアスも、気まずそうな顔をしていた。実のところ、トビアスはカイン経由で、ボドが最近、ヴィクトルの興行の準備やら何やらで、それなりに忙しくしているらしいという話を、聞き知っていた。だが、その事情を、目の前のリゼットに説明していいものかどうか、判断がつかなかった。
「私が、うるさすぎるのかな」
リゼットが、ぽつりとそう呟いた。
「そんなことは」
「前は、毎日連絡取ってたのに。今は、私から送っても、簡単な返事しか来ないし」
誰も、その言葉に、うまく答えることができなかった。
実際のところ、ボドの中で、リゼットへの連絡の優先順位が、目に見えて下がり始めていることは、この場にいる誰の目にも、ある程度明らかだった。ただ、それを本人に告げることが、果たして親切なのかどうか、この場の誰にも判断がつかなかった。
「まあ、そのうち、また前みたいに戻るんじゃないか」
レオンが、当たり障りのない言葉で、その場を締めくくろうとしたところで、ふと思い出したように付け加えた。
「あ、そういえば」
「何?」
「今度、ヴィクトルさんの興行に、ボドくんも出るらしくてさ。それで、フェリシオンにも一回帰ってくるって話、聞いてる?」
その一言で、リゼットの表情が、一瞬にして切り替わった。
「え、帰ってくるの? いつ?」
「来月とか、そのくらいって聞いたけど」
「早く言ってよ、それ!」
さっきまでの、しょんぼりとした空気はどこへやら、リゼットは目を輝かせながら、通信端末を取り出し、猛烈な勢いで何かを打ち始めた。
「何、着ていこうかな。あ、髪も切り直さなきゃ」
あまりの切り替えの早さに、トビアスが、思わず苦笑した。
「……さっきまでの落ち込みよう、何だったんですかね」
「さあ」
「まあ、元気になったなら、それはそれでいいけど」
レオンが苦笑しながらそう言うと、リゼットは、もうこちらの話など聞いていない様子で、上機嫌に店を後にしていった。
この日を境に、リゼットが店に顔を出す頻度は、以前にも増して増えることになった。フェリシオンに残された関係性の一つは、薄くなるどころか、むしろ、来るべき「再会」に向けて、勢いを盛り返しつつあった。




