第五十一話 盛られた近況
「今度さ、けっこう大きめの興行の企画任されそうなんだよね」
通信端末越しに届いたその一文を、カインは、正直なところ、半分も信じていなかった。
「企画って、何をやるんだよ」
「まだ詳細は言えないんだけど、まあ、それなりの規模になると思う」
「それなりって、どれくらいだよ」
「まあ、楽しみにしといて」
具体的な話は、いつも、その一歩手前で霧に包まれるように曖昧になった。
この手の報告は、この時期、フェリシオンの面々の間で、ちょっとした話題になっていた。
「また来たよ、盛った近況」
レオンの店で、カインがそう切り出すと、トビアスが身を乗り出した。
「今度は何ですか」
「興行の企画任されそう、だってさ」
「うわ、また随分と話デカくなりましたね」
「先月は、確か『首都の楽団関係者から一目置かれてる』みたいなこと言ってなかったっけ」
フィオナが苦笑しながら頷いた。
「その前は、『地方回ってる』も言ってたし」
「一体、どこまで話が育つんだろうね」
誰かがそう言うたびに、店内には、呆れと面白がる気持ちの入り混じった、独特の笑いが起きた。
「でもさ」
トビアスが、ふと真顔になって言った。
「本人的には、嘘ついてるつもりないと思うんですよね、これ」
「どういうことだよ」
「なんか、希望的観測を、そのまま報告してる感じがするというか。『任されそう』とか『一目置かれてる』とか、全部、まだ確定してない話を、もう起きたことみたいに話してる気がして」
その分析に、レオンは少し感心したような顔をした。
「お前、たまに鋭いこと言うよな」
「まあ、長い付き合いなんで、一応」
カインも、頷きながら言った。
「地元じゃ、昔からそういうとこあったんですよ、あいつ。冒険者になった時も、まだ何も実績ないうちから、もう有名になった気でいたし」
「今も変わらないんだな、それ」
「変わらないっスね、たぶん一生」
その日の会話は、結局、いつものように「まあ、そのうち本当のことが分かるだろ」という、ゆるい結論に落ち着いた。
ただ、この時期の報告の中に、一つだけ、他とは違う響きを持つ一文が混じっていたことに、誰も、まだ気づいていなかった。
「今度、レオンさんが呼んでたヴィクトルさんの興行、俺も出る流れになりそうなんだよね」
それは、これまでの「盛った近況」とは違い、実際にこの後、現実になる話だった。




