第四十九話 結局何しに行ったんだよ
「そういえば、お前らのとこにも、ボドから連絡来てる?」
久しぶりに地元メルダへ帰ったカインは、ハンスの家に集まった面々に、そう切り出した。
「来てるよ」
ハンスがそう答えた。
「仕事の話ばっかりだけどな」
「お前んとこもか」
「向こうの馬車工房、道具のこだわりがすごいとか、そんな話ばっかりしてくる。俺、興味ないんだけどな、正直」
「俺んとこも同じだよ、それ」
カインが苦笑しながら言うと、ジークが口を挟んだ。
「俺には、なんか女の話ばっかりしてきたぞ」
「女の話?」
「都会の女は違う、とかなんとか。地元の女とはレベルが違うとか、なんとか」
「お前に言われても、比較しようがないだろ、それ」
ハンスがそう突っ込むと、部屋の中に小さな笑いが起きた。
「まあ、自慢したいだけなんだろうな、それ」
「俺には」
ゴランツが、少し不満げに続けた。
「都会のワルはレベルが違う、みたいな話、延々されたぞ」
「お前にそれ言ってくるのかよ」
「なんか、俺に張り合いたいのか知らないけど、やたら張り合ってくる」
「お前のハッタリと張り合ってどうすんだよ、あいつも」
カインがそう言うと、ゴランツは軽く顔をしかめた。
「うるせえ」
ひとしきり笑いが収まったところで、ハンスがふと、真顔になって言った。
「にしても、なんかさ」
「何だよ」
「あいつ、結局、首都に何しに行ったんだっけ」
その一言に、部屋の空気が一瞬、静かになった。
「楽団やるって言ってたよな、たしか」
「言ってたけど」
「俺に来る連絡、工房の話と女の話しかないんだけど」
「俺のとこも」
「俺もだよ」
ジークとゴランツが、それぞれ頷いた。
「楽団の話、誰か聞いた奴いるか?」
カインがそう聞くと、誰も手を挙げなかった。
「……ないな」
「ないっすね」
「俺も聞いてない」
部屋の中に、微妙な沈黙が流れた。
「まあ、そのうち話すこともあるだろ」
ハンスが、その場を取りなすようにそう言ったが、その声には、あまり確信が込もっていなかった。
結局その日、誰の口からも、ボドの「本来の目的」に関する明るい話題は出てこなかった。彼が首都に何をしに行ったのか、少なくともこの部屋にいる誰にとっても、次第に曖昧になりつつあった。




