第四十八話 仕事の話ばかり
ボドが首都グランディアへ発ってから、しばらく経った頃。
この時期、フェリシオンでは、カイン、レオン、フィオナの三人が顔を合わせる機会が、自然と増えていた。共通の話題といえば、決まって一つだった。
「ボドから連絡来た?」
レオンがそう聞くと、カインは頷いた。
「来ましたよ、この前。向こうでも、馬車の装飾の仕事に就いたらしいです」
「またかよ」
「本人、意外と満足してる感じでしたよ。首都の職人は拘りが違う、とか言って」
「拘りって、具体的に何なんだよ」
「知らないっス。なんか、木材の選び方がどうとか、塗料の乾かし方がどうとか、そんな話ばっかりで」
フィオナが、思わず苦笑した。
「それ、完全に職人としての報告じゃない。楽団の話は?」
「それが、ほとんど出てこないんですよね」
カインがそう言うと、レオンが少し考えるような顔をした。
「フェニックスだっけ、一緒に楽団やる奴」
「フェリクスっスよ、フェニックスじゃなくて」
「あ、そうだ、フェリクスか」
「まあ、死ななさそうな名前ではありますけどね、フェニックスも」
カインがそう言うと、レオンが噴き出した。
「うまいこと言うじゃん」
「でも、実在してないんだったら、そもそも死ぬこともないと思うんスけど」
「それは言えてる」
フィオナも、堪えきれずに笑い出した。
「にしても、あの人、結局楽団どうする気なんだろうね」
「本人に聞いても、たぶんはぐらかされると思いますよ」
「まあ、今は仕事の話ばっかりだもんな」
レオンが、少し呆れたように肩をすくめた。
「首都行ってまで、馬車の装飾の話で盛り上がってるって、なんか本末転倒じゃないか、それ」
「言えてます」
三人は、顔を見合わせて、また小さく笑った。
ボド本人がどんな顔でその話をしているのか、この場にいる誰にも分からなかった。ただ、少なくとも伝わってくる近況だけを見る限り、彼が思い描いていたであろう「首都でのスターへの道」は、今のところ、木材と塗料の話に埋もれてしまっているようだった。




