第四十六話 暇な二人
「俺も、来月で今のとこ辞めるわ」
ある日、カインがそう言い出した。
「え、辞めてどうすんの」
「独立する。個人で冒険者やる」
偶然にも、ボドが首都行きを決めた時期と、カインが今の所属先を離れる時期が、ちょうど重なっていた。おかげで、二人とも数週間ほど、互いに中途半端な暇を持て余すことになった。
「じゃあ、しばらく暇なんだな、俺ら」
「暇っちゃ暇」
その一言で、行き先は自然と決まった。
「賭博場、行くか」
「行くか」
結果は、いつも通りだった。
「なんで俺ら、こういう時だけ息合うんだろうな」
回胴機の前で、二人揃って項垂れながら、カインがそう呟いた。
「負ける時だけ、なんか妙にシンクロするよな」
「お前が変な運持ってきてんじゃねえの」
「うるせえ。お前こそ、賭け事に運全部使い切って、他の方で運ないんじゃねえの」
「他の方って何だよ」
「リゼットとのそれとか」
「そっちは別に運とか関係ねえよ。技術だ」
「自分で言うか、それ」
財布の中身を、また一段軽くしたところで、二人は近くの酒場に流れ込んだ。
「にしても、お前」
酒が進んだ頃、カインがふと、思い出したように切り出した。
「フェリクスって奴、結局どういう奴なんだよ」
「言っただろ、ギターも歌もうまい奴だって」
「どこで知り合ったんだよ」
「向こうの、知り合いの紹介で」
「知り合いって誰だよ」
「まあ、色々」
「色々って便利な言葉だよな、お前の中で」
カインの追及は、笑いながらも、どこか本気の色を帯びていた。
「なあ、そいつ、本当にいるんだよな?」
「いるに決まってるだろ」
「なあ、フェレクスだっけ?」
「フェリクスな。名前くらい覚えろよ」
「いや、顔も知らねえ奴の名前なんて、覚えられねえよ、普通」
カインは、悪びれる様子もなくそう言うと、酒を一口あおった。
「じゃあ、写真の一枚くらい見せろよ」
「持ってない」
「連絡先は」
「まだ交換してない」
「交換してないのに、一緒に楽団やる約束はしてんの?」
「そうだよ、悪いか」
カインは、しばらく黙って酒を口に運んでいたが、やがて小さく笑った。
「お前、そういう詰めの甘さ、昔から変わらないよな」
「うるさいな」
それ以上、フェリクスの話が深掘りされることはなかった。カインもボドも、なんとなく、この話題をこれ以上突き詰めても、あまり良い結果にならないことを、薄々察していたのかもしれなかった。
「まあ、でも」
カインが、グラスを軽く掲げながら言った。
「行くとこまで行ってこいよ。俺は俺で、独立してやってくから」
「おう」
二人は、特に気の利いた言葉を交わすでもなく、軽くグラスを合わせた。
数週間後には、それぞれ全く違う場所で、全く違う生活が始まる。分かっていながら、その現実を、まだどちらも深く言葉にはしなかった。ただ、暇を持て余したこの数週間だけは、いつも通りの、他愛のない時間として過ぎていった。




