↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sランク盗賊(※ギルド内評価)だった俺、ロックな男に憧れて"アッシュ"と名乗り始めた ~キャラ作りは全部バレています~  作者: 中原九尾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/60

第四十五話 包丁とレオンの仲裁

「首都、行くから」


 ボドがそう切り出したのは、いつもの部屋での、何でもない夜のことだった。


「……え?」


 リゼットの表情から、みるみるうちに色が抜けていくのが分かった。


「いつから?」


「来月には」


「私は」


 その一言に、ボドは一瞬、言葉に詰まった。


「私も行く。当然、一緒に行くよね?」


「……いや、それは」


「何、その間」


 リゼットの声が、急速に温度を失っていった。


「一人で行くつもりだったの、私を置いて」


「いや、向こうでの生活、まだ何も決まってないし。お前を連れていく余裕なんて」


「余裕とか、そういう話してる? 私は、一緒にいたいって言ってるだけなんだけど」


 その日の会話は、そこから急速に悪化していった。


「私のこと、もう好きじゃないの」


「そういう話じゃないだろ」


「じゃあどういう話なの。ちゃんと説明してよ」


「四年も付き合ったのに、この時間はどうなるの?」


「いや、それとこれとは」


「結婚するって言ったよね、前に」


「……は?」


 (言ってない……! 俺、そんなこと一言も言ってない……!)


 ボドの頭の中は、一瞬で真っ白になった。だが、この空気の中で「言った覚えがない」と正面から否定することが、事態をさらに悪化させるであろうことだけは、本能的に理解していた。


「い、いや、その話は、また今度」


「今度っていつ? 結局そうやって、いつも先延ばしにするよね」


 ボドが何を言っても、リゼットの涙は止まらず、声は次第に激しさを増していった。


「私、あなたのために色々我慢してきたのに。あの刺繍の帽子も、みんなに笑われても着けてくれたし」


「いや、あれは、その」


 (頼んでない! っていうか、着けてって言われたから仕方なく着けてただけだから!)


「それなのに、こんな大事な時に、私を置いていくの?」


 部屋の空気が、限界まで張り詰めていく。そして、リゼットが台所に立ったかと思うと、次の瞬間、その手には包丁が握られていた。


「ちょ、待て、待て」


「私を置いていくなら、もう、何しでかすか分からないよ」


 その目は、正気とそうでないものの、ちょうど境界線上を漂っているように見えた。


「落ち着けって、頼むから」


 ボドは、部屋の隅まで後ずさりながら、必死に言葉を探した。だが、何を言っても、火に油を注ぐだけだった。


 この修羅場に、決着をつけたのは、翌日、事の顛末を聞きつけたレオンだった。


「二人とも、ちょっと落ち着いて話そう」


 レオンが仲裁に入ったのは、リゼットにとっても、もともと信頼していた相手だったからこそ、できたことだった。


「リゼットちゃん、聞いて。ボドくんは、お前を嫌いになったから置いていくわけじゃないんだよ」


「でも」


「向こうは、右も左も分からない土地なんだ。生活の基盤も、まだ何もない。そんなところに、大事な相手を巻き込むのは、無責任だと思わないか」


 レオンの言葉は、あくまで穏やかで、それでいて筋の通ったものだった。


「ボドくんが落ち着いたら、ちゃんと迎えに来るとか、そういう話もできるだろうし」


「……本当に?」


 リゼットが、涙目のままボドの方を見た。


「あ、ああ、うん」


 ボドは、その場しのぎのように頷いた。


 結局、その日のうちに、二人は「一旦、距離を置く」という、なんとも曖昧な形で話をまとめることになった。リゼット本人にとって、それが本当に納得できる着地点だったのかどうかは、誰にも分からなかった。少なくとも、包丁は静かに台所へ戻され、その日の修羅場は、一応の収束を見た。


「助かったよ、レオン」


「まあ、これくらいはな」


 レオンはそう言いながらも、内心では複雑な思いを抱えていた。もとはと言えば、この二人を引き合わせたのは、自分自身だった。その負い目が、こうして最後の後始末にまで、彼を駆り立てていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。