第四十話 俺はもう違う
四度目とも五度目ともつかない帰郷だったが、ボドにとって、地元メルダに戻ることは、もはやすっかり日常の一部になっていた。
「聞いてくれよ、俺、ガルシオンと仲良くなったんだよ」
ハンスの家に集まるなり、ボドは開口一番、そう切り出した。
「ガルシオンって、あの有名な」
「そう、あのガルシオン。連絡先交換して、今度また会う約束もしてる」
「へえ、すごいじゃん」
ハンスが素直に驚いた声を上げたが、隣でカインがにやにやしながら口を挟んだ。
「仲良くなったっていうか、ストーカーみたいに背中撫で回したんだろ」
「なんでそれ知ってんだよ」
「レオンから聞いた」
ボドは一瞬、言葉に詰まったが、すぐに気を取り直した。
「まあ、多少アプローチが強引だったのは認めるけど、結果的に印象には残ったわけだから」
「印象に残るって、キモい奴として、だろ」
ジークが酒をあおりながら、容赦なく突っ込んだ。
「うるさいな。とにかく、俺はもうお前らとは違うステージにいるんだよ」
「ステージって何だよ」
「有名人と繋がりがある人間と、そうじゃない人間の差だよ」
ボドはそう言いながら、ますますテンションを上げていった。
「これがきっかけで、俺、本当にスターになれる気がしてきてるんだよな。ガルシオンみたいに、いつかステージに立って――」
「その前に、彼女と激しすぎて姉貴の家追い出されたんだろ、お前」
ゴランツが、水を差すようにそう言った。
「な、なんでそれも知ってんだよ」
「カインが言ってた」
「お前、色々喋りすぎだろ」
ボドがカインを睨むと、カインは悪びれる様子もなく肩をすくめた。
「別に、面白い話だったから」
「うるさい。とにかく、俺は今、確実に上に向かってるんだよ。地元にいた頃とは、もう格が違う」
「その割には、暇な時期にオナホ洗おうとして、水道管詰まらせてなかったか」
ハンスが、思い出したように、あっさりとその話を投下した。
「なんでそれまで知ってんだよ!」
「カインが言ってた」
「お前、本当に何でも喋るのな」
ボドが頭を抱えると、部屋の中に、堪えきれない笑いが広がった。
「つーかそもそも」
ジークが、笑いを堪えながら口を挟んだ。
「あれって、洗って使い回すものなのか?」
「知らねえよ、そんなこと」
「知らねえのに洗おうとしたのかよ」
「うるさい黙れ」
「いや、でもさ」
ジークが、笑いながらも続けた。
「スターになる話してる横で、水道管の話出てくるの、なかなか壮絶だぞ」
「うるさい、黙れ」
「格が違うんだろ、俺らと」
「うるさいって言ってんだろ」
ボドは不貞腐れたように酒をあおったが、その顔は、怒りというより、諦めに近い表情をしていた。
どれだけ胸を張って新しい自分を語ろうとしても、この輪の中では、すぐに過去の恥ずかしい話が引っ張り出されてくる。その構図だけは、何年経っても変わらないらしかった。
「まあでも」
ハンスが、ひとしきり笑ったあとで、ぽつりと言った。
「ガルシオンと繋がれたのは、普通にすごいと思うぞ」
「だろ」
「その前後の話がアレなだけで」
「うるさい」
結局その夜も、ボドの「格の違い」は、地元の面々には、最後まで正しく伝わることはなかった。




