第三十九話 何か変わった?
その夜、部屋に戻ったボドは、いつになく浮かれた足取りでリゼットの部屋を訪ねた。
「なあ、俺、何か変わったように見えないか」
「え、何が?」
リゼットは、通信端末の画面から目を離さないまま、生返事を返した。
「今日さ、ガルシオンと連絡先交換したんだよ」
「へえ、良かったじゃん」
その反応の薄さに、ボドは若干の物足りなさを覚えた。
「いや、『良かったじゃん』じゃなくてさ。あのガルシオンだぞ。あの人と、今度また会えるかもしれないんだよ」
「うん、聞いてる」
画面から目を離さないまま、リゼットはそう答えた。
「なんか、俺の雰囲気とか、変わって見えたりしない?」
「別に、いつも通りだと思うけど」
あまりにあっさりとした返答だった。ボドは、鏡の前に移動し、自分の顔を色んな角度から確認し始めた。
「いや、絶対なんか変わったと思うんだけどな。目つきとか」
「ねえ、それより」
リゼットが、ようやく端末から顔を上げた。
「今日、外で誰かと話してた? さっき、通りで見かけたって子から連絡来て」
「え、ガルシオンの話は」
「それより、誰と話してたのか教えて」
話題は、あっという間に、ボドの武勇伝から、彼女の疑念へと切り替わっていた。
「別に、工房の先輩と少し話してただけだよ」
「女の人?」
「男だよ、普通に」
「ふうん」
その「ふうん」には、まだ完全には晴れていない疑いの色が、わずかに滲んでいた。
「まあ、そんなことより」
リゼットは、それ以上追及する気も失せたのか、あっけらかんとした調子で話題を変えた。
「最近、仕事も落ち着いてきたし、今度デートでも行こうよ」
「……ガルシオンの話は」
「え、もう終わりでいいでしょ、それ。ね、デート、どこ行く?」
あまりの切り替えの早さに、ボドは何も言い返せなかった。
結局その夜、ガルシオンとの一件について、リゼットが興味を示すことは、最後まで一度もなかった。ボドは何度か話を戻そうと試みたが、そのたびに、彼女の関心は別の方向へと逸れていった。
「まあ、いいけどさ、別に」
諦め半分でそう呟いたボドの声は、誰にも届かないまま、部屋の空気に溶けていった。
自分の人生における、ちょっとした転機だと思っていた出来事は、少なくともこの部屋の中では、大した話題にすらならなかった。その事実に、ボドは静かに、少しだけ傷ついていた。




