第三十八話 あれは引いた
「そういえば、この前の興行、ガルシオン呼んだんだって?」
その日、フェリシオンに来ていたカインが、レオンにそう水を向けた。ボドの姿は、その場になかった。
「呼んだよ。で、ボドくんがまあ、やらかしてくれてさ」
「何やったんだよ、あいつ」
レオンは、思い出すだけでも若干顔をしかめながら、その日の顛末を語り始めた。
「握手した流れで、なんか腕から背中まで撫で始めてさ」
「は?」
「ガルシオン本人も『何してんの』って真顔になってた」
カインが、思わず噴き出した。
「あいつ、そんなキモいことしたのかよ」
「しかも、自分の名前が、ガルシオンの曲から取ったって、本人に直接言っちゃってさ」
「うわ、それ相当キモいだろ」
「キモかったよ、正直。周り全員、若干引いてた」
レオンはそう言いながら、当時の光景を思い出すように、軽く肩をすくめた。
「でも、なんか知らないけど、それで逆に印象に残ったみたいで、連絡先交換までしてたんだよな」
「あいつ、悪運だけは強いよな、昔から」
「悪運っていうか、変なやつだと思われて記憶に残っただけだと思うけど」
カインは、笑いを堪えきれない様子で、しばらく肩を震わせていた。
「でも、本人は完全に『仲良くなれた』と思ってるっぽいんだよな、あれ」
「まあ、あいつはそういう奴だから」
「地元でも変わらないもんな、そういうとこ」
「変わらないよ、たぶん一生」
二人は顔を見合わせ、軽く笑った。
「にしても、背中撫でるのはさすがに引くわ」
「まあ、それがボドくんだから」
レオンがそう締めくくると、カインは「違いない」と言いながら、酒を一口あおった。
この会話が交わされたことを、当のボドは、もちろん知らない。彼の中では、あの夜は今でも「ガルシオンとの絆が生まれた特別な夜」として、美しく記憶され続けていた。




