第三十六話 諸悪の根源
「なあ、最近気づいたんだけどさ」
フィオナが、レオンの店のカウンターにもたれながら、思い出し笑いを堪えるような顔で切り出した。
「ボドさん、カインが来るタイミングだけ、やたら勘がいいの、知ってる?」
「ああ、それ俺も気づいてた。絶妙なんだよな、あれ」
レオンがそう頷くと、ちょうどそこへ、当のカインが店に顔を出した。
「何の話ですか」
「お前の噂」
「俺の?」
「お前が来る日だけ、ボドくんも必ず来るって話」
カインは、一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに合点がいったように笑った。
「ああ、監視されてるって話ですか。知ってますよ、それ」
「知っててそのままにしてるのかよ」
「本人、隠してるつもりみたいなんで。まあ、いいかなと」
フィオナが、少し意地悪な笑みを浮かべた。
「でもさ、そもそもの原因、カインだよね」
「え、俺ですか」
「お前が俺たちに色々ベラベラ喋るから、ボドくんが警戒するようになったんだろ」
レオンがそう指摘すると、カインは一瞬、言葉に詰まった。
「まあ……それは、否定できないっス」
「諸悪の根源、お前じゃん」
「そんな大層な言い方しなくても」
「排水管の話とか、姉貴の家の話とか、全部お前の口から出たやつだろ」
「うっ」
カインが、珍しく気まずそうな顔をした。
「お前が余計なこと喋らなければ、ボドくんも、こんな健気に張り込みなんてしなくて済んだんじゃないか」
「健気って言い方、なんか違くないですか、あれ」
「じゃあ、何て言えばいいんだよ」
「まあ、ちょっと涙ぐましいとは思いますけど」
フィオナが、我慢できずに噴き出した。
「お前が撒いた種を、お前が刈り取られないまま、ボドさんだけが警戒してるの、シュールすぎない?」
「いや、俺、別に何も刈り取られてないですけど」
「刈り取られてないのが、逆にすごいんだって」
カインは、しばらく反論を試みたが、レオンとフィオナの息の合った追及に、次第に旗色が悪くなっていった。
「まあ、いいじゃないですか。実害、俺には特にないんで」
「実害ないのが、一番腹立つパターンなんだよな、これ」
レオンがそう言うと、フィオナも大きく頷いた。
「今度会ったら、教えてあげたら? 監視されてるの、原因はお前だよって」
「それは、絶対言わないです」
「なんでだよ」
「面倒くさいことになるのが目に見えてるんで」
その返答に、レオンとフィオナは顔を見合わせ、揃って笑い出した。
「お前、そういうとこだけは、妙に賢いよな」
「まあ、生きる知恵ってやつです」
カインは悪びれる様子もなく、そう言って酒を注文した。店内には、しばらくの間、彼をめぐる笑いが絶えなかった。




