第二十六話 武勇伝対決
二度目の帰郷は、年末年始でもゴールデンウィークでもない、唐突なものだった。
「え、なんだよ急に」
連絡もなしに顔を出したボドを見て、ハンスが驚いたような声を上げた。
「まあ、ちょっと休みたくなってさ」
その顔色を見て、ハンスは何かを察したのか、それ以上は深く聞かなかった。
「アッシュさんじゃん」
噂を聞きつけたのか、その日のうちにジークとゴランツも顔を出した。
「呼ぶな、それ」
いつもの反射的な拒否だったが、二人はもう慣れた様子で聞き流した。
「フェリシオンはどうよ、最近」
ゴランツがそう聞いてきたのをきっかけに、ボドの口が軽くなった。
「まあ、色々あるけどさ。実は今、けっこう危ない酒場で働いててさ」
「危ない酒場?」
「客層がやばいんだよ。武器持ったまま飲んでる奴とか、指の何本か欠けてる奴とかザラにいてさ」
「へえ」
ゴランツの目の色が、少し変わった。
「まあ、俺もその辺の連中とは、それなりに渡り合ってきたけどな」
「なんだよ、張り合うのか」
「いや、張り合うわけじゃないけど、俺もこの前、清掃の現場で結構やばい筋の人と揉めそうになってさ」
「その話、もう聞き飽きたって」
ハンスが横から茶々を入れたが、ゴランツは気にせず続けた。
「相手、明らかに堅気じゃない目つきしててさ」
「俺の店の客、もっとやばいけどな。目の焦点合ってない奴とかもいるし」
「うちの現場も負けてねえよ。この前なんて、怒鳴られただけじゃ済まなくてさ」
二人の話は、次第にどちらがより「修羅場をくぐってきたか」を競うような様相を呈していった。
「お前ら、いい加減にしろよ」
ジークが呆れたように口を挟んだ。
「どっちも大して危ない目に遭ってないだろ、実際」
「うるせえ、俺は本当にヤバかったんだよ」
「俺だってそうだよ」
ハンスが小さく笑いながら、酒を注ぎ足した。
「お前ら二人とも、地元帰ってくるとその手の話ばっかだよな」
「別にいいだろ、事実なんだから」
ゴランツとボドが、ほとんど同時にそう言い返した。その息の合い方に、ハンスとジークが顔を見合わせて笑った。
「にしても、お前」
ひとしきり盛り上がったあと、ゴランツがふと、ボドの顔をまじまじと見た。
「なんか、老けたか?」
「は?」
「いや、なんか疲れてる感じするけど」
「そんなことないだろ」
「あと、心なしか、髪も心なしか……」
「その話はいい」
ボドが慌ててそう遮ると、ジークとハンスが小さく吹き出した。
「まあ、無理すんなよ」
ハンスがそう言って、話を締めくくった。ボドは何も言い返さず、黙って酒をあおった。
その夜、久しぶりに何の気負いもなく過ごせた時間の中で、ボドはようやく、少しだけ体の力が抜けていくのを感じていた。




