第二十三話 俺の生活、ロックすぎる
この頃のボドの一日は、自分の中で、ある種の完成形に近づきつつあった。
昼過ぎに起きて、レオンの店に顔を出し、寡黙な男を演じる。夕方から夜にかけては、あの物騒な酒場でカウンターに立つ。仕事が終われば、リゼットの部屋に転がり込み、酒を酌み交わしたあと、明け方近くまで彼女と過ごす。合間を縫って、ギターの練習だけは欠かさない。
――これ、完全にロックな生き方じゃないか。
誰に見せるでもなく、ボドは一人でその生活リズムに酔いしれていた。危険な酒場、気まぐれな恋人、寡黙な男の仮面、そして音楽への情熱。パーツだけを並べれば、確かにそれらしい響きがあった。
「今日も疲れた?」
リゼットが、酒瓶片手にそう聞いてくる。その声には、心配というより、彼が今日一日どこで何をしていたのか、確認せずにはいられない響きがあった。
「まあ、色々あってさ」
「あの店の女の子と、また話したりした?」
「別に、店員以外と話してないけど」
「ほんとに? ちゃんと言ってよ、隠し事されるの、一番つらいから」
リゼットの目は、笑っているようで、笑っていなかった。ボドが少しでも言葉を濁せば、その表情はすぐに曇り、部屋の空気ごと変わってしまう。だから、ボドはいつも、必要以上に丁寧に、その日あったことを説明する癖がついていた。
「危ない仕事なんでしょ、アッシュの」
「まあな」
「だったら、絶対無理しないで。もし何かあったら、私、生きていけないから」
あまりに重い一言を、リゼットはあっさりとした調子で口にした。ボドはそれを、尊敬とも心配ともつかない目で見つめられているものとして、都合よく受け取っていた。
本当は、この手の言葉を向けられるたび、ボドの中では小さな緊張が走っていた。うっかり彼女の機嫌を損ねれば、その夜はもう終わらない。泣かれるか、責められるか、あるいはその両方か。だから、彼はいつも、リゼットの顔色を確認しながら言葉を選ぶようになっていた。それすらも、この時のボドは「彼女に愛されている証拠」として、頭の中で処理していた。
明け方、リゼットの部屋を出て、そのままフラフラした足取りでギターを手に取る。寝不足のまま弦を弾く指は、思うように動かなかったが、それすらも「破滅的な生活の中で紡ぐ音楽」という物語の一部として、勝手に美化していた。
「アッシュさん、最近隈すごいっすね」
レオンの店に顔を出した際、トビアスにそう指摘された。
「まあ、色々忙しいからな」
「彼女さんとです?」
「……まあ、それも含めて」
「不健康そうですけど、大丈夫ですか」
心配する口調ではあったが、ボドの中では、それすらも「危険と隣り合わせの生活を送る男への気遣い」として変換されていた。
「大丈夫だよ、これくらい」
実際のところ、大丈夫かどうかは、この時点ではまだ本人にも分かっていなかった。ただ、少なくとも本人の主観の中では、この生活サイクルの全てが、着実に「理想の自分」に近づくための材料として積み上がっていた。
睡眠不足、栄養の偏った食事、絶えない酒。それらが後々どんな形で自分に返ってくるのか、この時のボドは、まだ深く考えていなかった。




