↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sランク盗賊(※ギルド内評価)だった俺、ロックな男に憧れて"アッシュ"と名乗り始めた ~キャラ作りは全部バレています~  作者: 中原九尾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/60

第二十一話 その筋の話

 二十五歳、フェリシオンでの生活にもようやく慣れてきた頃、ボドが職を得たのは、繁華街の一番奥、看板もろくに出していない酒場だった。


 店の名前を知っている者より、店の存在自体を知らない方が多いような、そういう類の店だった。カウンターに並ぶ客の中には、堂々と武器を帯びたまま酒を飲む者もいれば、指の何本か欠けた男が、それを気にする様子もなく杯を傾けていることもあった。奥の席では、目の焦点が合わないまま、怪しい粉を小瓶からあおっている客の姿を見かけることもあった。表通りの喧騒とは、明らかに空気の質が違う場所だった。


「新入り、ビビってんなよ」


 初日、店主にそう言われたのを、ボドは今でもよく覚えている。ビビってなどいなかった。むしろ、これ以上ないくらい浮かれていた。


 ――こんな店で働いてる自分、なかなかロックだよな。


 給料は正直、割に合わなかった。だが、ボドにとってはそんなことより、この空間に自分が立っているという事実の方が、よほど価値があった。地元の同年代が普通に会社勤めをしている頃、自分はこんな、堅気には縁のない場所で酒を注いでいる。それだけで、他の誰とも違う特別な人間になれた気がした。


「お前、目つき悪くなったな」


 ある日、常連の一人にそう言われた。凶悪な意味ではなく、単なる軽口だったのだろうが、ボドはこれを、勝手に誇らしい称賛として受け取った。


 (そりゃそうだろ。俺はもう、あっち側に片足突っ込んでるんだから)


 カウンターの奥で酒を注ぎながら、ボドは自分の中で、着実に「特別な男」になっていく感覚を味わっていた。実際にやっていることは、注文を聞いて酒を出し、時々絡んでくる酔客をあしらうだけの、ごく普通の仕事だったが、その事実には、あまり目を向けないようにしていた。


「今日も、ロックな一日だったな」


 仕事終わり、誰に言うでもなく、そう独り言ちる。


 誰かに聞かれるわけでもないのに、その一言を口にするだけで、ボドの中では、自分がまた一段、危険な世界に近づいたような気分になっていた。


 この店で働いていることを、ボドはまだ、地元の誰にも話していなかった。話せば面白がられるだろうとは思っていたが、それ以上に、この「危険な世界に片足を突っ込んでいる自分」というイメージを、当分は自分だけの秘密にしておきたい気持ちの方が強かった。


 それがいつか、酒の席で誰かに披露する日が来るのか。あるいは、ふさわしい聞き手に出会うまで、じっくり温めておくことになるのか。この時のボドには、まだ分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。